表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

31

 いつの間にかチラホラと空き地の入り口付近に集まってきた村人達を横目に、俺は4人へ近づいていく。


「あんたさぁ……せっかくこっちで話がまとまりつつあるのに、いきなり何言い出すのよ」


 リンさんは腰に右手を措き、憮然としている。


「ユウさん、神術を使ったお姉ちゃんは強いです。それこそ怪我では済まないことになります。ここは引いてください」


「エリカの言う通りだ。ナナは冒険者の中でも多量に心力を宿している神術使いの中でも高い実力の持ち主だ。

今のお前では到底勝ち目はない」


 俺はある程度の距離まで来ると立ち止まり、ナナさん以外の3人をそれぞれ見て


「リンさん、すいません。エリカさん、ルーカスさん、心配してくれてありがとうございます」


 と言葉を返した後に、ナナさんを見る。


 相変わらず剥き出しの闘志を放っており、それに殺気が混じり始めている。


 それに思わず苦笑いしてしまう。


 一体彼女の何がそこまで……。


「でも、今は引けない理由ができてしまいました」


「え?」


「俺はさっきまで、みだりに暴力を振るうナナさんと対峙するつもりはありませんでした」


 俺の修めている武術はところ構わず力を振るうことを善しとしない。

 その強い自制があって初めて力は自分のモノになるからだ。


「だけど!!もう我慢できません!!」


 一度言葉を区切って、深呼吸をし、トゲトゲ弁護士よろしくナナさんに人差し指を向ける。


「背中への不意討ちなんて卑怯な真似してんじゃねぇぇ!!

それだけじゃない!初めて会った時にもいきなり蹴ってくるし、治療院への帰り道でも蹴ってきた!暴力反対!!

しかも!無表情でズバズバと俺の心を抉るような毒吐きやがって!!それでも看護婦かコノヤロー!!

この俺が成敗してくれるわっっ」


 最後は自分を親指で差しながら高らかに宣言する。


「ユ、ユウさん?」


 場が静まり、風が地面を擦る音だけが通りすぎる。


 キョトンとする4人。


 ナナさんまでがさっきまでの闘気やら殺気やらを霧散させて呆けている。


 なんか知らんが勝った気分だ


 心でニヤケとく


 そしてナナさんに向けて指を前後にクイックイッと動かしながら


「さぁ!俺より強くならなきゃならないんでしょう!?さっきの神術使った技を受けても俺はまだまだピンピンしてますよ??あんなのが本気なわけないですよね!?だったらとっととかかってこいやぁー!!」


 見事に挑発は成功したようで、再び闘気を纏い、下肢に力を込めるナナさん。


「待ってください!!」


 エリカさんは必死の形相で俺とナナさんの直線上に立ちはだかり、両手を広げて闘いを阻止しようとしてきた


「ユウさん!今までのことなら私が謝ります!だから……だからこんなのもう止めてください!」


 うーん、やっぱ良い人ですなぁ……さすがMyエンジェル。だけど……


「エリカさん、もう今さらこの闘いを止めることなんて無理です。こっちは殺されかけてるんだ。謝って済むわけがない」


「そ、それはそうかもしれませんけど……でもだからってこんな……」


「エリカ、どいて。私も闘いを止めるつもりはない」


「お姉ちゃん……」


 背後からのその声にさらにシュンとしてしまうエリカさん。


 その姿になんだか心が痛む……


「ユウ、どちらかが死ぬまでやれば満足なのか?」


 ルーカスさんが何かを見極めようとするような眼差しで問いかけてくる。


 それに目を背けず真っ向から答える


「場合によっては」


 エリカさんが息を呑む


「ちょっとユウ!!ナナも!!いい加減にしなさいよね!こんなとこで殺し合いなんかしても仕方ないでしょ!?本気で怒るわよ!?やめなさいっっ!!」


 リンさんがエリカさんの横へ歩み寄り、俺とナナさんを交互に見ながら怒声を放つ。


 もう怒ってるやんけ!!


