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 「えっ……」

身体が後ろへ浮くのを感じながら、私は目の前で起こっていることが信じられなかった。


グシャッッッッッ!!!

という音が聞こえ、彼は左方へ吹き飛ばされる。


ザシャァァァ……ゴロゴロゴロ……

元々みすぼらしい格好だった彼が、さらにボロ雑巾のようになる。


尻餅を着く格好で地面に着地した私は、その後ピクりとも動かない彼を見て、やっと思考が動き始めた。


「な、なんで?」


わからなかった。なぜ彼がこんなことをしたのか。


なんせ彼とはついさっき会ったばかりだ。


血の匂いをさせ、やたら軽装な出で立ちで現れた彼。


記憶喪失だと言い、常識中の常識を聞いてくる彼。


見たこともない戦い方をし、素手でゴブリンの集団を圧倒する彼。


非常に胡散臭い存在だ。誰がどう見ても怪しい。


だから心を許すようなことはなかった。

常に警戒を促していたし、釘も何度か打っておいた。

もし、彼がいることで私達が不利になるようなことがあれば、簡単に見捨てることになっただろう。


なのに……なのにだ!!

どうして……彼があそこで転がっているのよ!!


村までの同行を許したのは、単なる気まぐれだし。

質問に答えたのだってただの暇潰し。

ゴブリンとの戦いで逃げるように言ったのだって、依頼を終えたばっかりで、私達が消耗してるから足手まといはごめんだったってだけ。


あなたに命を助けてもらう義理なんてない!!


それも、戦いの中で油断し、命まで諦めた私が助かって、あなたが死ぬなんて間違ってるじゃない!!


自分を責める思考の闇に捕らわれる……


「立てっ!リン!!」


ハッと顔をあげ、すぐに左を見ると、すでに立ち上がり戦闘態勢に入っているルーが居た。


「まだ何も終わってないぞ!!それに、あいつはまだ生きている」




「…………えっ?」

一瞬、ルーが何を言っているかわからなかったが、すぐに悟り、急いで彼に対して五感を集中させる。


「ぐ……がはっ……はぁはぁ……」


わずかだが息づかいが聞こえる……

だけど心音が弱まってきていて、早く治療術をかけなければ危ない!


ヒュッッッ!!

風切り音が耳を襲う


隙だらけになっていた私に大斧が振り落とされたのだ。


ガキィン!!


思わず瞑ってしまった目を開けると、ルーがそれを受け止めてくれていた。


「ぐっ……そろそろ目を覚ませ!!助けられるものも助けられないぞ!!」


ここまで来てやっと、自分がどれだけふぬけていたかに気づく。


「そうね……絶対助けてみせる……」


立ち上がり、二本の愛刀を鞘から抜き、構える。


絶対に死なせない!!


「ルー、ごめん!!ありがと!!それじゃいくわよっ!!」










「ルー、ごめん!!ありがと!!それじゃいくわよっ!!」


「応ッッ!!!」


俺は鍔競り合いを崩すべく、全力で相手の斧を押し弾く


ガギィン!!


瞬発的な力に押され、敵が後ろにたたらを踏む。


そこへ間髪入れずに敵の懐へリンが飛び込む。


左の膝へ斬撃を叩き込もうとするが、敵もこの攻撃を読んでいたようで、さらに後ろへ飛んでそれを避けた。


攻撃が失敗すると、リンもすかさず俺の横へバックステップで戻ってくる


「さすがに何度も見せてるだけに、避けられるわね」


「ああ」


そう、奴と対峙したのはこれが初めてではない。


なんせ、今回の依頼で討伐対象となっていた魔獣の一体なのだから。


個体名「ブラック・オーガ」

こいつが頭目になり、オーガ12体を率いて近隣の村や街、行商中の商人が多大な被害を受けていたのだ。

俺達はギルドで奴らの討伐依頼を受け、寝床にしているというスプリガンの森へ向かった。


戦いはかなりの激戦となった。


元々、Bクラス相当のオーガが12体、Aクラス相当のブラック・オーガが1体というAクラスクエストの中でも高難度の依頼だ。


そのため、ある程度の手強さは予想できていたのだが、その予想を遥かに上回るモノだった。


統率のとれたオーガの集団、それを巧みに操るブラック・オーガ。

俺とリンが12体のオーガを倒した頃には、すでにかなりの消耗を負っていた。


ブラック・オーガとの決戦には、俺もリンもそれこそ決死の覚悟の下で戦った。

奴の右目と左腕を奪い、致命傷に近い傷も幾つか負わせた。

後はトドメのみとなったとき、追い詰められた奴は何を考えたのか、みずから谷底に落ちたのだ。


なぜそんな行動に出たのかは、全くわからなかったが、俺とリンはすでにあれほどの手傷を負った奴がまさか谷底に落ちて生き残れるはずがないと思い、帰還してしまったのだ。


そして、その結末がこれだ……


槍を持つ手に力が入る。


標的の死を確認せず見逃す。

勝利したことに満身し、戦場で油断する。

どちらも俺の失態だ。


なのにそれを犯した俺が五体満足で、あいつは俺の命を救い、みずからが瀕死の状態になっている。


本来なら、逆でなければならないはずだ!!


これで例えブラック・オーガを倒せたとしても、あいつが死ねば、俺は自分を絶対に許せないだろう。


必ず……必ずあいつは死なせない!!

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