13
突いてきた槍の穂先を避け、引き戻せないように柄の上部を左の脇と、手で取る。
すかさず身体を右に移しながら小内刈りを掛ける。
相手が背中から地面に倒れたと同時に拳を首に叩き込む。
「グゲッ」という悲鳴を最後にそいつは絶命した。
「さて、こっちは大体片付いたけど……」
と額の汗を拭いながら、2人の方を見る
当たり前だが、無事に向こうも終わったようで、すでに短剣を腰の後ろにある鞘に納めたリンさんと、右手で持っている槍の上部を肩に寄りかけさせている、ルーカスさんがこちらに歩いてくる。
うーん、歴戦の戦士2人って感じだなぁ……
「ふ、ふーんだ!術さえ使えてれば私の方が討伐数多かったんだからね!白兵戦だけなら私のが2体多いんだし」
「どう言い訳してもいいが、最終的な討伐数は俺が38でリンが27なのには変わりないぞ?」
勝ち誇った顔をしているルーカスさんと、「ぬぅ~」と悔しそうなリンさんのそんな会話が聞こえなければ、ホント完璧だったのになぁ……
そんな微笑ましい(?)光景を戦闘が終わった脱力感と穏やかな気分に浸りながら見ていると、フと言い知れない違和感に襲われる。
どこからか見られているような……粘っこい視線のようなものを感じる。
不安におそわれ、抜いていた気と力を戻す。
周りを警戒し、すぐに動けるようにしておく。
俺が今だ戦闘態勢を解かず、キョロキョロしているのを不思議に思ったのか、リンさんが歩きながら話しかけてくる。
「おーい!どしたんだよー?」
「油断大敵」
この言葉をこれほど痛感するのは、後にも先にもこの時だけだろう。
少しは考えるべきだったのだ、そもそもなんでこんなところで大量のゴブリンが現れたのか。
あいつらは村を襲うために現れた?
あいつらの目的は俺たちだった?
両方とも何の確証もないのに、なんとなくどちらかだろうと決めつけていた。
なんで考えなかったんだろうか?
そう、あいつらはこいつから逃げて来たんだ。
そいつは待っていたんだ、ゴブリンに気を取られ、他への警戒が薄れるのを……
息を潜め……気配を隠し……確実に狩りを成功させるために……
ブワッ!!!
っと殺気が膨れ上がる。
気が付いたら、そいつはリンさんとルーカスさんの背後に立っていた。
右目と左腕がなく、身体中傷だらけでありながら、筋骨隆々で3mほどあるその体躯が持つ迫力は、まさに怪物といった感じだ。
右手に持つ巨大な斧は、柄も刃もボロボロでありながら、振り降ろされれば、ミンチになるのは確定だ。
そして、そんなシロモノが今まさにルーカスさんとリンさんに向けられているのである。
「助けなきゃ……」
そう思った。それしか思わなかった
だから走った。
周りの風景がスローモーションになる。
怪物と2人がいるところまで大体15mくらいだが、遠く感じてしまう。
奴は、体を左に引き絞り、そのまま横一線に斧を薙ぎ払う。
右手一本の一撃なのにも関わらず、その威力は2人をまとめて真っ二つにできそうなものだった。
その一撃が放たれた頃に、2人はやっと振り向き、自分達の置かれている状況を把握していた。
だが、もはや全てが遅い。
今から動いたとして、避けることも、迎撃することも不可能だ。
2人もそう悟ったのか、自分の死を覚悟したかのように身体の力を抜いた。
「そうはさせねぇよ……」
俺は2人の肩を両手でそれぞれ掴む。
2人の間に滑り込みながら2人を後方へ吹き飛ばすつもりで思いっきり後ろへ引く。
「え……?」
という声が聞こえたような気がした。
強烈な右からの衝撃に吹き飛ばされながら
「今回は最初から諦めずに動くことができたなぁ……」
と頭の片隅で考えていた。