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「あなたの負けです」


 その言葉と同時に私の胸に強烈な一撃が打ち込まれた。


「がふっっ……」


 呼吸が止まり、周りの景色も動かなくなる。


 またか……


 そんな思いが思考を占める。


 どうしていつもこうなんだろう……


 絶対に負けたくない奴に限って私より強い……


 戦わなくちゃならない時に限って私の身体は動かない……


 私はいつもこうだ……私はいつも負ける……いつも守れない……










 お母さんは強い人だった。

 そしてとても優しい人だった。


 私に体術を教えてくれたのもお母さんだ。


 私は昔からエリカと違って可愛いくなくて、ぶっきらぼうで愛想がなかった。

 だから友達なんていなかった。

 エリカが気を使って皆の輪に入れてくれようとするんだけど、結局最後は一人だった。


 全く、双子だっていうのに、なんで私はこんな子になっちゃったんだろう……


 そんな風に塞ぎこんで、部屋から出なくなりつつあった私に無理矢理体術を叩き込んでくれたのがお母さんだった。


 最初はイヤイヤだったけど、そのうちに身体を動かすのが楽しくなってきて、どんどんのめり込んでいった。


 一人で自分を鍛え上げるのも楽しかったし、お母さんと手合わせするのも楽しかった。


 私が勝てたことなんて一度もなかったけど……お母さんは結構大人げなかった……


 それでも楽しかった。強くなる自分を感じて心が踊った。


 たまにお父さんが帰ってきて、強くなった私を褒めてくれるのもうれしかった。


 幸せだった。

 みんなが笑顔だった。

 私も、笑えていたと思う。


 だけど、そんな幸せな時も、すぐに過ぎ去った。


 奴が奪っていった……あのブラック・オーガが……


 奴は突然村に現れたかと思ったら、建物を壊し、村人を襲った。


 村の自警団や冒険者の人達も必死で戦ったけど、全然歯が立たなかった……


 そんな状況で、お母さんは自分達だけが逃げるなんてことができなかったんだと思う。


 傷だらけで運ばれてくる患者達から、襲ってきた魔獣がブラック・オーガだということを聞いたお母さんは、治療を私達や他の村人に任せて自分も戦いに向かうことを決めた。


 戦いに赴くお母さんに幼い私とエリカは泣きながら行かないでと訴えた。


 そんな私達の前に跪き、それぞれの顔を見てお母さんはいつもの優しい笑顔で

「すぐ帰ってくるから、お留守番おねがいね?」

 とちょっとそこまで買い物にでも行くような声音で告げた。

 そして私達をまとめて抱き締めると、振り返り、そのまま治療院を出て行った。


 私達はそれでもお母さんを追いかけようとしたけど、近所のおばちゃんやおじちゃんがそれをさせてくれなかった。


 納得なんて出来なかった。でも、私達が戦闘の役にたたないのは子供でもわかることだったし、簡単な治療の手伝いだったらできるから、ここに残ることを無理矢理納得するしかなかった。


