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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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「呪いというものは、多くがマイナスプラシーボ効果が原因だ」

「……マイナスプラシーボ、ですか?」

「……もしかして、偽薬効果の反対ってこと?」

 聞いたことのない単語に紗雪が疑問符を浮かべると、問いかけるようではあったがおそるおそるといった調子で笑が口を開いた。

「はい、そうです。それで間違いありません」

 教師が質問に正解した生徒を誉めるように顔を綻ばせて少女は言ったが、そもそも偽薬効果の意味がわからない紗雪は首をひねった。

 疑問がありありと顔に出ていたのか、軽いため息が聞こえた後説明するように少年が口を開いた。

「偽薬効果は、薬の効能を実証するために行う行為だ。本来の薬に加え薬効のないビタミン剤などを混ぜ、効能があるか試すことだな。簡単に言えば、思いこみという奴だ」

「思いこみ、ですか?」

「そうだ。たとえば、風邪を引いたときなどに、特製のお粥やおじやなどを食べないか? そして、それを食べ終わると、体が楽になったことはないか?」

「あっ、あります!」

 紗雪が熱を出たときなどに作る母の卵粥は、食べると体はあたたかくなり、元気が出た。薬や水分補給のために飲まされるスポーツ飲料よりも、一番に効く特効薬だった。

 懐かしき母の味を思い返していると、冷や水を浴びせるような冷静な声が紗雪の耳朶を打った。

「だが、それ自体にはそこまでの効能は、ない。食べ物よりも薬の方が効くのは明白だ。となると、ずいぶんとおかしな話だ」

「そ、そんなことはーー」

 子を思う母の手料理を否定するような言葉に、文句を告げようするが、紗雪の発言より先に少年の口から漏れたのは意外にも肯定だった。

「ーーないんだろう。それが偽薬効果という奴だ。風邪に効くと伝えられることにより、それ自体の効能を無視して結果を与える。そして、その逆がマイナスプラシーボだ」

「よくあるたとえでいうと、学校に行きたくないと思っている人が、通学時間に腹痛をもよおしたり、行きたくない場所に行こうとすると頭痛がしたりする場合ですね」

 少女が上げた例は覚えがあるとまでは言わないが、紗雪にも心当たりくらいはあり、納得するには十分だった。けれど、同時に疑問も思い浮かぶ。

「マイナスプラシーボというのは、わかりました。でもだからって、それで人が死ぬのは大げさじゃないですか?」

 話半分という言葉があったとしても、火のないところに煙は立たない。

 呪いというものがこうして後世まで伝わっている以上、そこには幾ばくかの真実があり、実際に丑の刻参りで死んだ人間がいるのだろう。だが、マイナスプラシーボというものが存在するとして、はたして、イコールと死が結びつけられるのだろうか。

 腹痛や頭痛、もしかしたら、胃痛もあるかもしれない。そこまでは納得できるだろう。だが、それ以上は思いこみの範疇を越えている。どうやっても、ありえない気がして紗雪は問いかけたが、それに対する答えも肯定だった。

「そうだな。マイナスプラシーボという効果だけでは不可能だな」

「だったらーー」

「ーー呪いというものはどういう風に、発動すると思いますか?」

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