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 翼は閉じられ、構えは正眼。


 放出され場を満たす闘気が一瞬揺らめき、まるで先程の逆再生のように男の身に収束していく。


 長閑な景色とは正反対にこの場の空気だけは緊張に満ちていた。

 それは限界まで両端を引っ張られた糸のようにピンとし、いつ切れてもおかしくないと肌で感じる。


 あとはじっと“その時”が来るのを待つだけ……なのだけど……



 トントン……



 デカ猪に圧倒的なプレッシャーをかけ、今まさに斬りかかろうとしている男の右肩からそんな音が鳴った。


「……」


 だが今この瞬間に敵から目を離すわけにもいかず、男はそれを無視。

 逸れそうになった気を再び目の前に戻す。


 トントントン……


「……」


 トントントントン……


「……」


 トントントントントントントントントントン……


「ええいなんださっきから!!?」


 あまりのしつこさに痺れを切らした男が剣をデカ猪に向けたまま顔だけ右に向け、音の元凶……まぁつまり俺に声をあげる。


「うわぁ!?ビビッたぁ……いきなり大声出さないでくださいよぉ……」


「え……いや、すまん……ではなく!!なぜ私の肩を叩く!?今はどこからどう見てもそんなことをするタイミングではないだろう!!」


「あ、いや……ちょっとお尋ねしたいことがありまして……」


「だから今じゃないだろうが!!」


 この人ツッコミもちゃんとできるんだぁ……てっきりボケ属性かと思ってたけど。

 にしても声のボリュームもうちょいなんとかならないかなぁ……耳が痛いっす……


「いやちょっと急ぎでお聞きしたくって~……ホント自分でも空気読めてないことはなんとなくわかってたんですけど……ホント急いでて……」


 シュンとし、後半は尻すぼみ気味で告げる。


 男は俺のその感じに少したじろぎ


「……ま、まぁ……そこまで急いでいるのならば仕方ないな……民の声をきちんと聞くのも我が務め……言ってみろ」


 前をチラチラ見つつも、失いかけてた使命感を瞳に宿らせ問いかけてくる。


 ちなみにそんな状態でもデカ猪に対して一切隙を見せておらず、デカ猪はその場にしっかりと縫い付けられてしまっている。


「よかったぁ……ありがとうございます。ではさっそく……」


 少しの間を空け深呼吸をし、逸る心を落ち着かせる。


 男も俺の口からどんな質問が出てくるのかドキドキしてくれているのが伝わってくる。




 少しの不安と共に男に言葉をなげかける。


「……火、持ってます?」


「…………は?」


「いやだから火を……」


「……」


「あ~……もしかしてないですか?」


「そういうことじゃないわぁああああああ!!」


 ふっ……そのツッコミが来ることは計算済みだ!!


 俺は素早く耳を塞ぎ、万全を喫した……つもりだった……


 予想以上にテンションが上がっちゃったんですね……男は完全に身体をこちらに向け、ツッコミを放ってきた。


 シュパパパパパッッ!!


「いやマジかっ!?」


 顔にかかる大量の唾に対してはノーガードだったわけで……いや、俺もまだまだだわホント……


 これがダーブラ様だったらと思うと背筋が凍る思いですよ……。


 んでまぁこうなると完全に意識はこっちに向いちゃってるわけで……空気も弛緩し、当然デカ猪は「今しかねぇ!!」ってな感じで反転……物凄い勢いで逃げていった。


「あ、こら待て!!勝負はまだ着いてないぞ!!」


 いや~着いてたよ?完全にあなたの勝ちでした。


 なのにこの人、翼を広げて追う気満々……


 いやいやもういいでしょうが……俺を助けるのが目的だったんじゃないの!?


 どうする……?……ん?あ!


 翼が羽ばたかれる直前、咄嗟に片翼へ手を伸ばす……


「へぇ……意外と柔らかいなぁ……」


「のわっ!?」


 いきなり右翼を掴まれバランスを崩してしまい、飛び上がるどころか転びそうになる男。


 なんとか踏ん張り、すっ転ぶのだけは免れたが……即座に振り向き


「何をするかぁ!!」


 そりゃさすがに怒りますよねー。


 耳を両手で塞ぎながら冷静に納得する俺。


「○×△□!!!!」


 凄い剣幕です……多分だけど翼を触ったのが不味かったのかもしれませんね……耳から手を離すのがちょい怖いです……。






 いやホントはね、持ってた爆竹で追い払えるんじゃないかって思ってたのよ。


 でもほら俺ってライターもマッチも持ってないからさ……。


 瞬時に使えなきゃ意味ないことぐらいわかってるよ?


 でもしょうがないじゃない!火打石で火種を作るとこからなんだもの今の俺……


 だから火を借りようと思ったんだよね~……必要なかったけど。


 結果的にデカ猪を追い払えたわけだからなんでもいいんだけどね。


 あの毛玉もあんなデカくなるのかねぇ~……あわよくば人は襲わないでほしいなぁ……。




 んなことをダラダラ考えていると……


 右手首をガッ!と掴まれ、耳から引き剥がされる。


「聞いとるのかぁっっっ!?」


「うはぅ!?」


 耳がぁ……




 結局それからガッツリ説教されました。


 なんかね……ドラグーンにとって翼を無断で触られるのってとっても嫌なことなんだって……

 まぁ知らない奴にいきなり身体の一部触られたらそりゃ嫌だよね……

 あと人を襲う獣は殺しておかないと後々の被害が大きくなる可能性があるからいけないんだって……



 あぁちなみに、この世界の獣と魔獣は別物です。ザックリ分けると獣は普通に動物のことで、魔獣は心臓に核石があるモンスターのことです。


 魔獣は人の敵なので見つけたら必ず殺すモノだけど、獣は人を襲わないかぎりむやみやたらと殺すべきモノではないらしいです。


 俺からしたらどっちも怖いんですけどね……


「なんかホントすいませんでした……」


 怒られたことより、大声の怒声を結構な時間喰らい続けたことや、無駄に長い己の使命についての説明などなどで俺は疲れきり……もう深々と謝るしかなかった。


「ふむ……わかればよいのだがな……」


 俺の今度こそマジでシュンとした姿を見てやっと男が許してくれた頃に


「た~~~いちょ~~~」



 というなんだか間抜けな声が聞こえてきた。

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