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勇者と聖女の物語『重なり合わない』しあわせの結末とは

作者: 藤井桜
掲載日:2026/04/30


 

 勇者が魔王を倒すために、世界に降臨したのは、その魔王が一つの村を滅ぼした瞬間だった。そして、聖女の力が具現したのは、死を迎えるはずだった、少女が瞳を開けた瞬間だった。


 今代の勇者と聖女の二人は小さな頃から一緒に育ち、仲の良い姉弟のように育った。兄弟が多かったのでどちらの両親にも、同じ子供のように扱われていた。

 青年の名前はルカ、少女の名前はラナ。たまに喧嘩はするがとても仲の良い二人だった。



 その知らせを受け取ったのは、セラシルの国王だった。その国の宝物庫に眠る昔から魔王が現れる度に振るわれた勇者の持つ剣が光を放って飛び立ったのだった。勇者の元へと向かって。連鎖するように勇者の幼馴染もまた、聖女として覚醒したために、二人は揃って王都に向かう事になる。



 勇者と聖女は数ヶ月の修行を終わらせて魔王討伐へと向かうことになった。一緒に行くのは、主に戦闘面での活躍を見せた第三騎士団の騎士団長である、レオンハルトと旅の細々とした、雑務を引き受けてくれる、商人夫妻であるダンとメリア。ダンは手先が器用で簡単な武器の修繕などもやってくれるし、旅先の宿の手配や食料の調達などを請け負ってくれる。メリアは、魔法が使え、基本的な彼女の魔法は生活を豊かにしてくれる魔法だ。攻撃魔法はあまり得意ではないが、料理を作ったり、メイドのような仕事をしてくれる。

 表向きは勇者一行ではなく旅の商人一家と護衛とすることで話がまとまった。ルカとラナはどっちが姉か兄で少し揉めたがしっかりものであるラナが姉で決着がついたようだ。

 魔王がどこにいるのかは、勇者と聖女にはその存在がわかるようだ。北の不毛な大地に黒い瘴気のようなものが湧いたと聖女は言い、禍々しい力が南に向かって降りてきているようだと勇者が言う。



 勇者と聖女の居ない間は各騎士団や魔術師団、神殿の神官団で食い止めることになる。他の国とも連携を持ち協力して魔物討伐の任務を行うことになる。それは、全て国民を不安にさせないために、密かに行われるのだが、魔物や瘴気の量が増えるとそうも言っていられなくなる。しかし、その頃には勇者も聖女も力をつけてくれるので、公に出来る部分もある。勇者と聖女のお披露目が国民にとっての士気の向上に繋がるので、魔王討伐は今までは失敗したことはなかった。



 * * *



 その日の宿を手配してくれたダンは、「久し振りに湯に浸かれますよ」そう言って、みんなを宿に案内してくれた。街から街の距離の都合上、毎日宿に泊まれるわけではない。宿に泊まれることよりも野宿の方が断然多い。旅商人の夫婦は慣れているし、騎士団長であるレオンハルトも騎士団の遠征が何度もあるので慣れていた。元々、然程大きくない村の子供たちであった二人は贅沢な暮らしとは無縁で、どちらかというと、たまに泊まる宿の豪勢さに驚いていた。しかし、その宿も特別豪華な宿というわけではないのだが。部屋は二部屋取っており、年頃の子供たちなので、部屋を分けた方がいいだろうと、いう理由を付けて男女別の部屋に決まった。



「ルカ、あんまり騒がないでね。他のお客さんに迷惑だわ」

「分かってるよ。でも、久々に美味いもの食えるんだろう?」



 基本、保存食が多いので宿に泊まった時ぐらいは栄養を考えたものを摂るようにしている。その様子を微笑ましい笑みを浮かべて夫妻と団長は見つめていた。



「荷物を置いて、食堂に行きましょう。この宿は、香草を使った肉料理が有名らしいですよ」

「肉!」


 ルカの目が輝く。まだまだ、幼さの残る少年は嬉しそうに喜んでいる。少年から大人へと切り替わる時期なので、きちんと栄養は取らせたかった。そのために、メリアはいるのだと思う。二人の間には子供がいないので、まるで本当の親の様に接してくれる二人が可愛かった。そのうち、勇者聖女としての力を身につけて、侵攻が激しくなるまで。メリルは、この二人を頑張って育てようと心に誓った。



* * *



 王都を出て,半年、二人が勇者聖女になって四ヶ月が過ぎていた。二人の王都からかなり北の地にやって来ていた。街並みもすっかり表情を変えて、北につれ寒さが厳しくなってきた。王都を出たのは初夏の暑さが始まる時期、今は冬に差し掛かっている。王都よりもずっと北のためなのか、かなり冷える。

 予定ではこの先の北部最大の都市マースで春になるまで、滞在することになる。力をつけるのだけが目的ではなく、領主館に滞在し、身なりを整えて、勇者聖女のお披露目をするためである。

 この都市は周りを強固な城壁で囲まれており、街と領主館のある城が両方守られている。昔から、魔物の侵攻も多くそのために頑強に作られたらしい。領主は辺境伯で王都の騎士団の総団長を務めるトールに匹敵するほどの実力者でもあった。そのトール本人に鍛えてもらおうという算段もある。



