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 気まずい……

果てしなく気まずい……


ギルド支部の中に入ると、クルスさんが壁際の隅に置いてあった丸椅子を3脚、片方のテーブル周りに置いた。


「こちらで少しお待ちください。今、お茶を用意して参ります」


と言うと、カウンターの奥にあるドアの向こうへ消えていった。


つまり、今俺はエリカさん似のキックの鬼と2人っきりでこのフロアにいるわけで……


うぅ……なんかしゃべらなきゃマズいか?


でも、睨んではいないにしろ、こちらに向いてる視線が尖ってる……纏ってるオーラが刺々しい……


うぉぉぉ……空気が重い……呼吸が苦しい……早く戻ってきてくれクルスさん……死んじゃう……俺、死んじゃうよ……?




それからどれくらい経っただろうか……地味につらいこの空間に耐えられず、いっそ治療院に帰っちまおうかと考え始めた頃、やっとクルスさんがお盆を片手に戻って来た。


「お待たせいたしました。お口に合えばよいのですが……」


そう言いながら各々の前にソーサーに載ったティーカップを置いていくクルスさん。


よかった……がんばった……俺。


あの空間を耐え抜いた自分へ感動していると、カップからたつ湯気に乗って、良い香りが漂ってきた。


カップの中は澄んだ綺麗な緋色で満たされていた。香りもすごく良いし紙パックとかペットボトルに入ったやつとは全然違う。


俺が感心してカップの中を見つめていると、クルスさんも席に着き


「さぁ、冷めないうちに召し上がってください」


「は、はい。いただきます」


カップを持ち上げ、傾ける。


「うま……」


ってか何よりほんわかするわぁ……張り詰めていた心も緩んでくる。


目を向けると、心なしかキックの鬼の表情も柔らかくなったような気がする。


場が和んできたところで、クルスさんが


「お二人共、お口に合ったようでなによりです。では、そろそろ本題の方に入りましょうか」


と言い、自らが持っていたカップをソーサーに置いてから、キックの鬼に掌を向ける。


「彼女の名前はナナさん、私の娘で、エリカさんの双子の姉です」

……………………………。


あー……はいはいはい……なるほどね。このパターンね。まぁーでもそうくるかぁ……あれでしょ?よくあるあの……えーっとなんだったっけ……そうそうアレだアレ…………いやまぁ…………なんかもう…………ホント疲れた…………ウチに帰りたい……


「そ、そうだったんですか……とてもこんな大きな娘さんがいらっしゃるようには見えなかったので、びっくりです……」


全身から力が抜けるような感覚を覚えながら、ぶっきらぼうに言葉を紡ぐ……


いや、答えただけでも俺がんばった方だと思うよ?


それに対しクルスさんは満面の笑みで


「はははっ。それは嬉しいことを言ってくれますね。最近は歳のせいか、物忘れなんかも多くなってきたんですが、まだまだ現役でがんばっていけそうですね」


「そ、そうですね……まだまだ全然若々しいと思いますよ?非常識なほどに……」


最後の方はボソッと言っておく、一矢報いてやりたいじゃん……


まぁ~クルスさんのことは今はそんないいんだよ。

肝心なのはキックの鬼ことナナさんについてだ。


「えーっとあの~そうなると、ナナさんはどうして……その、俺に襲いかかってきたのでしょうか?」


俺は紅茶をちびちび飲んでいるナナさんをチラチラ見つつ、ちょっと責め気味にクルスさんへ質問する。


襲撃の被害者ですからね?俺。両腕だって今だに痛いし!


そんな俺の心境もどこ吹く風なクルスさん


「ふむ、それについてはナナさんにお話していただきましょうか」


再びカップを持ち上げながらナナさんに話を振った。


えぇっ?ここでナナさんに振っちゃうの?

ってかむしろしゃべれるの?この人


内心驚きつつ、恐る恐るナナさんへ顔をむける。


紅茶を飲み終え、一息ついたらしいナナさんは、これまでで一番リラックスした表情で、こちらを見つめてきた。


……うん、やっぱ美人だなぁ。なんか照れる。


とか油断していると……


「なぜ、治療院を抜け出したの?」


うぉしゃべった!?声ちっさいけどしゃべった!!


「……答えて」


「は、はい!……ってえーっと……あぁ、治療院から抜け出した理由でしたね。それはえーっと、なんと申しましょうか……」


背中に冷たい汗が一筋。


忘れてた……俺、脱走した身だったんだ……心力のこととかで頭からすっ飛んでた……うわやべぇ……「暇で……」とか絶対言えない……でも正直に話す以外、選択肢なんてない……だって嘘のつきようがないもん……


俺は両手を両膝に置き、頭を下げる


「すいませんでしたっ!どうしても外で身体を動かしたくなってしまって……

でも、それを言っても反対されるだけだと思って……」


それを見たナナさんは


「エリカはすごく心配していた。安静にしておくよう伝えたはず」


視線がまた鋭くなる。

うはぁ……当然ながらめっちゃ怒ってる。

背後から「ゴゴゴゴゴゴゴ……」って聞こえてくる……。


汗が吹き出る……悪いのは明らかに俺だ。


「ご、ご心配をおかけしたことはホントに申し訳なく思っています……」


いや実際、看病してるほうからしたらそりゃ「ふざけんなコノヤロー!!」なことこの上ないよな。

せっかく治療して看病までしてやった人間が、目を覚ました途端に脱走とか……


エリカさんにもきっちりきっかりちゃんと謝らないとな。


っつか、「脱走する時にワクワクしてた」とか「あわよくば酒場とか入ってみたかった」とか絶対言えないな……マジで殺しにきそうだしこの人。


なんせいくら病室から抜け出したからと言っても、一応は怪我人の俺に殺気を纏わしたマジ蹴りを放つ人だ。


いやいやわかってるよ?確かに悪いのは俺だ。でもだからってあれはやりすぎだろ……もっとこう……話し合いとかいろいろ……


……ってダメだダメだ。メチャクチャだけど、なんだかんだでナナさんも俺の身体を心配して怒ってくれてるはずだ。ここはちゃんと謝るのが筋だろ。


「それに、私の蹴りを全部避けた」


……………………………。


「え?」


「エリカを心配させた。

報いを受けるのは当然。

なのに全て避けた。」


いやいやいや……マジか?この人。

とっさにナナさんの目を見る。


うん、こりゃマジだな。目ヂカラが半端ないもの……ん?いやでも

「出会い頭の一撃と、最後の一撃……2発ももらったじゃないですか」


そう言う俺に、かぶりを振るナナさん


「最初のは後ろに跳んでダメージを軽減させてた。最後のもあなたにダメージを与えれてない」


こ、こんな理屈、誰が納得するんでしょうか……

俺には、良いのが決まるまで蹴られ続けろとしか聞こえません……悪魔かこの人……


あまりの理不尽さにうち震えていると


「フフフッ。神術を使用してないとはいえ、初見でナナさんの技をああも見事に捌き、正面から受け止めても倒れなかったのはユウ殿が初めてですからね。悔しいのでしょう」


「…………そんなことない。本気出してないし」


「フフフ」


なんだこの親子……


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