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「そこまでだ」


 俺の行く手を阻むようルーカスさんは立っていた。


 足下で土埃が舞い、風に流されていく。


 こちらに向けられる眼差しは、初めて会った時のような緊張感を孕んでいた。


「ユウ、ここまでだ。これ以上は本当にケガでは済まなくなる」


 静かな口調だが、有無を言わせない迫力に満ちていた。


 まぁーでも……


「……そんなことは百も承知です。さっきもそう言ったはずだ。どいてください。」


 俺の拒絶がルーカスさんの表情をさらに強張らせる。


「……これ以上は、黙って見過ごすわけにはいかない……ここでお前と闘うことになろうともな」


 目に宿すのは本気の覚悟……だけどそこに少しだけ溶け込んでいる……あれは……後悔か?


「……そうですか……ならば仕方ないです……ねっ」


 一歩踏み出し……真っ直ぐ跳ぶ!


「!?」


 ルーカスさんの懐へ入り右足を踏み出しながら鳩尾へ貫手を放つ!!

 ……わけではなく、踏み出した右足を軸にして旋回しながら次の一歩でルーカスさんの脇を抜ける!


 よし……あとはリンさんをどうにかすれば……


「ドスっっ」


「かっ……はっ」


 いつの間にか、俺の鳩尾にルーカスさんの拳が突き刺さっていた。


 くの字に身体を曲げ、その場に膝をついてしまう……


「行かせないと言ったはずだ」


「ケホッケホッ……ハァ……ハァ……」


 最近こんなんばっかだなぁ……まぁ……でも、これぐらいで止まれるほど、大人でもないのが思春期の特権なんですよねぇ……


 右足を前に出し、ふらつきながらも立ち上がる。


 横にいるルーカスさんに向き、ヘラっと笑ってから前へ歩き出す。


「ならば、仕方ないな」


「バチンッッ」


 身体が弾けた……そう思った瞬間にはすでに前のめりに倒れはじめていた。


 意識がフワフワして、時間がゆっくり過ぎていく……


 地面が近づいてきて、「あぁ……倒れるんだな……」となんとなく考えている気がする。


 俺がここで倒れたらどうなるんだっけか?

 

 受け身取らないと痛そうだなぁ……


 なんでこんなとこにいるんだっけ?


 あぁ……そうか……ナナさんと闘って……


 そうだ……それで……だから……


 「ダンッ」と一歩足を出して、倒れるのを防ぐ。


「なっ!?」


「まだ……倒れるわけにはいかないんだよ!!」


 背筋に力を入れ、思いっきり上半身を引っ張りあげる!


「ユウ……なぜだ……なぜそれほどまでにこの闘いにこだわる……なぜだ!!」


「はぁ……はぁ……がぁっ!!」


 意地で無理やり身体を立ち上がらせ、垂れ流しになっていたヨダレを袖で拭う。


「ナナさんが……強さだけを求める純粋な戦闘狂だったなら、俺も納得してた……だけど、あの人は守ると言った……エリカさんを守ると……なら、今のナナさんを放っておくわけにはいかないんですよ……俺は恩人が傷つく未来を見過ごすことなんて出来ない」


「……!?」


 一瞬、目を見開き驚くような表情をしたルーカスさん。

 だけどそれも瞬く間に無表情になり


「お前はナナにそれを伝えられるというのか?あの子はすでに、俺やリンの言葉すら聞こうとしないんだぞ?それを……」


 感情を抑制しているようだが、それでも伝わってくる後悔や哀感。


 家族のようなルーカスさんやリンさんですら出来なかったこと……それを俺が……


「はは……そんなのわかりませんよ。

でも、それでも……俺はやれることをしたい。

見過ごして……目を背けて……大切な誰かが傷つくなんてもう嫌なんだ……」


 心に映るのはあの日の光景……


 深呼吸をし、無駄に力の入った身体から余分なものを抜く


「お前は、ナナを殺すつもりはないのだろう?お前からは殺気が全く感じられない。

だが、ナナは本気でお前を殺しにくるぞ?

