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「はぁ……まぁーここで遭ったのも何かの縁だしね。いいわ、村に着くまでなら質問に答えてあげる。でも、私だって知らないことがあるし、詳しく説明できないものだってあるから、その辺は諦めなさいよ?」
そう苦笑しながら俺の質問に応じる姿勢を見せてくれたリンさんに感謝しつつ、質問していく。
「ありがとうございます。ホント助かります」
両手を合わせて拝んでみる。
「やめてよ!そんな大したことしてるわけじゃないんだから」
照れ笑いしつつ怒るリンさん。
器用だな~……
「んで、まず教えて欲しいのが、お二人は冒険者だって言ってましたけど、それって自称ですか、それとも職業として成立してるんですか?」
「あんたもなかなか良い根性してるわね……まぁーいいけど……。
そうね、ギリギリ職業っていってもいいのかなぁ……世界政府ってのがあってね、そこが冒険者ギルドってのを運営してるのよ。そこに登録すると、ギルドが仲介者になって仕事を卸してくれるってわけ。もちろん登録は誰でもできるし、支部も結構あちこちあるわよ」
なるほど、大体予想通りの仕組みだな。
誰でも登録可能ってのはデカい。
異世界でいきなり路上生活者になるとかマジ勘弁だし……。
それに一ヶ所に留まって仕事をするよりも、あちこち周った方が情報も集まるだろうし。
「うーん……僕もその冒険者になりたいと思うんですが、仕事って選べるんですか?一応武術の心得があるんですが、いきなり物凄い怪物と戦うとかは無理だと思うんですよね」
「それが一番無難かもねぇ……記憶もない素性の怪しい奴を雇ってくれるとこなんてそうそうないだろうし。
まぁー安心して、ランクってのがあって最初は一番下のEから始まるんだけど、このクラスは見習い扱いだから、そうそうきつい仕事はまわされないわよ。その代わり報酬も安いけどね」
よしよし、まぁー最初は生活が苦しいかもだが、なんとか生きていけそうだな。
「ちなみにリンさん達のランクはどこなんですか?」
そう聞くと、リンさんはニヤニヤしながら振り返り
「私とルーはねぇ……なんと上から2番目のAランクなのよー?むっふっふー」
と口に手をあてながら完全な自慢をしてきた。
子供か!!お約束で尻尾がユラユラ揺れちゃってますよー!!
と思いつつも……
「えぇぇぇぇ!?めちゃめちゃすごいじゃないですかぁあああ!!かっこいーなぁお二人とも!!」
日本人の美徳を忘れてはいけないよね?まぁーホントに驚いてもいるしね。
「そうでしょー?尊敬してくれてもよいのよー」
むっちゃ胸張って喜んでる……褒めた甲斐がありすぎるんですけど!
……ん?えっっっ!?
俺はその時、まさかの光景を目の端で捉えてしまっていた……
ルーカスさん……尻尾が左右にめっちゃワッサワッサなっとる……この人……リンさんの言う通り……いい人なんだな……
ルーカスさんへの評価がグングン上がっていく中、それを表に出さないよう「冷静に冷静に!」と心の中で唱えながら次の質問をリンさんにする。
「高ランク冒険者のリンさんにお聞きしたいんですが、お金の単位と価値を教えてもらえないでしょーか?」
リンさんはかなり上機嫌に答えてくれる
「お安いご用よ!!」
と言い放ち、例のショルダーバッグから折り畳みの財布を出してきた。
「お金は紙幣っていう種類で3つ、それから硬貨で6つ。単位はネスよ。これが1万ネス、こっちが5千、んでこれが千。硬貨は順番に500、100、50、10、5、1よ」
偶然の一致にビビるな……日本円と色やら形やらは違うが数字の区切り方とか一致する箇所がめっちゃある……すげー覚えやすい……あざっす!
「大体、安宿で一泊5~6千ネスくらいで、普通のが1万くらいね。外食するなら一食が大体500~千ネスくらいかしら。んで、見習い冒険者が1日で稼げる報酬が大体1万~1万2千くらいかしらね」
「それならなんとか毎日、屋根のあるところで寝れそうですねー」
「まぁーねぇ。でも戦闘系の依頼をこなしたとして、そこまで大変なものはないけど、やっぱりそれ相応の装備を整えなきゃならないし、それを維持しないといけないわけだから、最初は苦労するかもしれないわね。雑費ってのは結構嵩むもんなのよねぇ……」
すげー遠く見てる……経験者は語る……だな。
金のやりくりはその時になってから考えるとして
「この世界の貨幣は統一されているんですか?どっか違う国ではお金が違うとかってあります?」
「大昔はあったみたいだけどねー7部族の首長が世界政府を創設したときに銀行ってのが生まれたのよ。その時に貨幣は世界共通になったらしいわ」
なるほどな……結構、安定的な体制を作り上げているんだなこの世界。ナイスだぜ!
心の中で誰かに親指を立てつつ、さっき出てきた7部族の首長について聞いてみることにする。
「その7部族っていうのはなんなんですか?」
この質問はしなきゃよかったと後悔した……
なんせ前のお二方共「ピタリ」と歩くのを止め、こちらに振り返り、俺を「じぃぃぃぃぃ」と睨み付けてきたのだ。
そして
「……………………はぁ~~、あなたってホントにこの世界の人間?」
ドキッッッッッ
「なななななななな、何言ってててんすかリンさ~ん、あああ当たり前じゃないすかぁ~」
動揺しすぎだ俺……
「何そのあからさまな動揺……ふぅ……まぁーいいわ」
と渋々納得してくれたリンさんは、再び前を向き、歩き始める。
もちろんルーカスさんもだ。
ルーカスさんは振り向き様にかなり困惑した目を俺に向けてきた。
だが何も言わないところを見ると、もはや俺のことは完全にリンさんへ丸投げしたようだ……。
苦笑いしつつ、俺も2人の後について行く。