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 保健室の匂いがする……


そう思って目を開けると、すでに夜なのか、周りは薄暗い。


どこからか漏れてくる光と目が暗さに慣れてくることで、ようやく周囲をなんとなく把握できるようになる。


正面に知らない天井があった。


……ここはあれだな……まぁ言っとくべきだよな?


だって……そうそう言うようなセリフじゃないし、日本だともはや恥ずかしくて言えない級のヤツだしな。せーの……


「知らない天井だ……」


シンジ君……今、この瞬間だけだが、僕は君と同じになれたよ……

セカイ系デビューを果たし、なんだか感慨深いものを感じていると…


「えっ?」


と言う声が聞こえ、どこからかトタトタという足音が聞こえてくる。


上半身だけ起こそうとすると、ズキッと右の脇腹が痛む。


「うぅ……」


と思わずうめき声をあげてしまうが、かまわず身体を持ち上げる。


すると、自分が清潔な白いベッドに寝かされていて、左側と頭側が壁に密着していて、それ以外がカーテンで仕切られていることに気づく。


まるで病院だな……そういや着ている服も病人用の寝間着みたいだ……ところどころに包帯も巻かれてるし。


あれ?てか俺ってなんでこんなとこにいるんだっけ?


と今さらながら考え始めると、フワッと部屋が明るくなる。

そしてトタトタという誰かがこちらに歩いてくる音がする。


多少身体を緊張させてそちらに顔を向ける。


シャッいう音と共に仕切りカーテンの右側が開かれる。


「起きられたんですね!」

目の前には金髪碧眼の美人看護婦さんがいらっしゃった。


え?……いや……なんだこの状況……


いきなりのことで混乱気味な俺はとりあえずマジマジと相手を見つめてしまう。

そして、とりあえず……とりあえず挨拶してみる。


「お、おはようございます?」


挨拶さえちゃんとしとけば、対人関係ってとりあえずなんとかなるし……いや意味わからんな……大体、そんな「とりあえず」ばっかの奴、嫌だし……


「はい!おはようございます!」


と煌めく笑顔で挨拶を返してくれる看護婦さん……かわいっっ!


「フフッ、今からきちんとご説明いたしますので、ご安心ください」


看護婦さんの笑顔で固まっていた思考が再度まわりはじめる。


「今、お水取ってきますので、ちょっとお待ちくださいね」


と相変わらずの笑顔のまま、トタトタと隣の部屋へ行く看護婦さん。


うーん、イイねッッ!!


白衣の天使ってもはや伝説の生き物かと思っていたけど、さすが異世界!!


俺、がんばってこの世界で生きてこう……うん!


そう決意を新たにした俺は、ひとまず自分が覚えているところまで思い出すことにした。


えーっと、ゴブリン軍団倒して、あの怪物と戦って、多分倒したんだよ……な?

それで……あぁ……そっから記憶ないな……


と記憶を整理していると、看護婦さんがお盆に水差しとグラスを載せてこちらに来る。


枕元の横にある小さなテーブルにお盆を置き、

「お待たせしました。こちらどうぞ」


と水差しからグラスに水を注ぎ手渡してくる。


「ありがとうございます」

受け取り、一口飲む。冷たくてうまい。


看護婦さんがゴトっとテーブルの下にあった丸椅子を、俺の膝あたりの位置に置き、座る。


そして、笑顔のまま俺の目を見て


「まずは、遅くなりましたが、自己紹介させてただきます。私はこの治療院で看護婦を務めております、エリカと申します。よろしくお願いしますね。」


顔を少し右に傾けて言ってくる……反則技だろ……ソレ。


「こ、これはご丁寧にどうも。自分はユウと申します。こちらこそよろしくお願いします。」


背筋を伸ばし、手を(布団が掛かってる)膝の上に置いて軽くお辞儀する。脇腹がちょい痛い……


「あらら、随分お行儀の良い方ですね。」


そ、そうかな?……普通じゃね?

と思っていると、仕切り直しのつもりか、「オホン」と軽くセキをするエリカさん。


「では、ユウさんの現状について、私の知ってる範囲ですが、ご説明させていただきます」


「あ、はい。よろしくです。」


「まず、あなたがブラック・オーガを倒してから、すでに2日経っています」


「え~っと……ブラック・オーガってのはあの黒くてデカい人型の怪物のことですか?」


「はい、その認識で間違いないはずです」


やっぱ倒せたのか……よかった……にしても……


「2日も寝てたのかぁ……俺」


まぁー世界間を移動してきてから、ちゃんと寝てなかったしなぁ……


「戦闘が終わった後、気を失ってしまったユウさんを、ルー君が担いで、ここまで運んできたんですよ。」


「うわぁ……悪いことしたなぁ……」

あとで文句言われそうだ……うぅ……気まずいなぁ……


「かなりの重態だったのですが、ユウさん自身の治癒力が元々高かったのもあって、私と姉の治療で全治一週間というところまで持ち直しました。

けれど、その後意識が全然戻らなかったので、心配していたんですよ……」


うわぁ……ご迷惑おかけしてるなぁ……肩身狭いわぁ……


「あ、ありがとうございました。それに、ご心配もおかけしたみたいで、なんかすいませんでした……」


「いえいえ、怪我や病気をした人に治療をすることが私たちのお仕事ですから。

それに、ルー君もそうですが、リンちゃんのあんな表情見せられちゃったら治さないわけにはいきません」


と何やら含み笑いをしながらおっしゃるエリカさん


それはどういう……

なんかリアクション取りずらいなぁ……


「そ、そうですか……さすが看護婦さんですね」


後頭部を掻きながらニヤケヅラで意味不明なことを口走る俺……キモ……


「ってことはあと4日くらい寝たきりでいないといけないんでしょうか?」


とにかく次の話題に行きたかったので、急いで質問をする。


「うーん、寝たきりでなくてもいいですよ?でもあんまり激しい運動はダメですねぇ……安静にしてくださいね」

と右手の人差し指を顔の横で立てながら、可愛く言われる。


「りょ、了解っす」


身体が鈍りそうで嫌だなぁ……隠れてトレーニングしちゃうかな……


「あ、そうそう、ユウさんの私物のお洋服2着はそこのハンガーにかかってますので、安心してくださいね。」


そう言われて向かいの壁を覗いてみると、柔道着と制服が綺麗に壁に掛かっていた。


「あれ?……破れてたりしたと思うんですが……」


「リンちゃんが直してましたよ?生地がちょっと特殊な素材だから苦戦してたみたいですけど」


「フフフッ」と口に手を当てながら微笑むエリカさん


「リンさんが……うはぁ……これじゃいくらお礼しても、し足りないなぁ……どうしよ」


俺が頭を抱えると


「ふふっ……そんなことないと思いますよ?

だって……ってこの先は当事者同士でお話するべきですね。朝には来ると思いますよ?」


な、なんだよそれ……なんかこえぇよ……


「私がお話できることはこのくらいですね。

夜も遅いですし、そろそろお開きにしましょうか。

ユウさんもお休みになったほうがいいですよ?」


そう言いながら立ち上がり、俺の上半身を優しく寝かせるエリカさん。


い、イイにほいが……


薄めの布団を肩までかけ直してくれ

「この時期は暖かいですけど、油断して風邪でも引いたら大変ですからね」


笑顔でそう言うエリカさん……天使すぎ……


「あ、ありがとうございます」


テーブルに丸椅子を戻し、カーテンを閉めながら

「ふふっ、ではおやすみなさい」


うーん……この世界で初めて癒されたなぁ……

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