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「た~いちょ~~」
「ん?」
どこか間の抜けたそんな声に振り向く赤髪の男。
それと同じ方向へを俺も視線を向ける。
すると目の前の男と同じ服と装備を身に付けた人物が2頭の馬に引かれた馬車に乗り、こちらに手を振りながら向かって来るのが見えた。
「では改めまして!助けていただきありがとうございました!」
俺は赤髪のドラグーン、レコンさんに頭を下げる。
「いやいや、民を守るのは我が務め……気にせずともよい」
「そうですユウさん。頭なんて下げないでください。隊長から人助けを抜いたら何も残らないですし」
「グレン貴様それは言い過ぎ……いや……あながち間違いではないな……はっはっは~」
「ねっ?」
緑の髪に青白い肌、耳の先がヒレ状になっている好青年なグレンさん。
ウンディーネということなので、握手した手には水掻きがありました。
ダーウィンさんもびっくりな進化遂げてるよなぁ……この世界……いやそもそも進化自体なかったのか。ちなみに彼が後から馬車に乗って現れた方です。
ここまでの会話の流れだけだと芸人さんにしか見えないお二人だが、こう見えてこの方々ソール常駐軍第一部隊所属という肩書をお持ちの立派な軍人さんでした。
たまたまこの辺りを通ったら俺の情けない悲鳴が聞こえてきたらしくレコンさんがカッ飛んで来てくれたそうだ。ありがたやありがたや。
ただまぁ……そんな恩人な軍人さんに結構な失礼をかましてしまってるんだが、これ後々捕まったりしないよね……?大丈夫だよね?
「あの、ユウさん?」
例のごとくくだらないことをグダグダ考えてると、グレンさんが心配げに呼びかけてきた。
「えっ?……あっ!すいません。お二人が軍人さんなのにも関わらずなかなかに砕けた感じなんでちょっとびっくりしちゃってました」
誤魔化しにしてもこんな答えしかできない俺の未熟さが申し訳ないです。
「ははは、よく言われます。隊長が絡むといっつもそうなんですよ~」
「あぁ~……」
返しようがなく苦笑いしかできんわそんなん。
「でも悪い人じゃないんで大目に見てあげてください。強さも折り紙付きですし」
「それはもう十分すぎるほどに……」
「むっ……グレン、貴様またなんぞ失礼なことを俺に言っているな?」
「そんなことないですよ?何気に褒めてます」
「そうか?まぁ……ならばよいか」
……グレンさんもなかなかのキャラだと思うけどなぁ。
「ところでユウさんは……見たところ冒険者のようですが、クエストの途中かもしくはその帰りですか?」
ひと段落してグレンさんが尋ねてきた。これは軽い職務質問かな?まぁ、やっぱ怪しいもんなぁ俺。
「冒険者登録はまだしてないんで、冒険者志望の一般人って感じですかね。ここから南にちょっと行った所にあるアルク村ってところから来ました。」
つまりは自称冒険者……自称旅人とどっちが痛いだろうか……一緒か。
「アルク村……エルフの美人姉妹がいるあのアルク村か」
真っ先に食いついてきたのが意外にもレコンさんだった。ってかエリカさんとナナさんってこの辺りじゃ有名なのか?
「エリカさんとナナさんのことですか?なら合ってますね」
「ふむ、そうか。一度は会ってみたいものだな……」
レコンさんって意外と女好きなのかな?
「隊長はお姉さんの方と模擬戦がしてみたいんですよ。アルク村のナナさんは彼女の母親であるハルカさんの若い頃にそっくりだって話ですからね」
あの二人のお母さんの話が出てくるとは……まぁ~仕方ないとはいえなんともいえない感覚が湧き上がる。
とはいえ完全なる部外者な俺が引きずるのも意味わからんし、切り替えていくのがベストだな。
「つまりハルカさんって方はとても強かったってことですか?」
「お主、アルク村に居たのにそんなことも知らんのか」
まさかのレコンさんに呆れられるターン。
「いやぁ……まぁ~はい」
お決まりのヘラヘラしといて有耶無耶にするパターン。
「ハルカさんは元Aランクの冒険者で光の神術と独自の戦闘術を駆使して、凶悪な魔獣を何体も屠ったAランク冒険者の中でもさらに上位に位置する強者でした」
「へぇ~……そりゃ……娘もああなるわな……」
「?……しかもかなりの美人だったらしく、当時は相当人気があったみたいですねぇ……」
「あぁ……なるほど……片方ずつに分散しちゃったのね……」
「?……ある事件で亡くなられたのだが、なんとも惜しいことだ」
遠い目をするレコンさん。なんか特別な思いでもあるのかな?