……いやまぁ、リンさんを怒らすのはこれで最後にすべきだな……怖すぎだわ……ナナさんもリンさんを慕っているだけあってさすがに躊躇の色を見せてるぐらいだし。


 だけど、このままナァナァでこの場を流させるわけにはいかない……


「リンさん!これは俺とナナさんの問題です!」


「だまらっしゃい!!」


「……え?」


「あんたら2人の問題とかなんだとかそんなん知るか!!私はあんた達が殺し合いをするのが許せないっつってんの!!」


 うわぁ……なんちゅう我が儘だ……の割には俺たちを心配しての駄々だからなんとも言えないし……ズルいなぁ……


 はぁ……こうなったら強硬突破しかないか……かなり強引でやりたくなさすぎだが、あとでめっちゃ謝るってことで……しゃーない……


 下半身を沈め、一気に地面を蹴り、エリカさんへの間合いを詰める。


「え?」


 鳩尾に向けて貫手を放つ。


 「ブン!」という盛大な空振り音が響いた。


 数瞬前まで居た場所よりも数歩ズレた場所にエリカさんは居た。


 咄嗟にリンさんがエリカさんを抱き寄せてくれていたからだ。


「あ、あんた何を……」


 リンさんのそんな驚きと戸惑いの言葉に今は答える余裕はなかった


 闘気が爆発し、殺気が空気を震わせる。


「お前……お前、今、エリカに何をしたぁああああ!!」


 怒号と共に地面を吹き飛ばしてこちらへ飛び出すナナさん。


 3人の抑止ももはや意味を成さない。


 とりあえず思いっきり後ろへ跳ぶ。


 が、着地した時にはすでにナナさんが目の前にいた。


 マジかよ何その速度……


 体勢を低くし、俺の懐へ迫ると、強烈な踏み込みと同時に身体を浮かせ、回転させながら後ろ蹴りが放たれる。


 残影しか視認できないほどの電光石火。

 岩石すら一撃で粉々に出来そうな重圧感。


 神術のおかげか先程までのナナさんでは想像もつかない次元の技だ。


 両足を跳ね上げて、受け身をとりながら背中から倒れ込む。


 目の前を砲弾が通りすぎた……

 一瞬そんな錯覚に陥りそうになるほどの蹴りだった。


 おいおい……


 地面に背中が着くと同時に横へ転がり、起き上がろうとした所でナナさんの踵が落ちてきた。


 瞬時に後ろへ2回転し、立ち上がる。


 うわぁ……マジであの速度であの威力秘めてんのかよ……地面にクレーターできてんじゃん……ダメだろぉそれは……


 汗が頬を伝い顎から落ちる。


 神術による身体能力強化……予想以上だな……これは大分マジでやらないと死ぬなぁ……


 なんて考えている暇なんて当たり前だがなかった。


 下段の廻し蹴りを一歩後ろに下がり避け、中段横蹴りを身体を半歩ずらしながら半身になって避ける。

 上段への廻し蹴りに上半身を反らし、そのまま後転跳びでナナさんから離れる。


 それを逃がさないとばかりに追ってくる影。


 なんとか気配や視線の焦点、空気の流れなどから動きを読み取っているが、ギリギリすぎる。


 ブラック・オーガの一撃よりは劣るだろうが、真正面から受ければただじゃ済まないだろう。


 ってか奴とは違い、動きに無駄がなく、洗練されている分、奴よりよっぽどやっかいだよ!!


 足を広げ、上体を落とす。直後に風を巻き込みながら頭上スレスレを蹴りが横切る。


 ナナさんはそのまま真上に跳び上がり、身体を捻りながら袈裟懸けに廻し蹴りを放ってきた。


 これを受けたら確実に身体が砕けるな……。


 だけど、こういう一呼吸置いての大技を待っていたんだ!


 技が放たれる半呼吸分速くナナさんへ跳びかかり、鳩尾へ貫手を放つ!!


 「ドムッ」という肉を打つ独特の感触が掌に伝わり、ナナさんの表情に苦悶が浮かび上がる……が


「カハッ……ガアアアアア!!」


 貫手が決まり、確実にダメージを受けているにも拘わらず、ナナさんは崩れた体勢のまま俺の背中に脚を叩き込んできた。


 息が漏れ、地面に張り付く。


 ぐはっ……マジかよ……あんだけ軸がブレてたのにこの威力……さすがキックの鬼……


「ハッ……」


 あまりのことに自然と笑いが込み上げてくる……


 口の端をつり上げながら、痛みを無視して無理矢理立ち上がる。


 俺の居る位置から少し距離を置いた向こう側で、ナナさんも鳩尾を押さえながら立ち上がっていた。


「ハハ……あの一発で終わってくれるほど甘くないよなぁ……」 


 軋む身体に力を行き渡らせ、決着をつけるべく重心を前へ傾ける。



 たくさんの方に読んでいただいているにもかかわらず、更新が遅くなってしまい申し訳ございません。


 当初の予定より内容が変わってきていることや、私生活がゴタゴタしているのが原因です。


 しばらくの間、更新が遅くなると思います。重ね重ね申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