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「ん゛んっ」


 喉を鳴らす音が聞こえ、そちらを向く俺とリンさん。


 そこにはドア近くの壁に寄りかかり、腕組みしているルーカスさんがいた。


「あっ……」


 と気まずげなリンさん。

 多分一緒に来てたのを忘れてたんだろう。


 リンさんが俺を抱き締めたあたりに実はルーカスさんも病室に入ってきていた。


 俺の視界にはそれが一応入ってたんだけど、挨拶する余裕なんてなかったし、そんな空気でもなかったしで、あえてスルーしていた。


 決してリンさんの柔らかさと良い匂いの余韻に浸っていたかったわけじゃありませんよ?


「リンのあれだけ隙だらけな背中は、久々に見たな」


 壁から背中を離し、ニヤリとしながらこちらに近づいてくるルーカスさん。


「むっ……なぁ~んか、むかつく~その顔」


 と頬を膨らませながら立ち上がり、ベッドの足側に移動するリンさん。


 入れ代わりにベッド横に来たルーカスさんは、窓の下にあるテーブルから椅子を引っ張り出し、座る。


 黒パンに白の長袖シャツ、皮のベストというこちらも普段着なルーカスさんは、俺を正面から見据えると


「すまなかった」


 と頭を下げた。


 ゼニスブルーの短い髪が揺れる。


「……」


 俺の言いたいことはさっき全部言った。


 それを聞いたうえでそれでも謝るってことは、ルーカスさんの中で必要なケジメなんだろう。

 ……格好つけすぎだ。


 口元が綻ぶのがわかる。


 なら俺にできることなんてそう無い。


 正座をしたままだった俺は、膝に置いていた右手をルーカスさんの目の前へ差し出す。

 

 それに気づいたルーカスさんは上体を戻し、俺の目を見てから、「フッ」と表情を崩してその手を握ってくれた。


 握り返される力が強いことに、なんだか胸が熱くなる。


「はぁ……男って単純でいいわね~」


 リンさんが呆れながらそう言い、握手している手に自分の右手を被せてきた。


 俺がリンさんを見ると


「まだ言ってなかったからね。

ありがと!あんたのおかげで助かったわ」


 と笑顔で言ってくる。


 はぁ……この人はこの人で……


 俺は一度下を向き、それから2人の顔をそれぞれ見て


「こちらこそ、今、こうしていられるのはお2人のおかげです。感謝しています」


 と告げる。


 この世界に来てしまったことは不本意だけど、この2人に出会えたことは感謝したいぐらいだな……




 だが、そんななかなかの世界観に突入していた俺たちも


「あの~……お茶~……」


 というエリカさんの一声で我に返り、一斉に手を引いた時には、同時に苦笑いしていた。




 いつの間にか結構寝ていたらしく、すでに時間は午後3時になっていた。


 昼にナナさんと休憩を交代したエリカさんが、気を利かせてお茶を持って来てくれたところで遭遇したのが、あの素敵空間だったようだ。


 端から見たらそりゃ……ね。


 んで今は、さすがにみんな大人なだけあり、そんなんありましたっけ?みたいな表情をしてお茶会開催中である。


 俺?俺だって大人とはいえなくてもすでに高3ですよ?空気ぐらい読めます。


「それで、あんたはこれからどうするわけ?」


 俺のベッドに腰掛け、足を組んだリンさんが膝に置いたソーサーにカップを載せつつ尋ねてくる。


「とりあえずあと4日間は入院の予定なので、それまでには決めようかと……」


 4日で心力の器をなんとかせにゃならんのよなぁ……


 このままじゃ職にもつけない、冒険者にもなれない、しかも文無し。

 お先真っ暗すぎる……退院後のことなんて考えられませんよまだ……


 ……退院……あれ?


 ……なんだこの違和感……入院して退院する……当たり前のことだ……ってあっ!!治療費!!


 うっわ、完全に忘れてた……そういや、治療費や入院費ってどうすりゃいいんだ?