 そうして、しばらく治療の手伝いをしていたら、外から何かが爆発したような音が轟き、治療院が小刻みに揺れた。


 私とエリカはそれに居ても立ってもいられなくなり、大人達の制止を振り切って外へ、音のした方へ飛び出した。


 エリカと手をつないで、走って……走って……息が苦しいのも我慢して必死で走って……そうして着いたのは、広場だった。

 そしてそこで見たものは……


 ところどころケガや汚れが見えるけど、力強い光を纏ったお母さんと、片ヒザを着いてお母さんを睨み付けているブラック・オーガだった。


 お母さんを見つけられたことと、無事な姿を確認できたことでホッと胸を撫で下ろし、一安心してしまう私とエリカ。


 そこにはブラック・オーガがいるというのに……


 私とエリカがその場に現れたことに気づいたお母さんは、一瞬、こちらに気が逸れてしまった。


 そして、そのことがどういうことなのかを瞬時に理解したブラック・オーガは、標的を私達に切り替え、襲ってきたのだ。


 動けなかった……何もできなかった……


 目と鼻の先で止まった奴の黒い手は、真紅に染まっていた。


 ポタッ……ポタッ……と滴る血は奴のモノでも、私達のモノでもなかった……


 今でも時々夢に見るあの光景……


 奴の手は……お母さんを貫いて私達の前で止まっていた……


 エリカはその場で気を失った。


 私は、その光景を理解できず、呆けていた。


「かふっ……はぁ……あんた……随分嘗めたことしてくれんじゃないの」


 お母さんは血を吐き、息を荒げながらも、怒気を孕んだしっかりとした声でブラック・オーガに言葉をぶつける


「私の大切な娘達に……何しようとしてくれてんのよっっっ!!」


 怒声と共に、お母さんの身体が急激に光を放ち、その光は奴の手を伝って奴をも包んだ。


「グガァアアアアアアア!!」


 ブラック・オーガはその光を受け、急に苦しみだしたかと思うと、身体のあちこちが膨れ上がり……


「パァン!!」


 と弾けた。


「ガァァァァァ!!」


 たまらずお母さんから手を引き抜いたブラック・オーガは、身体の至る所から噴水のように体液を吹き出し、こちらに背を向け、断末魔の叫びと共にヨロヨロと逃げていった。


 その一部始終を私は相変わらず呆けた頭で見ていた。


 「ドサッ」


という何かが崩れ落ちる音を聞き、ソレに焦点を合わせると……


 そこにはお母さんが仰向けになって倒れていた。


 身体が震えた。


 思考が戻ってくる……身体に力が戻ってくる……


「お母さん!!!」


 私は急いでお母さんの側まで走り寄る。


 お母さんの腹部には大きな穴が開いていた……血もどんどん出てる……


 混乱と恐怖で身体が震え出し、何をすればいいのかわからなくなる


「ナナ……」


 そんな私にお母さんが、か細い声で呼びかけ、手を差し出してきた。


 私は急いでそれを両手で掴み取り、お母さんの横で両膝を着く。


「ナナ……ごめんね?怖い思い………させちゃったよね?」


 私はお母さんに心配かけたくなくて、咄嗟にブンブンと顔を横に振る。


「フフッ……さすが私の娘……それにお姉さんだもんね?その調子で、エリカとお父さんのことお願いね?」


 お母さんは、いつもの優しい笑顔でいつもの優しい声音で……


「お母さん……なんでそんなこと言うの?やだよ!!そんな死んじゃうみたいなこと言わないでよ!!……待ってて!今、村の人達呼んでくるから!!!」


 私が手を放し、立ち上がろうとすると


「ナナ……お母さん、力を使いすぎちゃったし、血も流しすぎちゃったから、もう無理なの」


「え……?」


「でも、後悔なんかしてないわ。あなた達を守れた。だから満足してる。ね?」


 いつもの優しい笑顔で、いつもの優しい声音で……


「や……やだよ……お母さん……そんなのないよ……」


「ごめんね……あなた達には、もっと色んなことを教えてあげたかった……もっと色んなモノを見せてあげたかった……もっといっぱい抱き締めてあげたかった……でもね?私はいつでもあなた達の側にいるわ?だから大丈夫……いつでも一緒よ」


 お母さんの手から力が抜けてくる……


「お母さん……ダメだよ……やだよ……やだよぉ……」


「ナナ……エリカ……クルス……愛してる……いつも……いっ……しょ……」


「おかぁぁぁぁさぁぁぁぁぁんうわぁああああああああ」










 あれから私は決めたんだ。お母さんの代わりに家族を守るって。


 私は負けるわけにはいかないんだ……


 だから強さを求めた……


 誰にも負けない強さを……


 なのに……私はまた負けた……私なんかじゃやっぱりお母さんの代わりになれないんだ……


 何で……何であの時死んだのがお母さんだったんだろう……私が死ねばよかったのに……それなら……こんなに苦しまなくてすんだのに……










 お姉ちゃんはいつも私を守ってくれる。


 お母さんが死んで、私はいつも泣いてた。


 でも、お姉ちゃんはお母さんの死に囚われず、自分を鍛えて、強くなることをやめなかった。


 それに落ち込んだ私にいつも語りかけて、励ましてくれた。


 私が困っているといつも助けてくれたし、男の人に絡まれた時も追い払ってくれた。


 たまに、やりすぎちゃうところもあるんだけど……


 でも、そんな……いつも前を見て、私を引っ張ってくれるお姉ちゃんが居てくれたから、私は段々と笑えるようになった。


 強くて優しくてかっこよくて……お母さんみたいに私を守ってくれるお姉ちゃんが、私は大好きだ。






「あなたの負けです」


 「ドン!」っという音が響き、お姉ちゃんの身体が一瞬跳ね、動かなくなる。


 胸に一撃を受けたとはいえ、光を纏ったお姉ちゃんがそれだけで動かなくなるなんて信じられなかった。


 ユウさんが再び右腕を引き上げる。


「ナナさん……守ることに疲れたあなたじゃ、俺には勝てない」


「!?」


 ユウさんの言葉に衝撃を受ける


 ……お姉ちゃんはいつも私を守ってくれた……でも……じゃあ……お姉ちゃんは?お姉ちゃんのことは誰が守っていたの……?


 そうだ……そうだよ……


「ルー君、どいて!!」


 駆け出す


 何のために?


 この闘いを止めるため……?


 お姉ちゃんに手を引かれたから……?


 ううん……違う……今度は私の番なんだ……


 ごめん……お姉ちゃん……私、自分のことばっかりで……ホントにごめん……


 今度は……今度は私がお姉ちゃんを守るから……だから……だから間に合って……お願い……


なんかホント色々すみません……

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