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「うーん……考えてみりゃ当然だよなぁ……まぁー今さらなんだけどさ」
腕組みしながら苦笑する。
店(?)に入るかどうか、入り口の正面に立って悩んでたんだけど、フとそういやなんの店なんだ?と思って、入り口の上に大きく掲げられている看板をよぉく見てみた。
「冒険者ギルド、アルク村支部……って、あーこれがギルドか」
と納得しつつも、見過ごせないある事実が残る。
あんな文字は知らないのに……読めちゃってる……
そういや、リンさんやルーカスさんともいきなりスムーズに喋れたけど、この世界の口語が日本語なわけないよなぁ……
でも俺には日本語に聞こえてたし、日本語を喋ってるつもりで話しかけていた。
んで、会話は成立してた。
ってことはつまり、言葉や文字を翻訳している力が俺に働いているってことだよな
神術の可能性もあるけど、誰がなんのためにだよって感じだし
はぁ……次から次と、なんでこう色々出てくるかなぁ……なんかイライラしてきたわぁ……もしこの世界に俺を召喚しました私みたいな奴が現れたら、必ずぶっ飛ばす……理由がなんであろうと必ず一発は殴る……
そう決めて、これについては一旦保留する。
悩んでも仕方ないし、最近こんなんばっかでさすがにめんどくなってきた。
なんか新事実が出てくるまで、放置じゃボケが。
思考を目の前にあるギルド支部へ切り替える。
ふー……んじゃまぁとりあえず入ってみますか。別に金もいらないだろうし。
中に入るため、入り口へと足を進める。
木造一階建てで、大きさもそれほどでない(近所のコンビニくらいかなぁ……)地味な外観だが……。
はてさて、中はどんな感じなのかな。
と軽く期待感を持ちつつ、ドアノブを回して引き、中に入ってみる。
カランカラーンというお馴染みの音を聞きつつ室内を見回す。
カウンターを隔ててあっち側とこっち側に別れているようだ。
こっち側にはちょっと背の高い丸テーブルが2つあり、壁には何やら紙が何枚も貼ってある。
うーん……パターン的にはこの貼られてるのが依頼書っぽいよなぁ……
向こう側はこちらとは違い、事務作業をするためのデスクが3台置かれてたり、書類などを保管するための棚などがある。
あっちで色々手続きとかしてくれるわけか……
にしても、なんで誰もいないんだ?明かりも点いてるし、鍵も開いてたからやってないってことはないだろうし……
キョロキョロしてると、「ガチャ」という音と共に向こう側の奥にあったドアが開いた。
「おや?こんな時間にお客様ですか……ふむ?見ない顔ですね。ご用件は?」
「カツッカツッ」とドアから出てきてカウンターまで男が歩いてくる。
身長は俺より少しデカいくらいだろうか、スラッとした体型に白いシャツと紺のネクタイ、下が黒のスラックスと革靴という出で立ちをした金髪碧眼イケメンエルフだった……。
肩まである金髪とメガネ、軽く微笑んだ口元がやり手さを伺わせる……
なんだよこれ……エルフって美男美女しかいないのか??なんかむかつくわぁ……
と思いつつも、先ほどされた質問に答える。
「いやーちょっとこの辺りを散策してたんですが、ここだけこの時間でも開いてるようだったんで、試しに入ってみただけなんですよ。すみません」
俺は苦笑して、右手で後頭部を掻きながら言う
……よく考えてみたら、結構な不審者だな……俺
にも関わらず、イケメンさんは「ふむ」となにやら納得すると
「なるほど、見学希望者ですか……でしたらどうぞゆっくりしていってください。
何か聞きたいことでもあれば、ご質問していただいても結構ですよ」
な、なんてこった……こんな不審者に紳士的対応をしてくるとは……モテるだろうなぁ……死ねばいいのに……
っていやいや、初対面の紳士イケメンになんてことを……まいったな……普段モテないせいで、嫉妬の炎が狂おしいほどに燃え上がってる……
俺はなんとか心を落ち着かせながら、カウンター越しにイケメンさんと相対する位置まで移動する。
「あ、ありがとうございます。なら、ギルドへの登録についてお聞きしたいんですがよろしいですか?」
イケメンさんは「かまいませんよ」と言うと、カウンターの下に手を入れ、一枚の紙とカードを取り出す。
「登録していただくにはこちらの用紙へ必要事項をご記入いただき、こちらに心力を込めていただく必要があります」
用紙に手を添えた後、カードの端を摘まんで、俺の目の前にかざすイケメンさん。
カードは全体が銀色でPASMOくらいの大きさだ。
真ん中に、おはじきのような形の紫色をした石が嵌め込まれており、4つある角にも小さな球型の石がそれぞれ嵌め込まれている。
へぇーなんかカッコいいなこれ。ちょい欲しい……
って違うだろ!!
現実から目を逸らしてる場合じゃねぇんだよ!!
さっきイケメンさんが言ってた「しんりょくを込める」ってワード……
まず「しんりょく」がなんのことかわからない時点で終わりな気もするが、これについては聞けばいいことだ……
ただ、それをこのカードに込めるときたもんだ……
俺にそれができるのか?
もしできなかったらギルドに登録できない?
そうなると路上生活者まっしぐらじゃねぇか!!
俺が自分に待ち受けるであろう最悪の未来を妄想し唸っていると
カードをカウンターに置いたイケメンさんがさすがに見かねたのか俺に声をかけてくる。
「な、何かご不明な点でもございましたか?」
しまった……イケメンさんが若干引いてる……えーっと……どうする?えぇーい、ままよ!!
「い、いやいや、特にそういうのはないですよ。
ただ、僕、3日前くらいから記憶喪失になっちゃってましてー。大体のことは偶然出会った冒険者さんに教えてもらってたんですけど、しんりょくってものについては聞いてなかったんですよー。もーこまっちゃいますよねーあっはっはっはー」
はい、自爆~。テンパってやらかしちゃいましたー!これで不審者大決定でっす!!
俺が自分の可哀想さ加減にウンザリし、俯いていると
「ふむ、なるほど」
とイケメンさんが何やら納得したご様子
「え?」
と俺が顔を上げると
「あなたはもしかして、リン殿とルーカス殿をご存知ではありませんか?」
イケメンさんは右手を自分の顎に添え、その肘を左手で支えるようにしたポーズを取りながら俺に質問してきた……キマってるなぁ……
「え……?あ、はい。その2人に遭難してるところを助けてもらったんです」
それを聞くとイケメンさんは笑顔で頷き
「ふむ、やはりそうでしたか。であれば、私はあなたにお礼を申し上げねばなりませんね」
「はい?」
なんでこんな不審者に??