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心がズタボロになるのを構わず、必要そうな情報集めを断行した結果、死にたく……
いやいや!ついさっき生き残るって誓ったばっかじゃないか……がんばれ俺!負けるな俺!!
まぁーとりあえずはLv1の勇者がこれから旅に出るくらいには情報が集まったと思う。
ぼんやりとだが、村に着いて、この2人と別れた後もなんとか1人でやっていけそうだなぁ~と、寂しさを感じながらも考えれるようになった。
結局、かなりの恩人と化したなぁ……この2人。いつか恩返しでもできたらいいけど……
そんな日本人らしい奥ゆかしい思いを俺が胸に抱き始めた頃
「ん?なんだ?」
晴れた日の爽やかな草原には似つかわしい、ドロドロとした殺気を放った何かが後方から近づいて来るのを感じる。
俺がそれを察知し、立ち止まって後ろを振り返ると。
「あら、あんたも気付いたの?まだ結構遠くにいるのに大したもんじゃない。
武術の心得があるってのは嘘じゃなかったのね」
首だけ後ろに向けると、リンさんもルーカスさんもこちらを向いてその何かが来る方向を眺めていた。
「リン、どうする?」
「ルーはどうしたい?」
「ゴブリンの集団だな……今の状態で、この数を相手にするのは、なかなか骨が折れそうだ」
「そうねぇ……でもここで放置して村でも襲われたら、結構笑えない被害が出ちゃうだろうし……それに狙いは私達かもしれないしね。
いずれにしても戦うしかないんじゃないかしら」
暢気な……
この場面でさっきまでと同じペースと雰囲気でしゃべる2人に俺は呆れていた……
なんせどんどん濃くなるこの殺気は、間違いなくこちらに向かって来ていて、俺達は確実に襲われる側なのだ。
蹂躙を目的とした、剥き出しに放出されているソレを浴び続けながら、あの落ち着きっぷりはさすがAクラスってことなのだろうか。
ってかなんでまだ見えてもいないのに相手が何者か判別できてんだよ……ゴブリン?
それってファンタジーもので定番のあいつらか?
もし俺の想像が当たってれば、森で襲ってきた奴らのことな気がする。
んで、もしそうなら俺も戦える。
ゴブリンについて詳しく聞いておくべきだな。
そう思い、俺は2人の方へ振り返る。
って……え?……ま、まさか……いやいや……つまりこれがAクラス冒険者の実力ということだろう……
2人が話している様子はいたって普通だ。
ひっきりなしにピクピク動いている耳を除けば……
さ、触りたい尻尾もさることながら、あのピクピクしてるの触ってみたい!!
うぉぉぉぉ……今は我慢だ……そんな場合じゃないしな。絶対怒られるし。
だがまぁ……いつか必ずこの野望は叶えることを誓うぜ……熱く萌ゆるこの胸にっっっ!!!
俺が1人で悶え苦しんでいると
「こいつはどうするんだ?足手まといのお守りなんて俺はごめんだぞ?」
とルーカスさんが俺を見て言う。
この人に関しては実はいい人なのがすでにバレているので、もうイラッとくることがない。今の言葉だって、俺のことを心配していると取れなくないし……たぶん
「もー、ルーもそこまで意固地になることないじゃない……
まぁーでもそうね、多少戦えるようだけど、この数を相手するのはきついだろうし、先に村に向かってもらおうかな?このことを伝えて、援軍を呼んできてほしいし」
あー、このパターンかぁ……でも個人的にはここでこの世界の「戦闘」ってやつを見ておきたいんだよなぁ……神術だってどういう感じなのか気になるし。
それに、この恩人2人を置いて俺だけ安全な場所にいるってのはやっぱり男として納得できない。
ちょっとだけ粘ってみるかな……それでもダメなら諦めよう。
粘りすぎて行動が遅くならないようにしなきゃな。
「あのー、数はどのくらいなんですか?」
リンさんは自分の提案に質問で返されたことを多少訝しんだが、答えてくれた。
「ん?うーん……まぁー大体7~80ってとこかしらね」
「リンさんとルーカスさんはAクラス冒険者ですよね?お二人でもその数はきついんですか?」
と言った瞬間、「ヒュッ」と槍の穂先が顔の目の前まで飛んできた。
「調子にのるなよハーデス野郎。お前がいなければ、あの程度の雑魚が何匹居ようと蹴散らせる」
それはつまり俺のことを心配してるってことなんですが……憎めないなぁ……
それにハーデス野郎って悪口として成立しなくね?
綻びそうになる口元を引き結び、ルーカスさんの目を見る。
お互いの視線がぶつかり、空気がピンと張り詰める。
「なら、俺に気を使うことなんてありません。心配してくれるのはありがたいけど、恩人2人を置いて俺だけ逃げるなんてできません!もし俺がここで死んだとしても、それは俺の責任です!足手まといにはなりません!俺も戦わせてください!!」
言いながら、頭を下げる。
「ふぅ~ん……」
とはリンさん
ルーカスさんは無言だが、槍は引き戻してくれた。
「ルー、どうする?」
ルーカスさんは歩き出し、俺の横を通り過ぎる。
「ふん、好きにしろ、だがもしお前が奴らに殺されそうになっても、俺は助けないからな」
通り抜け様にそう言ってくる。
「も~、素直じゃないなぁ……まぁーそういうことらしいから、わざわざ死ぬかもしれない場所に留まりたいなら好きにすればいいわ。でも、戦うのなら、必ず生き残りなさい?こんなところで死なれたら、後味悪くて腹立つし」
とリンさんも歩き出し、通り抜け様に、俺の肩に手を置いて、そう話しかけてくれた。
そんな2人の背中に向かって
「ありがとうございます!」
と声をかけ、後を追う。