36~第1章最終話~
村は一応、大人の背丈くらいの木の柵で囲まれており、出入口に門が構えてある。
門から出たすぐのところでは俺、エリカさん、ナナさん……そして 初めて会った時と同じ旅装姿の2人。
ルーカスさんと固く握手をする。
「必ずまた会おう」
柔らかい笑顔でそう言ってくれるルーカスさん。
「はい、必ず」
頷き、笑顔でそう返す。
横ではリンさんがエリカさんとナナさんをまとめて抱き締めていた。
もちろんエリカさんとナナさんも抱き返しているわけだからかなりの百合色空間が広がっている……もう付き合っちゃえば?
リンさんが2人の背中をポンポンと軽く叩くと、3人は名残惜しそうに離れる。
「ほら、エリカ、そんな顔しないの!またすぐ会えるわよ。次来た時は少し長く居るつもりだし」
「うん……」
「次は訓練付き合って」
「ふふっ、あんたは相変わらずね。わかったわ、ユウに負けたまんまじゃ嫌だもんね~」
ニタニタ笑いながらこちらに流し目をするリンさん。
おい!それ特大の地雷だろうが!!しかも爆風全部こっちにきてんだろうが!!
ザワ……
出てる……はみ出ちゃってるよ闘気が!!
「はーいそこまで~」
ムギュっとナナさんの両頬を両手で挟むリンさん。
頬をムニム二しているうちに何故か消える闘気……
何それすごくね!?
今度からナナさんを怒らせたらあの手でいくか?ちょっと気持ち良さそうだし……
「お前がやったら逆効果だと思うぞ?」
「で、ですよね~」
わかってましたよもちろん……
「んじゃ今度はあんたね」
「は?」
「え?」
ナナさんの頬から両手を離したリンさんは、いきなり俺を抱き締めた。
「死んじゃダメよ?」
そう耳元で囁くと、俺の右頬に「チュッ」とキスして離れる。
「…………」
「あら?ちょっと刺激が強すぎたかしら」
「リンちゃん!そーゆーのはダメだよ!ユウさん困ってるじゃない!」
むーっと子供っぽく怒るエリカさん
「ほぅ……」
「へぇ~」
ルーカスさんが少し意外そうに
リンさんが目を丸くした後、再びニタニタ笑い出す。
ナナさんは闘気……あれ?なんかこれもう殺気じゃね?を纏いだした。
そんな中俺はと言うと……
「…………」
今だに右頬に手を当て、フリーズしていた。
ほら、俺って純情だからさ。
……モテないだけだろと思った奴は皆不幸になればいい。
まぁーそんなこんなでゴタゴタしたけど、再会の約束をして、2人はクルスさんから頼まれたというクエストのために旅立っていった。
遠ざかる2人の背中を眺めていると、やはり少し寂しく思う。
だけど、生きて必ず再会する……大切な約束ができたから。
この世界に、別れを寂しく思える人達ができたから。
寂しさも今は心地良い。
「はいよ、頼まれていたもんだよ」
いつの間にかおばちゃんが奥から戻って来ていて俺が頼んどいた物を持ってきてくれていた。
火口箱、濾過装置、虫除け薬、蝋燭、ランタン……この世界では神術や核石の組み込まれた術具によってもはやお払い箱行きになった二束三文の品々ばかりが並んでいた。
「おぉ……さすがおばちゃん!」
「なにがさすがだよ……こんな田舎の道具屋ですら倉庫の奥で埃被ってたモンを欲しがるなんて、あんたくらいさ。まぁ~こっちとしては在庫処分のついでに倉庫の掃除もできて一石二鳥だったけどね」
「なはは……そいつはよかったです」
まさか待たされた3日って掃除してたのか……?
