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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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「結局のところ、形というものは時代に合わせて変わってゆく。神秘が暴かれ、科学が台頭した現代では丑の刻参りは呪詛としての原型という意味合いが強い。間接的、マイナスプラシーボ、露見、この三点を呪いの定義とするならば、ストーキングを呪いと評しても問題はないだろう。さて、ここからが本題だ。その定義に当てはめるとするのならば、キミに起きている現象を何と呼ぶ?」

 それは長い前フリだった。全ては最初に帰結する。紗雪が今ここにいる理由、そして、告げられた言葉。意図したわけでもなく、水が隙間から漏れていくように声が沙雪の口から形となっていた。

「……呪い」

「そういうことだ。定期的な意味不明の電話はマイナスプラシーボ――睡眠障害などのノイローゼを誘発し、かつ、キミに一切触れることなく間接的に傷つけている。加えて、正体不明の電話というものが、露見――呪っていると伝えているようなものだな。本人がどう思っているかはわからんがな。こういうものは身勝手だからこそ、よくわからない」

 少年は沙雪の方を一瞥し、黒髪を手櫛で梳いた。そこには同情や憐憫は見えない。淡々と告げるべきことだけを口にするそれは、医者と患者の関係を思わせた。

「あ、あの、呪いというのはわかったんですけど、どうすればいいんですか? お祓いとかすれば大丈夫ですか?」

 聞き役に回っていた笑が、質問を投げかける。その問いは自身に降りかかっていた事象に考え込んでいた紗雪に、覚醒を促した。現状を確認するために来たのではなく、目的は解決だ。沙雪はまだ肝心要を聞いてはいない。

 縋るような、期待を込めた視線を少年に向けるが、表情は変わらず涼しい顔だ。先程から何も変わっていない。だからこそ、紗雪は回答もすんなりと答えてくれるのだろうと思っていた。だが返事は、否定から始まった。

「呪いの解除か。そんなものは存在しない」

「えっ、どうしてですか! 呪いが存在するのならテレビやゲームみたく解くことができるんじゃないですか!」

 期待を裏切られた沙雪の疑問は、怒声となって辺に響いた。そこには熱があった。沙雪の身に起きていることは、気持ち悪いナニカだった。ただただ薄気味の悪い、不愉快なストーカーまがいの現象だ。だがそれに名前がつき、メカニズムが解明された。例えるのなら、わけのわからない難病に苦しんでいたが、病名を告げられ、症状の詳細を教えてもらった状態だ。けれど、一番大事な治療法が分からないと言われた。それは彼女の内で沈んでいた澱のような苦悩が、不満の声を上げるのに十分だった

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