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 「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ……ふっ……」


薄暗がりの中、所々雑草の生えている空き地のような場所で、俺は上半身裸になり一心不乱に全力疾走していた。


気が振れて変態になったわけじゃないよ?

ヤケクソにはなってますけどね……あはははははは~


器を感じ取るための鍛練で、思うような成果が得れなかった俺は、気晴らしに身体を動かしたいとクルスさんに申し出、ここを教えてもらったのだ。


一通りの柔軟、筋トレをしてから、空き地の端から端の間を往復ダッシュする。


空き地に着き、とりあえず始めたのがいつもやっている基礎トレだった。


最初は身体を温める程度にと思っていたが、鍛練の失敗も含めてここに来てからの様々なことにイライラもピークだったせいか、気付いたら基礎トレから結構ガッツリやっていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


ダッシュを終え、息を落ち着かせるため一旦休憩をとることにする。


空き地のはしっこにある小さな木の枝に突っ掛けておいたタオルを取り、汗を拭う。

ちなみにシャツもここに突っ掛かってる。

って別にいらないかこの情報……


身体能力が上がりやがってるおかげで、柔軟以外はいつもの3倍こなさなきゃ身体に負荷が懸かっている感覚を得れなくなってる……


こりゃぁ……なんか考えないと全然鍛練にならないな……ってか効率悪すぎだ。


めっちゃ重い胴着着て、重力が何十倍にもなる部屋とかで鍛練しなきゃダメかな。


うわぁ……人間離れしてきてるとはいえ、戦闘民族寄りになる日がくるとは……


苦笑いしつつ汗を拭い終わり、再び木の枝にタオルをかけ直す。


まぁー今は、それよりも心力をどうにかしなきゃいけないわけだが……


小休憩を終え、空き地の真ん中あたりまで歩き出す。


どうにもならないんだよなぁ……こればっかりは。


足を止め、頭だけ下に向けながら「ふぅ……」とため息を吐く。


足元を見ながら、思考を切り替える。


今は鍛練に集中だな……ここで考え込んでもなんも解決しないわけだし。


頭を上げて、四肢に力を込める。

よし……まずは一人打ち込みからいこう。


背負い投げや体落とし、内股などの柔道技を相手がいると想定して何度も掛けていく。


ボクシングやピッチングなどでよく聞くシャドーってやつだ。


これも回数を重ね続けると結構キツかったりする。


単調な練習にならないように、途中からは小内刈りや大内刈りなどの足技も入れたりすることで、より実戦に近い形で打ち込んでいく。


これも回数的にはいつもの3倍をこなしたところで、動きを止める。


「はぁ……はぁ……はぁ……スゥゥゥ……フゥゥゥ……」


耳朶に触れる音が、心臓の奏でる律動のみになる。


目を閉じ、上を見上げて深呼吸をする。


ひたすら身体を動かした後に、冷たく澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。


この瞬間が俺はたまらなく好きだ。


頭の中が真っ白になる。


脱力感と冷気が身体に浸透していき、熱されすぎた心身から良い具合に熱が逃げていく。


少しの間この感触を楽しみ、目を開ける。


ここまでで身体が解れ、五感と集中力が研ぎ澄まされている良い状態が出来上がる。


「よしっ、イイ感じだな。

最後に型稽古して締めるか」


意識を柔術に切り替える。


型といってもウチの流派はあくまで、実戦武術だ。


敵の幻影を目に浮かべ、それを倒すために型を当て嵌めていく。


今、目の前に立つ幻影は隻眼、隻腕のブラック・オーガだ。


呼吸を整える。

構えは自然体。

四肢の先まで力を行き渡らせる。


次の瞬間、先の戦いで俺をふっ飛ばした横薙ぎの一閃が迫ってくる


それに対し、体勢を低くし避け、前方へ跳ぶ。


そのまま体が開らいている奴の懐へ入り、鳩尾に抜き手を放つ。


巨体が後方へ浮くが、今の一撃くらいじゃ奴を倒すことはできない。

着地後、再び奴がこちらに向かってくる。


隙だらけのめちゃくちゃな動きだが、その豪腕から放たれる一撃一撃が致命打であり、油断は決してできない。


俺は奴の動きに合わせ、呼吸法や歩法といった基礎から、突きや払い、投げなど一通りの型を以て対峙していく。




しばらくの間、その攻防が続いた。


もちろん満足のいく決着がつくまで続けるつもりだった。


だが、疲労が溜まってくるにつれ、フと先ほどの失敗が脳ミソを掠め、そこから勝手に余計なことを考え始めやがり、集中力が乱されてくる。


心力の制御なんてできないかもしれない……


こんな知らない世界でちゃんと生きていけるのか……


日本に帰れないかもしれない……


今までなんとか封じ込めてきたそんな不安や怖れといった感情が動きを重くする。


「あっ……やばっ」


一瞬、俺の動きが鈍り、大斧の一撃を避けきれずにくらってしまったところで、稽古を止める。


「はぁ……はぁ……くそっ……ホント未熟だ……俺」


そのまま身体の力を抜き、背中から仰向けに倒れる。


当分、動く気しないわー


火照った身体に夜風が駆け抜けていく。


そういや森でもここでもちゃんと夜空を見てなかったな……


ベタだけど、普通に星が多く見れて綺麗だ。


東京じゃなかなか見れない夜空ですなー


だけど、月は1個なんだよなぁ……異世界には2個とか3個あるのが定番なのに……




「心力を宿す器を感じ取るための鍛練法……それは、瞑想です。目を閉じ、ひたすらに己と対峙することで、内にある器を探しだす」


…………………………。


「そ、それだけですか?」


「え?……そうですけど……何かお気に召しませんでしたか?」


「い、いやいや……別にクルスさんが悪いわけじゃないですしね……

ま、まぁーとりあえずやってみます!」




ダメだった……

いくら目を瞑って「うむむむむむむ」と唸ってみても、なーんも見当たらなかった……


「はぁ……俺には心力を制御するなんてできないってことなんだろーなぁ……。

ってかそりゃそーだろ、大体こちとらこの世界の住人じゃねーんだっつうの!

無茶ブリもいいとこだぜ……いやマジで……

はぁ~~~~~~~~~~……」


星空に向かって盛大なため息をついてやるしか、その場で俺ができることなんてなかった。




なーんもやる気がしないので、ふて寝をしていると夜空に山吹色が混じり始めた。


あー……そろそろ戻らないとなぁ。と思い、立ち上がる。


「んあぁ~~~」


背伸びをし、シャツとタオルを取りに行く。


一旦ギルド支部へ寄ってから、治療院に戻りますかな。


クルスさんにちゃんとお礼しなきゃだしなー。

タオルは洗ってから返そう。


「でも結局、稽古も中途半端に終えちゃったし、心力については絶望的……踏んだり蹴ったりとはこのことか……」


項垂れたつつ、汗と汚れを拭い、シャツを着て、タオル片手にギルドを目指す。




カランカラーンという音をさせながらギルドの扉を開くと、中にはクルスさんがおり、彼と団欒している見知った美人が居た。


「あ、お帰りなさいユウ殿。気晴らしはいか……」


クルスさんの台詞を最後まで聞けずに、俺は後方にぶっ飛んでいた。


なんか最近こういうの多くね?



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