 このままじゃ絶対払えない……うわやべぇ……。

 支払い待ってもらえるようお願いするしかないよなぁ……またエリカさんに迷惑かけるとか気が重すぎる……


「ユウさん、なんか顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」


 隣のベッドに座るエリカさんが窺ってくる。


「え?あぁ……大丈夫です。えっと、なんの話でしたっけ?」


「もう、ご自分の身体のことなんですから、ちゃんと聞いてくださいよ」


 プンプンと言う感じで怒るエリカさん。

 いつもなら可愛らしく見えるそんな仕草も、今はなんだか直視できない……


「えぇ~っと、ユウさんの入院期間が短くなりそうなんですよ」


「えぇっっ!?」


ビクッとするエリカさん


「ん?良いことじゃないか?なぜそんな風に動揺するんだ?」


 椅子を片付け、エリカさんの隣に座っているルーカスさんが訝しげに聞いてくる。


 あまりの衝撃に、露骨な態度をとってしまったようだ……声もかなりデカかったし。


「すいません。ちょっと予想外すぎたものですから……」


「なぁにぃ?エリカに惚れちゃったとか?それで退院したくないとか~??」


 俺の方へ身体を傾け、目を細めて覗き込んでくるリンさん


「ち、違いますよ。からかわないでください!」


 仰け反りながら否定する俺。

 チラっとエリカさんを見ると、俯いて赤くなってる。

 ほら~~のちに気まずくなったらどうすんだよ~~。


「んじゃ意外にもナナとか?あんたイロモノ好きねぇ……」


「それはないです」


「そ、そう」


 あまりにもな無表情で返され、引いちゃうリンさん。


「それで、退院が早まることに動揺したのはどうしてなんだ?」


 さすがに冷静だなぁ……


「いやまぁ……話すと長いんですが……」


 俺はここを脱走してから寝る前までに起こったことを、かいつまんで話した。


「あんた、起きて早々何してんのよ……」


「器の存在を感じられない……?

記憶を失った弊害か?」


「お父さん……お姉ちゃん……」


 そんな三者三様のリアクションに対し


「ま、まぁ……それに関しては反省していますとも……」


「自分でもよくわかんないんですよねぇ……」


「クルスさんはとっても良い人でしたよ?」


 とそれぞれ返し、続きを話す。


「で、あと残り4日でなんとか心力の制御を修得しようと思ってたんですが……」


「退院が早まって焦った。ということね」


「は、はい……」


 身も蓋もないなぁ……


「なるほど、でもそれってウチを退院してからでも出来ることなのではないですか?

あっ、別に居て欲しくないってことじゃないですよ?」


 いやいや……文無しでここを放り出されたら鍛練どころか、生きていけないんですが……


「……金か」


 さすがルーカスさん……当たらなくていいんですけどね~そんなこと


「……」

 無言で俯く俺。


 しかし、こうも自分の考えが表に出ちゃうのは、よくないよなぁ……


「あぁ~なんだそんなこと?」


 いやいやいや、俺にとっちゃかなり切実な問題よ?


「それなら心配いらないわ。ブラック・オーガ討伐の成功報酬、あんたにも渡すつもりだから」


「……はい?」


「当然だろう。奴を倒せたのはお前のおかげと言っても過言ではないのだからな」


 過言だろ……トドメ刺したのだってこの2人だし。

 それになんでそこで金が出てくるんだ?


「え~っと……なんでブラック・オーガを倒したらお金をもらえることになるんでしょうか?」


「あぁ……それは」


 ルーカスさんは自分達が受けていたクエストについて、経緯なども含めて説明してくれた。


「んじゃ、そのクエストの報酬を俺にもってことなんですね?」


「そゆこと~ありがたく受け取りなさいよ~?」


 リンさんが冗談めかしてそんなことを言う。


「まぁー俺達からの礼の気持ちだ。受け取ってほしい」


 確かに、そのお金を貰えば入院費も含めた治療費も払えるし、しばらくは生活していけるだろう……でも


「お断りします」


 更新が以前のペースより遅くなってきていて、申し訳ないです。


 なんとか元に戻せるようがんばります。



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