35
「こんちは~」
ドアを開けながら俺は店の奥へ声をかけ、そのまま中に入っていく。
左右の棚には日本じゃ見たこともないヘンテコな品々が無造作にポコポコ並べられている。
掃除は小まめににされてる感じなのになんで肝心の商品の配置は雑なんだろうなぁ……ウチの近くの駄菓子屋だってもうちょい気ぃ使ってたぞ。
「いらっしゃーい……ってなんだあんたかい」
俺を見た途端に溜め息を吐き、嫌そうな顔をするエルフのおばちゃん
「いやいや、俺も一応客なんすけど……もちっと愛想よくしてもよくないですか?」
「ふん、二束三文の骨董品しか買ってかないやつにアタシの笑顔は勿体ないよ」
「シビアだなぁ……」
マニュアルで量産されているとはいえ、0円でスマイルをもらえてたあの頃が懐かしい……
「はぁ……まぁ~いいっすけど……んで、頼んどいたヤツってどうなりました?」
「あぁ、倉庫から引っ張り出しておいたよ、ちょっと待ってな」
店のおばちゃんはそう言うとズングリむっくりな身体を振り向かせ、カウンターの奥に引っ込んで行った。
その背中に向かって「よろしくで~す」と声をかける。
3日前に初めて会った時はもう少し愛想よかったのになぁ……。
苦笑いしつつカウンターに身体を寄りかからせ、おばちゃんが戻ってくるまでの少しの時間、俺はここ1週間のことをぼんやり思い出し始めた。
ぶっ飛ばされた後、俺は脳震盪を起こしたらしく気を失った。
んで目覚めた時には退院したばかりの治療院に居て、再び天井を眺めていたわけだ。
「お、気がついた」
リンさんの声がした方に顔を向けると、リンさんとルーカスさんが隣のベッドに腰掛け、こちらを覗いていた。
「お、おはようございます?」
そんななんとなくすぎる俺の第一声を聞くやいなや、リンさんは立ち上がり寝ている俺のベッドのすぐ横まで来て、俺を見つめてきた。
その口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。でも目は全然笑っていない……
そんなリンさん、ゆっくりと腕が持ち上がり始めました。
「リ、リンさん?」
高々と……そりゃ~もう高々と……
「ルーカスさん……」
SOSを発信するも
「諦めろ……」
一切の迷いもなくの受信拒否……
「マジッすか……」
ズゴムッッッ
「ぐはっっっっ」
再びの暗転
「そもそもね~うまくいったからいいもののってのが多いのよあんたは!もっと後先のことや周りのことも考慮に入れて………」
リンさんって意外とこんな感じだよなぁ……
世話好きの委員長的な?なんかそんな感じだよね。って誰に言ってんだよ俺……
まさかのリンさんのギャップに萌えを感じつつそんなことをぼーっと考えていると
「ちょっとアンタちゃんと聞いてるわけ!?それとももう一発気合い入れた方がいい!?」
「さ、さーせん!!」
ベッドの上で正座して謝りながらもチラっとルーカスさんを見ると、苦笑いしつつも助けてくれるつもりは全くないようだった。
「すみませんでした」
俺が謝るより先にエリカさんは俺に頭を下げてきた。
「いや……え?いやいや?謝るのは僕の方ですよ!ナナさんだけじゃなく、エリカさんにも色々ひどいことしてしまいました。本当にすみませんでした」
THE・土下座をベッドの上で展開する。
古来より伝わる日本の究極謝罪スタイルの効果は抜群だったらしく、思わずエリカさんまで
「あわわ……そんな斬新な謝り方があるんですね……では私も……」
と椅子から腰を上げ、まさかの土下座返しを敢行しようとする始末
「いやいやいやいや!エリカさんはしなくていいですよ!?」
「で、でもその謝り方ってなんかすごく謝ってる感が強くて……このままじゃ私、負けちゃいそうですし……」
恐るべし土下座……異世界においてもその心意気が伝わるとは……ある意味攻めの謝罪とでも言えばいいのだろうか……
ってか謝ってる感って何だよ……
「私達のお母さんは、ブラック・オーガに殺されたんです」
「……って……え?ブラック・オーガってまさかこの間の?」
「はい……」
うはぁ……そういう展開になるのか……
「それも、私達を庇って……お姉ちゃんは……そのことでずっと自分を責めていたんだと思います。リンちゃんとルー君がクエストに向かう時も最後までついて行くって聞かなかった……きっと仇を取りたかったんだと思います」
悲痛……それを我慢するように話すエリカさん
きっとエリカさん自身も自分を責めてるんだろうなぁ……
「でも、あの2人は連れて行かず……俺が現れたってことですか」
偶然とはいえ、確かに空気読めてないなぁ……俺
何かと突っかかってきたのもそのせいか?
「すみません……」
「そんな……エリカさんが謝る必要なんて全然ないです。誰かが悪いわけじゃない……」
俺以外は……だけど
俺の言葉に目を伏せ、小さく「ありがとうございます」と言うエリカさん。
大切な人が自分達のせいで死に、その悲しみから今だに抜け出せていない……か。
忘れられるわけない……でも……それでも
「エリカさんとナナさんは仲良し美人姉妹だから大丈夫ですよ」
「え?」
顔を上げるエリカさん
出来る限りの笑顔で伝える。
それでも、2人には笑顔で生きていってほしいから
「負けた俺が言うのもなんですが、お二人が揃ったら最強です」
あの時、支え合うように立ってた2人ならばきっと……。
エリカさんは少しだけポカンとした顔になり、それから少しずつ表情を変えていき
「ふふふ……うん……そのとおりです」
この日一番の笑顔が目の前で咲いた。
「でも、美人姉妹は言い過ぎですよ」
無自覚って罪深いよね……
「そういえばナナさんはどこに?」
「お姉ちゃんは自分の部屋で寝ています。さっきの闘いで結構消耗しちゃったみたいで」
とエリカさんが話してくれたのと同時にドアが開き、ナナさんが現れた。
「お姉ちゃん!?」
ナナさんの足取りに淀みはないが、顔色はあんまり良くなかった。
エリカさんが駆け寄る
「お姉ちゃん寝てないと駄目じゃない!」
そんなエリカさんにナナさんは、スッと手を頭に載せてナデナデする。
「大丈夫、すぐ戻る」
ナデナデされて気勢を削がれたのか、エリカさんは「え……あ……うん……ならいいけど……」と惚けた様子で納得しちゃいました……
なんかこの2人の空気、以前にも増してお花畑だなぁ……
そして俺の前に立つナナさん。
じーっと俺を見つめてくる……なんか照れる……美人にはかわりないんだもの……
じゃなく、謝らなきゃ……理由はどうであれ女の子にマジの一撃入れるという最低の暴挙を犯してしまったわけだし……
そう思い、いづまいを正して再びの土下座をし、口が「すっ」という形になったところで
「変態野郎」
……………………。
……え?……何を……ってあっ!?
そういやあの闘いってその汚名を賭けてのモノだった!?
ものすごい角度からの不意討ちに頭が真っ白になり思わず顔を上げると
「ふふっ」
そこにはさっきよりも少し意地悪な笑顔があった。
思わず見とれてしまった。
そんな俺をほっといて、ナナさんはさっさと振り返り、帰っていった。
……………………。
それ言うためだけに来たのっっっ!?
ホントすいません……でも、必ず完結させます。