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「いただきます」
「……いただきます」
「いただきます!」
治療院の2階はエリカさんとナナさんの部屋があったりする生活スペースだった。
1階の診療室にある階段を上がるとダイニングキッチンがあり、今そこで朝食を頂いてたりする。
メニューはサンドイッチとコーンスープ。
サンドイッチはテーブルの真ん中にある大皿にいっぱいあって、各々が自由に取っていけるようになっている。
エリカさんが俺達を待ってる間に作ってくれていたのだ。
ありがたや……ありがたや……
手渡されたお手拭きで手を拭いて、さっそくサンドイッチを手に取る。
「うまぁ……エリカさん料理上手ですねぇ」
「うん、おいしい」
「ありがと、お姉ちゃん。ユウさんも、お口に合ってよかったです。どんどん召し上がってくださいね」
俺はそういやあの豆スープ以来何も食ってなかったことを思いだし、かなり夢中になって食べてしまった。
「ふふっ。やっぱり男の子ですねぇ~いっぱい作ったかいがありました。」
「少しは遠慮するべき」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま……」
「ごちそうさまでした!!すごく美味しかったです!」
食事が終わると、各自の今日これ以降の予定を確認しあう。
エリカさんは昼まで休憩。
ナナさんは診療室で待機。
俺は病室でおやすみなさい
ということになった。
確認を終え、3人で片付けを始めると、ナナさんがおもむろに俺へ近づいて来て
「臭い」
と一言言い放った。
一瞬思考が止まり、再起動すると急いでに自分の匂いを嗅ぐ
確かに……そういや結構汗かいたりしたもんなぁ……うわ~気まずい。
と思っていると
「そういえばユウさん、お洋服も少し汚れていますね」
とエリカさんの鋭い一言が俺に刺さる。
その結果、俺は浴室、服は洗濯カゴに行くことが決定した。
ナナさんの無表情での「臭い」発言も泣きそうになったが、エリカさんの「そういえば……」の時の汚れチェックをする目も胸に激痛が走りました。
脱走はするわ服は汚すわで居たたまれなさが半端なかったっす……エリカさんの目とか見れなかったもん。
たださぁ、服の汚れについてはキックの鬼に襲撃受けたからってのを忘れてはいけませんよっっっ!?
っと思っても言えないけどね……ふっ……
乾いた溜め息を吐きつつ、借りた寝間着とバスタオルと悲しみを抱えて浴室へ向かう。
その際、診療室に向かうナナさんが後ろからボソッと
「脱走したくせに、食べて寝るだけなんてずるい」
「…………」
いや、確かにね。これからお仕事に向かうナナさんからしたらそりゃぁイラつくかもしれないよ?
だけどこれはヒドくないですか?完全にトドメ刺しにきてますよね?
さすがに一言返してやろうと思い、振り返ると……
そこにはすでに誰もいませんでした……
もうさ~あなたホントに治療院の看護婦さん???
入院者の心、ズタボロですよ!?
洗面台のある脱衣室で溜め息を吐きつつ服を脱いでいると、ズボンのポケットからタオルが出てきた。
あ、クルスさんに洗って返すこと言い忘れてたなぁ……まぁーエリカさんに渡せば大丈夫か?
とりあえず今、一緒に洗っちゃお。
着ていた制服を洗濯カゴへ入れ、タオル片手に折戸を開ける。
「うおっ!?こっちの世界にもこんなんあるのかぁ」
目の前にあるのは、形が洋式の多分トイレ。
その右隣に仕切りカーテンと浴槽、壁から生えたシャワーヘッドがあった。
他の場所は全て木造だったが、浴室なだけあり、天井も壁も床も薄ピンクのタイル張りだ。
シャワーヘッドの隣に小窓があって、そこから日の光が入ってきてる。
ふむふむ、そっかそっか、と確認しつつ浴槽に入る。
さてさて、どこかな?ん?ここかな?