「それで……おいくらになるのでしょうか?」
「いらないよ」
「……へ?」
「ふん、今さらこんなモンがいくらになるかなんてあたしにはわかんないんだよ。だからま~あの娘達もあんたに世話になったようだし。くれてやるさ」
これって……まさかおばちゃん……
「えぇ……いやでもそんな……」
俺が戸惑うのを見て、おばちゃんは眉尻をピクッとさせ
「つべこべ言わずに持ってきな!!これ以上ウダウダ言うなら捨てちまうよ!!」
と声を荒げる。
「は、はい!ありがとうございます!!」
慌て道具を持ってきていたデカリュックに詰め込み帰ろうとすると……
「それと……」
「え?」
「あの娘達を泣かせるようなことをしたらタダじゃおかないからね!!わかったかい!?」
それは多分あの美人姉妹のことだろう
「い、いやそんなことしませんよ」
「わかったかい!?」
「わ、わかりましたですはい!!」
なんか勢いで敬礼してしまう俺。
んで足早に道具屋の出口まで歩いた後、せめてはと思い、クルリと振り返って。
「あざっしたー!」
とホテルマン顔負けの45度の姿勢でお辞儀をし、道具屋を後にした。
後ろからは「ふんっ」というちょい照れの鼻息が聞こえたようなないような……。
おばちゃんツンデレかいっ!?
店を出て、「ん~」と大きく伸びをする。
「さてと、準備もできたし、行きますかなぁ」
制服の上に黒皮のジャケットを着て、背中にデカリュックを担いだ俺は、村の出入口に向かって歩き出す。
俺は今、村の空き家に住まわせてもらっている。
一応宿屋とかあるんだが、金をなるべく節約したい俺は始めあの空き地で野宿でもするかなぁ~とか考えていた。
でも「それはさすがに……」と哀しさを写した目で俺を見たエリカさんが村長さんに頼んでくれて、そこに落ち着くことができた。
挨拶に行った時に「エリカちゃんの頼みならば仕方あるまい」とこの村でのエリカさんパワーの凄さにちょいビビりました。
治療院に泊まれば……みたいな案もあったが、さすがに病人でも怪我人でもない俺がそれをするのは気が引けたし、若い女の子2人と同じ屋根の下は色々と……ねぇ?
んで、村の人達の雑用手伝いをちょこちょこしながら小銭を稼ぎつつ今は暮らしています。
これも最初は冒険者ギルドの職域を犯すわけだから不味いかとも思ったんだが、意外に大丈夫だった。
元々この村は冒険者の中継地にはなっているが、拠点にしている冒険者は少ない。
雑用系のクエストはたまに単発のアルバイト感覚で受ける村人がちらほら居るくらいでなかなか受ける人間がいないらしい。
そもそもご近所付き合いで解決しちゃうこともしばしばらしいし。
それでもちょこちょこ舞い込んでくる依頼は溜まりがちらしく、むしろ向こうから頼まれることもあった。
俺としては助かってるからいいんだけど。
ちなみにブラック・オーガ討伐の件でリンさんとルーカスさんから渡されたお金は一千万ネスでした。
これは一般家庭の年収の大体約3倍らしい……
借りるにしてもそんな大金受け取れないと言ったのだが、金はあるに越したことはないと半ば強引に押し付けられてしまった。
この村に居る間はエリカさんの口座に預かってもらっている。
治療費はそこから支払うことになっているんだが……。
ちゃんと受け取ってもらえるかが心配なんだよなぁ……。
この村ではギルドが銀行業務も兼務していて、口座も簡単に作れるのだが……住所不定無職で心力も扱えない俺では作れなかった……冒険者登録していれば作れるらしいんだけどね……。
早くなんとかしないとなぁ……自称冒険者とか痛すぎだしなぁ……
まぁーでだ、問題はまだまだ山積みなわけだけど、運良くここまでで色々と条件が整ってきたので、俺はこれからこの村を拠点にしばらく心力も含めて色々と“身に付ける”ことにした。
そしてその1つが旅をするためのスキル。
キャンプ場で安全にサバイバルしてたあの頃のままじゃいけないからねぇ……
異世界でサバイバルですから。
もうなんか字面だけ見ると死の匂いしかしません……。
村の出入口に着き、自警団の人に挨拶をして外に出る。
それじゃ、今からちょっくら村の近くで野宿してきます。
「必ず帰る」
そのための一歩を俺は踏み出した。
ようやく1章終われました。お待たせしてすみません。
私生活もやっと落ち着き始めたのでなんとかまた更新を頑張っていきたいと思っています。
理想は週3回で各話3000字ぐらいでいけたら……とか思っていますが……最悪でも週1では更新します(苦笑)
稚拙な本稿ではありますが、読んでいただき本当にありがとうございます。