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「それじゃね~」
リンさんとルーカスさんが治療院を出た頃には、辺りがすっかり暗くなっていた。
というのもエリカさんがせっかくだからと言い、みんなで晩御飯を食べることになったからだ。
エリカさんとリンさんが一緒に料理を作っている風景は、ちょいとした驚きだったが、元々リンさんがエリカさんに料理を教えたらしく、いつもの風景なんだそうだ。
驚きをあらわにしたら、リンさんからモンゴリアンチョップ喰らったけどね……
「まぁ~すでに腕はエリカのが上だけどね~」
「そんなことないですよ~」
と2人はとても楽しそうでしたよ。
ナナさん?作るより食べることのが好きだってさ。
そんなこんなで、晩御飯は質も量もかなり満足できるモノとなった。
酒も出たしね~。
おかげでほろ酔いな大人逹が昔話に華を咲かして、結構遅くまでこの会は続いたわけだ。
俺?俺はのらりくらりと酒は断ったよ?
未成年どうのこうのじゃなくて、弱いんです。すぐにマーライオンと化します。
2人を玄関で送り出した俺とエリカさんとナナさんは、片付けを済ませると、それぞれ別行動となった。
俺は昼間寝たのに、なんだかグッタリ疲れていて、さっさと寝る支度をしたらさっさと寝てしまった。
次の日はひたすら瞑想していた。
前の日にもらったアドバイスなんかを考慮に入れて、ベッドの上で1日中黙想していたのだが、全く何もつかめなかった。
なんだよその1日……高3の休日かそれ?
とか考えちゃダメだよなぁ……
そして退院の日。
俺の右脇腹は無事完治し、エリカさんやナナさんに「お世話になりました」と礼を述べ、治療院を後にした。
んで今は、例の空き地でナナさんを目の前にして立っている。
青空の下、降り注ぐ日光に手を翳す俺。
吹き荒ぶ風に舞い上がる土埃。
いつものパンツタイプのナース服とポニーテールがはためくナナさん。
その双眸は鋭く、表情も冷たい。闘気を纏うその姿はまさに「キックの鬼」
なんだろうね……この状況……俺、さっき退院したばっかなのにさ……
ミスって魔法覚えたてでスペッキオに戦い挑んじゃったみたいな……わけわかんないか。
観客は心配そうなエリカさんと楽しそうなリンさんとルーカスさんの3人だ
「ユウ~!退院してすぐに入院なんて笑えないわよ~」
おい!それホントに笑えねぇんだよ!!ってか楽しむな!止めろよっ!!
「いくよ?」
ナナさんは右足を引き、腰を落とす。
「あの~……やっぱ話し合いで平和的に解決できないんでしょうか……。どうしても闘わないとダメですか?」
と言い終わる頃には、後ろ回し蹴りが顔面に飛んできていた。
いやいや、こっちの答え聞く前に踏みきってるじゃん!!
「またこんな始まり!?」
身体を反らして避ける。
ナナさんは避けられた反動を利用し、身体を回転させ、軸足を入れ換えながら払い蹴りを繰り出す。
これを跳んで避ける
宙に浮き、無防備になった俺に対し後ろ蹴りが迫る。
怒涛の三連撃だなぁ……
だが、この蹴りは俺の身体にギリギリ届かない。
別にナナさんがマヌケなわけじゃなく、払い蹴りを跳んで避けた時に軽く後方へ跳んでいたのだ。
まぁー1度見たことあるからねぇ……射程範囲くらいは予測できますよ。
「っ!?」
蹴りに手応えがないのに虚を衝かれたナナさんが一瞬止まる。
その間に着地をし、ナナさんに接近する。
蹴り足を引き、俺の接近を阻止すべく、前蹴りを放つナナさん。
身体を捻り、蹴り足の内側に肘をぶつけて弾く。
そしてその勢いのまま身体を回転させつつ懐へ入っていく。
蹴りが弾かれ、体が崩れたナナさんの細首に向かって、回転の勢いを乗せた手刀を横薙ぎに叩き込む!!……寸前で止める。
これが入ってたら今の俺の力じゃ首の骨を折っちゃいますからなぁ……
弾かれた足を着地させ、自分の首横に水平で保たれている手刀に目をやり、それからこちらを見るナナさん。
「なぜ止めたの?」
「俺がナナさんを殺せるわけないでしょうが」
「これは決闘。敗者がどのような末路を辿ろうと、それは仕方のないこと」
「まぁーだとしたら、この末路にも納得してもらいたいですね」
「…………」
俯くナナさん。
納得……してくれたよな?
俺は手刀を引き、身体をナナさんから離すと、振り向いてエリカさん逹の方へ歩き始めた。
まぁ……今はこれ以上俺からかけるべき言葉はないだろ。
とりあえず、お互いが無事な状態で勝負を終わらせることができて、ホッとした。
エリカさんには謝らなきゃなぁ……リンさんとルーカスさんには面白がったことについて一言くらい文句言ってやる。
3人に声をかけようとしたその時
「ゾワッッ」っと総毛立つのを覚え、とっさに右へ跳ぶ
反転しながら着地し、さっきまでいた場所を確認すると……
ちょうど俺がいたであろう位置に、横蹴りを放っているナナさんがいた。
体勢を戻し、こちらを見る。
「私はまだ一撃も受けてない。だから、負けてない!」
「ドンッッ」
という音と共に凄まじい速さでこちらに中段横蹴りを繰り出すナナさん。
さっきよりも全然速い!?
反応が遅れ、避けきれない。
とっさに腕を交差させながら後ろへ跳ぶ。
「ガッ」……「ドカンッッ」
空き地を囲う石壁に叩きつけられ、一瞬息が止まる。
ぶつかった壁にヒビが入り、ガラガラと崩れ落ちた。
「ケホッケホッ」
マンガかよ……ってかこれ弁償するの俺か……?
背中と腕がジンジン痛むが、骨折まではいってないようだ。
目の前に意識を戻す。
するとナナさんだけじゃなくリンさんやルーカスさん、エリカさんまで居て、ナナさんを取り囲んでいた。
「ちょっとナナ!やりすぎよ!神術を使うなんてどういうつもり!?」
「そうだよお姉ちゃん!ユウさんは神術使えないんだよ?生身の身体に光を纏わせた攻撃を加えるなんてダメだよ!」
「勝負は先程決したはずだ。結果が不服だとしても、受け入れろ」
3人共なにやらヒートアップしてるなぁ……つまりさっきのナナさんの動きは、神術で底上げしたものだったってことか?なるほどね……
「口を挟まないで」
「「えっ?」」
「これは私とあいつの闘い。3人が口を挟む余地はない」
場が凍る……
「あ、あんた何生意気なこと……」
「じゃあ。父さんやリンやルーがいない時に、エリカは誰が守るの?……私しかいない……だから私は強くなくちゃならない……あいつよりも、母さんよりも」
「お、お姉ちゃん……」
「お前……まだあの時のことを?」
「……」
拳を固く握りしめるナナさん。
「はぁ……ナナの気持ちはよくわかったわ。
でも、あなたの思いとユウは関係ないでしょ?神術を使えば、怪我で済まなくなるかもしれないのよ?
次のクエストが終わったら、私とルーで訓練付き合ってあげるから……ね?」
「そうだな、次は少しこの村でゆっくりしても……」
「ちょっとまったぁ!!」
4人がこちらを向く。
「?」
「ナナさん!!俺は受けて立ちますよ!神術でもなんでも使ってもらって結構です!全力でお相手します!!」
「えぇっっ!?」