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「スゥゥゥ……ハァァァ……」

俺は一度深呼吸をすると起き上がり、周りをもう一度確認した。


携帯電話の光でぼんやり照らされているその場所に向かい、それを拾う。


次にズタボロにされたバッグの状態を確かめる……までもなかった。


はぁ……柔道着と帯以外はここに捨てていくしかないな……

苦笑いしつつ、作業に取り掛かる。


中からその2つを取りだしボロボロの柔道着を折りたたみ、奇跡的に損傷の少ない帯で結ぶ。


っとそこまでしてようやく気が付いたのが、自分の状態だ。

所々にこびり着いている血や肉片…それを認識した途端、胃の中から何かが逆流するのを感じた。

急いで川まで走り、そこで思いきりぶちまける。


少しして落ち着いたら、川の水で口を濯ぎ、手を洗う。

血が多く着いてるシャツの匂いも気になったので、その場で脱ぎ、簡単に水洗いした。


そうこうしているうちに、頭も働き始め、さっきの化け物どものことや、今いる場所のことについて考え始める。


「マジでここ、どこなんだ?あんな化け物がいるなんて聞いたことないし、それにあの剣やナイフ……日本にポンポンあるようなもんじゃないぞ」


色々浮かんでは消えていく思考に俺は混乱を増していく。


さっきまで落ち着いていたはずなのに、また発狂しそうなほど不安や恐怖がせりあがってくる。


そんな自分に気付き、一旦深呼吸をして落ち着かせる。


風の音や川の音を聞くことで心を鎮める努力をする。

未熟だな……つくづくそう思う。


だけど今はこうやって自分を保つしかないのもまた事実だ。


情けないが、これしかない……

とにかく突き進むしかないんだと自分に言い聞かせる。


そうやってやっと落ち着くことができてから、次の行動について考える。


と言っても、今の状態じゃ取れる選択肢は全然ないよな……

とりあえずこの森を出て、人を見つけること。

簡単だけど、そんなとこか。


目的も定まったので、さっそく移動することにする。

「改めて見ると、この場に留まってること自体が危険だったな……血の匂いがたちこみすぎてる」


頭も働き、心が落ち着いてくると、様々な感覚が鋭敏になってくる。


そして自分が奪った命の感触も蘇ってきた……


まぁ……あの場合は仕方なかったよな。

それに今さら後悔しても遅いか……

そう思うことにして意識を切り替える。

気のせいか、なにやら複数の気配がこちらを伺っている気もするので、早々に移動を開始する。




再び携帯の光を頼りに夜の河原を下る。


環境に慣れたのか、多少の空腹と渇き、疲れを感じるが足取りはまだ軽い。


そう思いながらしばらく移動していると、空も明らんできた。

「あっちから太陽が昇るってことはあっちが東なのかな……」

などと呟きつつ、さらに移動していると……


「あっ!」と思わず声をあげてしまうほどの光景が目の前に広がった。


そこには広大な湖が広がっていた。


河口付近が森の出口のようで、湖の向こう側は草原のようになっている。


ちょうど俺が歩いてきた川に対して湖を中心にYの字でさらに川が流れているようだ。


ひとまず森を抜けれた安堵感が半端なく、思わず「いやっほーい」と叫びながら湖の外周を走ってしまった。


ひとしきり、はしゃいだ後に「結局、水も食料もないし、死ぬ一歩手前なのは変わらないな……」という事実に気づくまで……




1時間ほどで休憩と仮眠を済ませたくらいに、携帯の電池が切れた。


ここまでよくがんばってくれたなぁ……という感慨と、このまま夜になったらマジでやばいという不安が同時にわき上がる。


まぁ~いちいち不安がってもキリがないし、とりあえずどっちに進むかを決めるかな……


もちろんどっちの川づたいを行くかってこと……だが……


「ん?あれは?」

俺の視界が上空に揚がるあるモノを捉えた。


俺が見るのは今まさにどっちに行こうか迷っていた川の一方の先であがっている白いモヤだ。


あれは……煙?もしかして人がいるのか?


逸る気持ちを抑えながら、柔道着片手にそちらに向かって走る。


Yの字の左の川沿いを10分ほど走ったところで少し先に人影が2人、たき火を囲んで座っているのが見えた。


俺はもう、うれしくてうれしくて仕方なく、大声で「おーい、おーい!!」と呼び掛けながら、右手をブンブン振った。


その2人はすぐ俺に気づいたようで、立ち上がり、一方は槍を、一方は短剣を2本それぞれ両手に持ち、こちらに向かって構えをとる……そして……


「とまれ!!それ以上近づくな!!」


と…ってえぇぇぇぇ!?まさかの威嚇!?

いやいやいやいや、なんで!?なんでそうなるんすか!?

っと驚愕しながら俺はその場に足を止める。


「あのーーすいませーーん!俺、一般人でーーす!遭難者でーーす!助けてくださーーい!」


だいたい、6、70メートルぐらい先にいるお二方に、俺は必死の救難信号を送る。


そんな俺に対して全然警戒を緩ませることなく、2人組の一方が俺に声をかけてくる。


「お前、どこの種族の者だ?ハーデスか?なぜあの森の方から現れた!?冒険者ならギルドカードを見せろ!!俺達に近づいてきた理由はなんだ!?」


いやいやいや、何言ってんのあの方!?しかも質問の数多いよ!?そんな悪いことしたか俺!?


「ちょちょっと待ってくれよ!!あんたが何言ってんのか全然わかんないんですけど!!とりあえず俺は単なる善良な遭難者なんだよ!!いきなりあの森にほっぽり出されて、命からがらやっとここまでたどり着けたんだよ!助けてくれよ!見ればわかるだろ!?武器どころか飲み水もないんだぞ!!」

と叫び、俺はその場で両手を挙げながらグルッと回った。


すると向こう側で何やら話し合いが始まったようで、俺はポツンとそれをしばらく眺める羽目になった。


こりゃダメかな?と泣きそうな気分になってきた頃、何やら結論が出たようで、2人がこちらを向く。


「わかった。とりあえずゆっくりこちらへ来い!!その代わり、少しでも妙な仕草をしたら……わかってるな!!」


「え?……あ、あぁ……わかってる」

よっしゃあっっっ!!

あぁ~よかったぁ……これでまたこんなとこに置き去りにされたら洒落にならなかったぁ……

ホントよかったぁ……


俺は胸の内に込み上げてくる安堵を痛いほど感じながら、(たぶん)恩人(になってくれるであろう)2人に向かって歩いていった。



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