うーん……ないよな?どこをどー見てもない。アレがないよ?アレが。
レバーとか、バルブとかスイッチとか……そういうアレが。
いやいやいや、えっ?どゆこと?どうすればいいの?……ってあれ?これはぁ~……
目の前に青と赤のウズラの玉子くらいの宝石っぽい奴が嵌め込まれている。
最初はただの飾りだと思ってたのだが、こうなってくると怪しい。
…………これか?
恐る恐る赤い方を押してみる。
…………。
何も起こらないな……
キョロキョロして何かしらの変化を探してみるが、何もない。
なら次は青を押してみる。
…………。
なんもないんかいっっ!!
はぁ~どーすっかなぁ……エリカさんに聞くか?
いやいや、昼まで寝てるって言ってたしそれはダメだ。
キッ……ナナさん?ないない。
「しゃ~ない、諦めるか。このまま裸でグダグダしててもしゃーないしなぁ」
一旦浴室から出て脱衣室に戻る。
寝間着を着るか、制服を着るかだけど、どっちにするかな。
身体を洗ってないのに綺麗な寝間着を着るのはなんか抵抗がある。
かと言って一度脱いだ制服を再び着るのもなぁ……ベッドも汚れるだろうし……
と男らしく裸一貫で腕組みして考えていると
「ガチャ」という音がして、ダイニング側のドアが開いた。
「ん?」
音がした方を見ちゃうのは当然だよね?
そこには、ピンクの可愛らしいパジャマ姿のエリカさんが立っていた。
「えっ?……ひゃ!ごめんなさい!!」
「バタン!!」
…………。
ぐす……モウカエリタイ……
っていやいや!!ここで終わらせたらダメだ!!
普通に考えたら向こうが悪いはずだ……だが、なんとなく俺が悪い空気が流れてしまってる気がする。
ただでさえエリカさんには迷惑かけまくってんだ!こちらから謝らねばなるまい!!
「あの~~~まだそこにいますか~~?」
「は、はい!すみませんでした!カギが掛かっていなかったので間違えてしまって……」
カギだとっっっ!?
すぐさまレバー式のドアノブ近辺を見る。
あっ……なんかツマミがある……
この時点で俺とエリカさん、どっちが悪いかが微妙になってくる。
いや!ちゃんと確認しなかった俺が悪いだろう……くっ……
「すいませんでした!!俺がちゃんと確認しなかったばかりに!!」
「い、いえいえ私こそごめんなさい……ちゃんと確認するべきでしたし、カギのことも言ってなかったので……」
くぅ……なんて良い人なんだ……それに比べて俺は……
「所詮、お前さんはその程度じゃったか」
うっせぇクソジジィ!!引っ込んでろ!!
「あ、あの~ホントすいませんでした。もうホント、なんてお詫びしたらいいか……」
「いえ、ホントに!そんなに気になさらないでください。これでも看護婦なんです。男性の裸を見ることだってあります。それに、あくまで事故ですし。おあいこってことで」
もう……何も言うまい……このことについてはこれでおしまい!!あんまりグダグダ言って困らせても本末転倒だしな。
ただ、この人のことは天使認定しておくことにする!!
「てん……エリカさん、なら最後に1回改めて謝らせてください。ホント、すみませんでした」
「はい。なら私も……コホン。すみませんでした。」
ドアの向こうでお辞儀をする気配を感じる……やっぱ天使だな
裸のまま、頭の中をお花畑にして、そう納得する俺がいた。
いつの間にか、大変多くの方がこの作品を読んでくださっています。
本当に本当にありがとうございます。
ただ、未熟な私には畏れ多い状況でもあり、喜びと恐れの感情がない交ぜになっているのが正直なところです。
特に今話のような「なんだこの話……中身無さすぎだろ」っという時は戦々恐々としてしまいます……
まぁー……がんばるしかないんですが(苦笑)
「自分の作品を読んでくださる方がいる」
というのは幸せです。
なのでがんばっていこうと思います(笑)