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「暗い……果てしなく暗い……マジかよもぉ……ふざけんなよ……」


心が折れそうになるくらいの闇が周りを包んでいる。


正直、舐めていたとしか言えない。

暗すぎるぜ大自然……思わず涙が出てきそうになる。


月の光とカメラのライト……そして闇に目が慣れてきたとはいえ、現代日本の申し子である俺にはちょっとありえない暗さだ。


だがまぁ、静寂さは漂っているが、無音でないことには助かってる。


川の流れや風の吹く音、虫の鳴く声、鳥や獣の鳴き声には結構ビビるが、これにも結構慣れてきた。


音があることで、警戒することを忘れないでいれるし、正直、自分以外の生命を感じることで、恐怖と同時にある種の安心感も得れる。


そんなことを考えながら、慎重に河原を移動していると、さっきまではなかったある異変に気づく。


「視られてる?」


そう感じた瞬間に周りを見回す。


森側、木々の隙間を「サッ」と何かが移動したのを視界の隅で捉える。


背中からドッと冷や汗が出てくるのがわかる。

体温も急に下がってきた……


マズイマズイマズイ……

「敵」かもしれない……

どうする……戦うか?

いやいやありえないだろ……

対人戦ならまだしも敵は多分動物だ、こんな暗闇で襲われたらひとたまりもない。


ひとまず全速力で逃げるということしか思い付かない。

っというか、逃げ切る以外の事態を考えたくない。


よし……行くぞ……「ダッ!」


と駆け出す。


足場が悪いし暗闇なのもあるしで全然スピードが出ないが、そんなのは百も承知!

とにかく全力疾走しかないんだよっっっ!!


しばらく泣きながら走っていると、森の中から「カサッカサッ」という音が聞こえてくる。


ヤバい、並走してきている……


しかも、こちらが向こうに気づいたのを察知したのか、仲間を呼んだらしい……数が増えている。


恐怖で大声をあげそうになるのを抑え、どうするかを必死に考える。


敵はまだ襲ってきていない。

ということは向こうはまだ体制が整っていないか、こちら側の何かを警戒しているってことだ。

前者なら整い次第、後者ならこちらが今の状態を変化させたら襲われる。


どうするどうするどうする……

ある程度までは考えられるが、恐怖やら焦りやらで対応策を考えることができない。そしてその事実にさらに焦る。


そんな状態で河原を全力疾走し続けられるわけもなく、案の上「ガッ」という音と共にコケる。


「ぐっ…」


なんとか受け身はとったが、痛みが身体を駆け巡る。

だがそんなことに頓着している暇はない。


急いで立ち上がらなきゃと思い顔を上げると……


「おいおいマジかよ……」


すでに俺は何かに囲まれていた……

川を背後にして、半円に、大体10体ぐらいいる。

恐る恐る、携帯のライトを周りに向けると…


俺の頭の中は驚愕の一色で染まった。


そいつらは二足歩行だった……

緑色でデコボコした体表、120~130cmくらいの身長、ぷっくり出た腹と細い手足、潰れた輪郭にくちばしのように飛び出た鼻と口……


俺を囲んでいる奴らは、完全に化け物だった。


「カツン」という音がした。

携帯が手からこぼれ落ちた音だ。

光が途切れることはなかったが、本当ならすぐに拾うべきだろう。

だけど俺にはそんな些末なこと、どうでもよかった。


「な、なんだよこれ……どうゆうことだよ!!」


俺はもう駄目だった。

これまで抑え込んでいた恐怖や不安に支配され、身体は震え、携帯もその場に落とし、完全に我を忘れた。


「ふざけんな!なんだよこれ!どういうことだよ!ふざけんなよ!!」


四つん這いで、両手を地面に叩きつけながら……

泣き声にも怒声にも聞こえる声で……

涙も鼻水もダラダラ垂れ流しながら俺は喚き散らした。


「ぎゃははっ」

「きぃはは」

「きぃーきぃー」


俺のそんな惨状を嘲るようにその化け物達は声をあげた。

その目は完全にこちらを見下しており、口は下卑た笑みを浮かべている。


だが、一匹の化け物が手に持ったボロボロに刃こぼれした剣をこちらに向けると雰囲気が変わった。

目には殺気を孕み、元々猫背だった体勢をさらに前傾にし、今にもこちらに飛びかからんとしている。


喰われる……


そう感じた……


その瞬間、10匹の化け物が各々の武器を振りかぶりながらこちらに飛びかかってきた!!


俺の心も身体も恐怖に固まった。


こんなわけのわからないところで、こんなわけのわからない化け物に殺されて喰われる……


数秒後に訪れる凄惨な情景を思い浮かべ、俺は生きる気力を失った……




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