「話がかなり脱線してしまいましたね。戻しましょう。ユウさんは冒険者志望とのことでしたが、確かアルク村にも支部はあったはず……なぜまだ登録してないのですか?」
さすがの軌道修正グレンさん。そこは当然疑問だわなぁ……
「いやぁ~まだなるかどうか迷ってるって感じなんですよね。色々と半人前なんで。今も一人旅をするための訓練?の一環でソールまで一人でお使いに行く途中なんですよ」
苦しすぎるが嘘でもない。心器が失踪中というのはなるべく知られたくないしなぁ……。
「ふむ、少々男らしくないようにも聞こえるが、まぁ~生業を決めるのは大切なことだ。悩むのも仕方あるまい。旅をする能力は冒険者でなくとも必要な能力でもあるし損はしないだろう。だが、少々危なげだな。どう思うグレン」
レコンさんの率直な感想に心で苦笑いをする。
「う~ん……そうですねぇ……大猪はこの辺でも比較的温和な性格の獣です。いらぬことさえしなければ追いかけられるということはないはずなんですが……そうなってしまったということは少々心配ですね」
まじかよ……毛玉に餌やっただけなのに……あれってそんなに不味いことだったんか……
グレンさんの考察に対してレコンさんが大仰にうなずき
「ふむ、ならばこれも何かの縁。我々と共に行こうではないか!」
急っ!?
しかもなんかセリフだけ聞くと大秘宝でも探しに行きそうな勢いなんですが。
「そうですね。この辺りはあまり魔獣は出ませんが、それでも全く出ないわけでもないですし、我々と共に移動した方が安全だと思いますよ。それに、我々の目的地もソールなんですよ」
グレンさんはもう慣れてるんだろうなぁ……いちいちレコンさんのセリフを噛み砕いてこっちに伝えてくれるんですね……。
気苦労多すぎて禿げないことを願うばかりだわ……。
俺がグレンさんのデコに憂いを帯びた目線を送ってると……
「あ、あの……ユウさん?」
「え?あ!度々すいません!いや、そちらがいいのでしたらぜひ同行させてもらいたいです」
再び頭を下げてお願いする。
旅のスキルを磨くんじゃないのかって?
そんなん帰りでもできるし、楽できるんならそっちのが良い。
それにやっぱり旅は賑やかな方が俺は好きだ。
この2人……特にレコンさんとは模擬戦もしてみたいし。
「決まりですね。では行きましょうか」
そう言うとグレンさんは春風のような爽やかスマイルと共に馬車に向かって歩き出す。
なんだろうなぁ……なんだかんだでイケメン率高いんだよなぁ……。
「よし!道中の警戒は任せろ!!」
いやもうそれはいいから……。
ば~しゃは進む~よ~ど~こま~で~も~♪
というわけでガタゴトと進む馬車。
幌付きだから雨風も凌げる便利仕様。
中は大体大人が4人ほど足を伸ばして寝れるくらいの広さだがなんか色々物が積んであって実際は2人寝れればいい感じになってる。
まぁーコンテナトラックの動力源が馬バージョンってなわけですね。
現在御者をしてくれているのは爽やか青年のグレンさん。
周りの風景は今のところ変わらない草原です。
降り注ぐ日光とそよぐ風が気持ち良く、まさにお洗濯日和と言えるでしょう。
……え~っとあとは……う~ん……まぁあの人のことはいいでしょ。
こちらからは以上で~す。
ってえ?レコンさんはどこだって?やっぱ気になっちゃう?いやいいんじゃない?大体わかるでしょ?
「グレン!そちらはどうだぁ!?」
噂をすればなんとやら、上空から声が聞こえてくる。
「たいちょ~こちら問題なしで~す。平和そのもので~す」
「ふむ、了解だ!!警戒を怠るなよ!!」
「了解で~す」
グレンさんはもう突っ込むとか抗うとか諦めてます。
適当に左右をキョロキョロして投げやりに答えています。
「ユウの方はどうだ!?」
なぜか全方位をカバーしているはずのレコンさんが俺に聞いてくる。
「……」
さてどうしようかなぁ……。
いやわかるよ?グレンさんのようにするのが一番良いって……。
だけどちょっとやってみたくなるじゃないやっぱ……。
「あれ……レコンさ~ん。あっちになんかあれなことがあれで大変なことが起こってるっぽいかもですよ!?」
馬車後方の出入口から適当な方へ指を指しそんなことを言ってみる。
「ぬぁに!?どっちだ!?」
「あっちです!!あぁやばい!!間に合わないかも!?」
「間に合わせてみせる!!この命に代えても!!」
するとレコンさんの翼が炎に包まれ
「緋翼!!」
炎を噴射しながら彼方へぶっ飛んでいくレコンさん。
……う~ん、予想通りすぎて結果微妙だなぁ……。
「ユウさん……あんまりウチの隊長で遊ばないでくださいね?」
「いやなんかホントすみません……」
お久しぶりです。そして、更新の間がかなり開いてしまったこと、大変申し訳ございませんでした。今話からまたゆっくりと更新を続けていきたいと思います。生暖かい目でお付き合いいただければ幸いです。