それでもお前はやるのか?無駄かもしれないことに命を懸けるというのか?」


 問われ、胸に手を当てる……甦るのはあのクソジジィが耳タコになるまで言ってたあの言葉だ……


 刷り込みってのはホント怖いな……そんな風につくづく思っていると、自然と頬が緩む。


「なんて言えばいいのかな……ここに刻まれている……そう、約束みたいなものが残ってるんですよ。

身を殺して以て仁を成す……なぜだかこの約束は違えちゃいけない気がするんです……だから引くわけにはいかない……」


 それに、死ぬつもりだって毛頭ない。

 俺は必ず自分の世界に帰るのだから。


 大きな雲が日を遮り、そして再び日が覗く


「……あるいは、お前ならば出来るのかもしれないな」


 ルーカスさんの身体から力が抜けるのを感じる。


 それを合図に俺はゆっくりだが前に歩き始めた。


 前方10mくらいのところで、リンさんとナナさんは無言で睨み合っていた。


 俺が近づいてくるのに気がついたのか、リンさんが振り向き、ナナさんが目を向けてきた。


「ちょっとルー!なんでユウがこっちに来てんのよ!」


 ルーカスさんは俺の横に立ち


「リン、どいてやってくれ」


「はぁ?何言ってんのよ?寝惚けてんの?」


 リンさんは完全にナナさんへ背を向け、ルーカスさんと向き合う。


 俺は一度その場に立ち止まり、ことの成り行きを見守ることにした。


「リン、たのむ……どいてくれ」


「……本気なの?」


「ああ」


「どうして?」


 ルーカスさんは少し考え


「……こういうのを転機と呼ぶのだろうな」


 何かを諦めたような……それでいて期待しているような……穏やかな口調でそう答えるルーカスさん。


 それに何かを感じ取ったのか、無言になるリンさん。


「……このまま続けたらどちらかが死ぬかもしれないのよ?」


「……やむを得まい」


「なっ……あんたまで……」


 ルーカスさんの言葉に籠った覚悟の重さに二の句がつげなくなるリンさん。


「なん……」


「どうして!?」


 我慢しきれなかったのか、リンさんの声を遮りながら俺の前に再び駆け出るエリカさん。


「ルー君までどうして!?なんでよ!!」


 なんとかこの闘いを止めたいんだろう……あんなに足が震えているのに、表情や雰囲気は必死そのものだ


 当てるつもりはなかったとはいえ、自分がやったことを思うと胸中で後悔の念が渦巻く……


 だけど、今それを理由に足踏みしているわけにはいかない


「ナナさん!!」


 場の流れを完全に無視し、俺はナナさんに呼び掛ける


「俺の前には無防備なエリカさんがいるぞ!!そんなとこで突っ立ってていいのかよ!!」


 影が流れ……こちらに衝突した。


「なっ……あ!こら!!」

「なんで……」


 リンさんの脇を抜け、エリカさんを背に隠すように現れたナナさんは、そのまま俺の心臓へ向け、横蹴りを放ってきた。


 確かに速い……だけどその技はもう何度も見てきてる!!


 半歩だけ身体を横にズラし、蹴りを避けながら足首を脇で挟み、両手で足を掴んで固定する。


 睨み合いになる俺達。


 よく見ると、ナナさんの身体が薄い光の膜に包まれているのがわかる。


 光を纏う神術……身体能力向上……だけじゃないな。

 今の動きからしてさっきの貫手のダメージは回復してる……他人の治療ができるんだ……そりゃ自分のだってできるよなぁ……


 足を固定している腕にフッと重みが増し、影が宙を舞う。


 足を掴まれたまま身体を浮かせ、捻りこんで俺の側頭部へ蹴りを繰り出してくるナナさん。


 咄嗟に上体を前に折り、避けるが、足の固定が緩んで引き抜かれてしまう。


 そのまま俺に背中を見せながら、しゃがみこむように着地をするナナさん。


 そこへ間髪入れずに追撃する!


 ダメージが回復するなら一撃で決めるしかない!!


 背後から迫る俺にひねり蹴りで迎撃するナナさん。


 それを横に避けながらナナさんの脇を抜け、同時に彼女の手首を掴みあげる。


 肩関節を極められそうになったナナさんは流れに逆らわないようそこを基点に側宙し、俺の正面に着地する。


 そしてそのまま金的へと蹴りが放たれる……前に彼女は宙を泳いでいた。


 この距離は俺の間合いだ。


 彼女が着地したのと同時に手首を引き、足を刈り飛ばしていたのだ。


 背中から地面に落ち「うぐっ……」と小さく呻くナナさん


「あなたの負けです」


 心臓へ掌打を叩き込む!!



たった3000字にこんなに時間が掛かってしまいました……ホントすみません……


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