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15分ほど無の境地に陥った後、再起動した俺はとりあえずわき上がる恐怖や不安、怒りを無理やり抑え込むことにした。
「まずは現状把握と行動指針の決定が最優先事項だな」
と声に出して確認し、己に言い聞かせる。
始めにしたのが携帯チェックだが、当然これは圏外。時刻を確認してみたところ、19:32と表示されてはいるが、今いる場所は一応太陽の光が確認できるため、これも特に意味はなさそうだ。
あとはまぁ……財布の中には、お金とPASMO、各種ポイントカード。
バッグの中には汗まみれの柔道着とインナー、あとはノートに教科書……
およそサバイバルには不必要なものばっかりだ。
絶望的な状況なのを再確認し、次は行動指針だが……
これに関しては
「とりあえず、ここにいてもしょうがないよなぁ……なんせ木しかないし。
移動するしかないな……誰かいてくれればいいんだけど……」
という結論に至るまでそれほど時間はいらなかった。
ひとまず移動するということに意識を集中して、余計なことは考えないようにする。
周りは巨木ばっかりで木の実すら発見できないし、時々発見する草花やキノコは見たことないものばっかり……
虫やネズミっぽいのもしかり……
なんだここ、マジでどこなんだよ。
しばらく闇雲に歩き回ってわかったことは、人の手が加わっていない大森林を歩くのは意外と大変で、比較的歩きやすい道を選んで歩いているとはいえ、進むスピードが遅いってことだった。
じれったい思いに歯噛みするが、焦っても仕方ないと自分に言い聞かせさらに歩く。
「不幸中の幸いなのは、虫や小動物がわんさかいるってわけでもないところか……それでもこの環境で野宿は絶対したくないな」
とひとりごちていると、少し先の方からわずかだが水の流れる音が聞こえてきた。
急いでそっちの方へ進むと、陽の光が射し込む岩場が現れ、なだらかな流れの幅3メートルくらいの川を見つける。
「とりあえずこっからは川沿いを下流に向かって進もう。釣り人とかに会えるかもしれないし、村とかあるかもしれないしな」
なんとなく希望が見えてきて多少、安堵する。
小休止した後は再び歩き出す。
先ほどまでとは違い視界良好な岩場は移動しやすく、草や枝を掻き分けたり、虫とかをそこまで注意する必要がないため、逸る気持ちも重なって小走りで移動する。
陽が傾き木々や川がオレンジ色に染まる頃、ようやく河原になっている場所に出ることができた。
周りの木もそこまでデカいのはなくなってきていて、もうちょっとで森は抜けられるかもしれないな……
という感じになってきた。
ここまでで大体、5時間。
携帯を確認してみて初めて気づいたが、全然疲れていない……。
いくら俺が柔術やら柔道やらをやっているからって、見知らぬ森で5時間も動きまわって疲れ知らずとかありえねぇ。
身体能力が上がってる?
いやいやありえないだろ……。
というところまで考えていたところ、「ぐぅ~」という腹の音が聞こえてきて、考えるのをやめた。
どう考えても答えが出ないことより、一先ず目先の危機についてだ。
周りを見ても石、川、森しかないうえ、飲料水や食料はもちろん、ライターやナイフもない。植物やサバイバルの知識は浅いものならあるが、所詮キャンプレベルで全然信頼できない。
さてどうしたもんか……
ひとまず夕暮れを迎えている今、いくら河原で見通しがいいとはいえ、暗闇の中をここで一晩過ごす勇気なんてない。
「携帯の電池はまだあるし、(携帯の)カメラのライトを頼りに夜通し移動するしかないな……疲れにくくなってるみたいだし、なんとかなるだろ」
そう決めると、とりあえずジョギングレベルのスピードで下流へと向かう。
「がんばれ俺……」