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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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 やわらかな声音は、まるで包むような弾力を持って紗雪の言葉を遮った。心地よい響きを持った問いかけは、発言をじゃまされた怒りなど生じさせず、ふわりと雪が大地に着地するような速度で胸に降りてきていて、気づくと紗雪は返事をしていた。

「どうって、それは、藁人形を五寸釘で打ったらじゃないんですか」

 テレビの再現シーンか映画の一コマで、白装束の女性が藁人形に五寸釘を打ち込む度に、呪いをかけられているであろう人は胸を押さえ苦しんでいた。その光景を思い出しながら答えたものの、それが余計に紗雪の中で呪いの不確かさを明確にしていた。

 本来は恐怖を煽るものなのだろうが、そのタイミングの良さと都合の良さが滑稽で、呪いというものの嘘臭さを倍増させるだけだ。

 自身のある返答だったが、またしても返ってきたのは否定だった。

「違います。場合によってはあるでしょうが、それは呪いが発動してからの話です」

「じゃあ、一体、いつだっていうんですか?」

 疑問と予想していなかった返答に、少しだけ荒くなった声が紗雪の口から漏れた。

 それに少女は気分を害した様子も見せず、ゆっくりと正解を語りだした。

「呪いというものは、自分が呪われていると知らなければいけないんです」

「……自分が呪われていることを知らなければいけない」

 オウム返しのように紗雪がつぶやくと、少女が小さく頷いた。

「呪いがマイナスプラシーボーー思いこみだというのなら、思いこまなければいけないんです。……自分は恨まれ、妬まれ、死を願われていると」

「真夜中に白装束で、頭にはロウソクをのせ、何度も何度も五寸釘を藁人形ごと御神木に打ち込むんだ。いくら草木が眠る時刻とはいえ、誰にも知られないなんてことはあり得ない。そして、知る人がいれば、正体はいづれ知れる」 最後の結末がどうなるか予想できたが、紗雪も笑もなにも言わなかった。無言で少年と少女が語る呪いの顛末を聞いていた。 

「正体がわかれば、全ては白日の下に晒されます。名前に人間関係や最近の事情、それだけわかれば後は簡単です。間接か直接かはあるでしょうが、耳には入るでしょう」

「ーーアイツがお前を呪っていた、とな」

 それはきっと善意なのだろう。確かに、知らないままで済ますことのできない事実だ。だが、知ったからといって、どうにかなるものでもない。それはもう、起こってしまったことなのだから。

「丑の刻参りなんて昔の例ではなく、もう少し今風の方がわかりやすいか。たとえば、今住んでいる家で昔自殺があったとしたら、どうなる? 自殺が嫌だというのなら、幽霊が出ることでも構わないぞ。気持ち悪いだろう? 知りたくないだろう? それが呪いだよ。知ってしまえばどうしようもない恐怖、それが呪いの本質だ」

 二人が語った呪いはリアルな想像を伴って、紗雪に意味を理解させた。先ほどまであった嘘の匂いは薄れ、どこか薄ら寒いものを感じさせた。だが、その一方で拭えない疑問が紗雪の中で首を傾げていた。

「……呪いというものは、理解できました。でも、なんというか、大げさな気がします。確かに、気持ち悪いです。でも、さっきの例なら引っ越せばいいだけですよね? ーー誰も死んだりはしませんよね」

 紗雪が気になっているのは、呪いというもののスケールの大きさだ。かかる理由は納得できた。けれど、そんな大それたものとはとうてい思えなかった。それこそ、呪いと言えばよく死と結びつくが、さすがにありえない話にしか感じなかった。

 けれど、そんな紗雪の思いは再度否定された。

「いいや、呪いは死に至るよ。そして、僕たちはそんな呪いを目にしているよ」


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