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「これはですね、青い方の核石に水量を、赤い方には温度を創造して、心力を流すことでお湯が出る仕組みになっているんですよ」
エリカさんが浴室にある例の赤いのと青いのをそれぞれ指差しながら説明してくれる。
もちろん服は着ています。寝間着の方ね。
「すいません……かくせきってなんですか?」
「え?……あぁ、そうでしたね。うん……」
一瞬、哀しみを帯びた瞳で俺を見たエリカさんはすぐさま調子を戻して説明を続けてくれる。
もうなんか、この感じに慣れ始めてきている自分に哀しみを覚えるわ……どうしてこうなった……。
もちろん、我が天使エリカ嬢は何も悪くないですよ?
そう……全ては俺が悪いのさ……笑っとけ笑っとけ……あれ?目から水が……
「核石というのはですね、魔獣の心臓にあたる石を加工したモノです」
あら?なにやら急に雲行きがグロ系の方へ?
「し、心臓?」
「はい、魔獣の生命活動の核になっているのがこの石だと言われています。つまり私達でいう心臓に当たるわけですね」
人差し指を立てた右手を顔の横に持ってきて、笑顔で解説してくれるエリカさん
だから心臓か……核になる石で核石ってことなのかね?
「それは、冒険者の人達とかが、魔獣を殺して抜き取ってくるんですか?」
「まぁー大概はそうですね。うちのお姉ちゃんもたまに依頼を受けて取ってきたりもしますけど」
…………さすがすぎるぜキックの鬼……。
「ナナさん強いですもんねぇ……」
ちょい引き気味にそう言うと
エリカさんは嬉しそうに微笑みながら
「そうなんですよー!自慢のお姉ちゃんです!」
小さな胸を張って自慢してきちゃうエリカさん。
かわゆいのぉ……なんでお姉ちゃんにこの感じゼロなんだろうね……意味わからん。
っと、ちょっと話がズレてきてるな。
「えっと、ナナさんが素敵すぎるのと、核石については大体わかりました。
俺がこんななばかりに、わざわざ遠回りな説明までしてもらっちゃってすみません。
それで、最初に戻るんですけど、この核石に創造を纏わせた心力を込めなきゃ、シャワーは浴びれないってことでしたよね?」
ナナさんも話が脱線しているのに気がついたらしくちょっと恥ずかしそうに
「そういえば、その話をしてたんでしたね」
と小声で確認し、答えてくれる
「それで間違いないですよ。青が水量で、赤が水温の調節ができます」
つまりさ、心力の制御どころか、器すら失踪中の俺はシャワーすら浴びれないということだよな?
しかも!!シャワーがこういうことになってるということは……
「こういう核石が使われている生活用品っていっぱいあって、みんな使ってる感じですか?」
「そーですねぇ……全てが全てではないですし、個人個人やその村や町にもよると思いますが、昔よりも安価で便利になってきてますし、利用者は多いと思いますよ?」
ということは心力を制御、操作できなければかなりのロートル野郎決定。
事実上、社会不適合者の烙印が押されるわけか……
ふざけんなッッッ!!!
なんだよこれもう~~~。
そんなん聞いてないぞっっ!!
最悪、なんとか職を見つけて、器を見つけるまでの場繋ぎにしようとか考えてたのに……
心力を操作できるのが常識で、それを利用した便利道具が出回ってるこの世界じゃそれすらも絶望的じゃん!!
自然に帰れってか?サバイバルしろってか?
3日前まで日本でヌクヌク生きてた高校生に?
できるかぁッッッ!!!
死ぬ気で瞑想するしかない……出来なきゃマジで死ぬかもしれないんだ……やるしかない!!
パソコンが普及し出したことで窓際に押しやられてしまったベテランサラリーマンのごとく狼狽する俺。
そして目の前で突然、絶望感と焦燥感溢れる黙考状態に入り、あげく何やら狼狽し出した俺にビビるエリカさん。
が、それでも心配してくれてるのか、恐る恐る声をかけてきた。
「だ、大丈夫ですか?私、何か不味いこと言ったでしょうか?」
自分の醜態をエリカさんに晒していたことにようやく気づいた俺は、急いでそれを否定する。
「あ、すみません!人前で考え込んじゃうのは僕の悪い癖で……失礼しました。エリカさんはな~~んにも悪くないです!むしろこれ以上ないほど感謝しています!!ホントありがとうございます!」
両手をフリフリ、口をパクパクさせて大袈裟にアピールする俺。
……この頃こんなんばっかだな……どっちかと言うと、ミステリアスでクールな奴でありたいんだが……え?大マジっすよ?
「そんな……感謝だなんて……看護婦として当然のことをしているまでです」
頬に手を当て照れる天使ことエリカさん
そんな彼女を見てニヤつく俺
「何してるの?こんなところで」
それを見て不信感丸出しな視線をこちらに送るキックの鬼ことナナさん
生まれるカオス……




