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「心力を制御するにはまず、自分の心力を意識下に置く必要があります。
これができなければ当然ですが、制御など夢のまた夢でしょう」
はぁ……リンさんとルーカスさんで慣れていたはずなのに……あの憐れむような目はやっぱきついなぁ……
最低でも、この村を出るまでにはこの世界の常識を身につけておかないとな。
今まではなんとか良い人達に巡り会えてるから無事でいるけど、この先もそうとは限らないわけだし。
この世界に身内はいないんだ。
そして世界ってやつはそんなに優しくない。
常識、仕事、それに心力……
まだまだ足りないものがたくさんあるけど、1人で生きていくために必要なモノをなるべく早く身に付けなきゃな……
「ユウ殿?聞いてますか?ユウ殿?」
右肩を揺さぶられてハッとする
やべ、またやっちゃったよ……人前で考え込むこの癖も直してかないとなぁ……
「あ、すいません……ちょっとボーッとしちゃってました」
そんな失礼極まりない俺を怒るわけでもなく、むしろ少し心配そうな表情を浮かべるイケメンさん
「そういえば、お身体はまだ万全でないのでは?
であれば、日を改めた方がよろしいのではないですか?」
うわぁ……やっぱ良い人だなこの人……ちゃんとしなきゃな俺も
「いやいや、身体の方はもう全然大丈夫です!頑丈なことだけが取り柄ですし、治療してくれた先生の腕もすごく良かったみたいなんで。
今のはホント、ボーッとしちゃっただけで……ん?」
ちょっとタイム……
イケメンさんも「?」と言う表情になる
「ってあれ?僕ってあなたに自己紹介しましたっけ?」
俺がフとそういやさっきからちょくちょく名前を呼ばれているのに気付くと、何やらイケメンさんも気付いたらしく
「あ……これは失礼いたしました。ルーカス殿からユウ殿のことについて聞いていましたので、すっかり知人のように接してしまっておりました。申し訳ございません」
そう言って軽くを頭を下げるイケメンさん
「あーなるほど。いやいや、別にそんなのは全然いいんですけど……
もしよかったらあなたのお名前も聞かせてもらえますか?俺だけ知らないのもアレなんで」
それを聞くとイケメンさんは少し申し訳なさそうな微苦笑を浮かばせる
「もちろんですとも。
むしろこちらからお願いすべきことでしたね。
重ね重ね申し訳ございません」
そう言いイケメンさんは握手を求めてくる
「私の名はクルスと申します。
このギルドのしがない職員でしかありませんが、これからもよろしくお願いします」
がっちり手を握り返し
「僕も改めて……ユウと申します。こちらこそよろしくお願いします」
笑顔で名と手を交わすことで、俺達の間に何かが生まれたような気がした。
それが何なのか、まだわからないけれども、大切にしていけたらいいなぁ……と心から思う。
順番違いの自己紹介を終えると、クルスさんは「では改めて」と仕切り直し、心力について話し始めた。
「心力を意識下に置くためにまずしなければならないこと、それは……」
クルスさんは自分の胸に手を当て、こちらに目を向ける。
「己の内に在る、心力を宿す器。
これを明確に感じれるようになる必要があります」
心力を宿す器……
本当にそんなものが俺の中にあるのか?
自然と俺の手も自分の胸へ行く
「ど、どうすれば器を感じ取れるようになるんでしょうか?」
クルスさんは人差し指と親指を顎に添え、何やら考えながらこちらに説明し始める。
「ふむ……通常は歳を経るにつれてなんとなくではありますが、感じ取れるようになってきます。
ちなみに適齢期は大体6、7歳です。
そうなってから、学校あるいは親などから明確に感じ取るための、そしてその後に心力の制御方法について手解きを受けます。
ユウ殿は今の時点で、全く器の存在を感じ取れていないように見えるのですが、いかがでしょうか?」
マ、マジか……それってつまり、俺には心力を制御することはできないってことなんじゃ……?
「は、はい……今のところ、俺の中にそういったものがあると感じたことはないです……」
見るからに落ち込み始める俺
励まそうとするクルスさん
「まだ諦めるのは早いです。
なにせ、私はあなたの内から力強い心力の存在を感じます。
すなわち、心力を宿す器は必ずあなたの内に在るのです。
どういったことが原因で今、感じ取ることができないのかは不明ですが、鍛練すれば必ず感じ取れるようになるはずです」
ク、クルスさん……ありがたいお言葉なのですが、「必ず」と言いつつ、最後に「はず」がついちゃってるよ……?
苦笑しつつ……
でもまぁ、がんばってみますか!と思い直す。
「あ、ありがとうございます……
そうですよね!やる前から諦めるなんて絶対にダメだ!
とりあえずやってみる!今はそれしかないですよね!!」
半ばヤケクソ気味に前向き発言を並べ、己を鼓舞する。
「そうですとも!その意気です!私もできる限りお手伝いしますので、がんばりましょう!」
謎のハイテンションが場を支配し始め、クルスさんが俺の両肩に手を置いて揺すってくる
俺も両コブシを胸の前あたりまで持ってきて
「はい!がんばります!」と意気込む
「んで、具体的な鍛練方法はどういったものなのでしょうか?」
「はい!それは……」