 そんな中、勇者の元に王都に居る第三王女から手紙が届いた。王には二人の王子と四人の王女がいる。上から男女女男女女、一番上の王子トーマスは二十五歳になり、王の跡取りとして、王の補佐をしている。二十二歳になる、長女マーガレットと二十歳になる次女ジョセフィンは隣国の王家にそれぞれ何年か前に輿入れした。十八歳の次男アルフレッドは今、こうして、マースに滞在している。軍部の次代の候補にあがっており、長男に何も起きなければそのまま、総団長の任につく事になるだろう。そして、未だ結婚の目処が立っていない三女エリザベスと四女エミリアは王都にいる。三女は勇者と同年齢の十五歳、数日前に勇者が誕生日を迎えたので一つ上にはなるのだが。そして、妹の四女は十二歳になる。王都に居た頃、勇者に一目惚れした第三王女は、勇者のことが心配だったのだろう。旅の途中では手紙など送れない。なので、こうして長期滞在することになったマースの領主館に届けられたのだろう。これからは厳しい冬がやって来るので、天候が悪化することが予想される、きっとこれが最後の手紙になるはずだ。次は、勇者が魔王を倒して凱旋出来る日になることだろう。



「ルカ、王女様、寂しがってるんじゃないの?」

「多分、でも気丈に振る舞っているみたいだよ。俺の心配と無事を祈ってる。そんな事、書いてある。あと、お兄様ばかりずるいってさ」

「ああ、アルフレッド様、ここにいるもんね」



 午前中の剣の稽古を王子自ら付けてくれようで、王女だけでなく王子もとても気さくな人だ。アルフレッドは、ラナも気にかけてくれるようだが、下心が見え隠れしていて、ラナはちょっと苦手だ。王子がラナにちょっかいをかける度にレオンハルトがいろいろな理由を付けて助けてくれる。



* * *



 ようやく、一息着くことが出来た二人は故郷の家族宛てに手紙を届けてもらうことにした。この国では、王都に学校もあるし、教会で読み書きも教えているので、文字の読めない者、書けない者は少ない。ルカとラナの住んでいた村にも教会があり、ラナの母が教会の仕事の合間に子供たちに文字を教えていた。仕事が忙しい村人にとって、子供を見てくれるのは助かるし、文字も教えてくれるので随分と喜ばれていた。ルカは、王女にも手紙を書いていたようで、それは、ラナに分からないようにコソコソとしているようだが、どうやらラナにはバレバレなようだ。



「ルカ様、踏み込みが甘いです。剣をしっかりと握って、体重は利き足に乗せる。無駄な動きが多いので最小限に。勇者様の力があるとはいえ、過信されませんように」



 ルカの剣の稽古に付き合っているのは、レオンハルトだ。遠征の多い第三騎士団は、魔物の征伐といった荒事が多く、強さで言うと、騎士団の総団長と辺境伯に次ぐ実力の持ち主だ。第一騎士団は王族を守る近衛団、第二騎士団は王都を主に守るためにあり、第三騎士団のように滅多なことでは、実践は行わない。



「レオン様、金獅子って通り名があるんですよね」

「名前と髪色が金髪で強いからそう呼ばれるようになったようですね」



 聖女に魔法を教えていたメリルが答えてくれた。魔王の居城に一番近い村は魔王の手によって滅ぼされた。しかし、人々の復興しようという気持ちが強いのか小さいながら集落が出来上がっているという。メリルとダンはその場所まで勇者たち一行に付き従いその場で復興の手伝いをしながら待機する予定だ。元々、勇者たちの身の回りの世話のために同行したのだ。戦う力は勇者たちには及ばない。自衛で自分達の身を守ることで、同行してきた。そのために、メリルはラナに聖女の力だけではなく、戦うための魔法の力を教えていた。攻撃と補助の魔法は魔力が高く許容量の多いラナなら自分よりも威力のある魔法を唱えられることだろう。



「レオンハルト様は最後まで貴女たちを守ってくれることでしょう」

「はい、レオン様の足手纏いにならないように頑張ります」

「無理だけはしないで。貴女たちは私たちにとってかけがえのない子供たちなのですからね」



 故郷の両親を思い出すと寂しくなることもある。もう一人の母の腕に抱き寄せられて、ラナはこの人のために全力を尽くそうと思うのだった。



 * * *



 長い冬が明けて、雪解けと共に魔物の脅威が多くなる。冬の間は何故か魔物の侵攻が無くなる。魔物も寒さに弱いのではないかと、いう専門家もいるがよく分かってはいない。各地域に魔物の出現報告が増えて各国も対処に追われているようだ。あまり、戦闘経験の少ない王都にいる各騎士団、魔術師団、神官団も魔物討伐に出ていることだろう。辺境伯の城の広場に多くの人々が詰めかけていた。これから、勇者と聖女が魔王の居城に乗り込むことになっている。そのために、お披露目式が行われる。人々の士気は高く、歓声がうるさいほどだ。勇者の鎧一式は軽いが丈夫に出来ているし、聖女の衣は神聖魔法で守られている。防御魔法もかけられており、どの防具よりも強力だった。勇者の剣もダンが修繕を行なっており、昔から変わらない輝きを放っていた。



「行って来ます」



 勇者と聖女が並んで歩き出すその一歩後ろを団長が二人を守る様に着いていく。魔王の居城に向かって、盛大な声援を受けながら。緊張するラナの手に、レオンハルトの手が重ねられた。「大丈夫です、私がお守りします」その更に後ろを馬車が続く。この先の集落に向かって、移動することになる。その場でダンとメリアと別れる事になる。その後は、三人だけだ。聖女の浄化魔法のお陰なのか、弱い魔物はほとんど見かけない。そのために、何事もなく、進むことが出来た。

 集落につくと盛大な歓迎を受けた。集落の代表を務める青年がテントに案内してくれる。冬が訪れる前、勇者たちがやって来る前までは魔物の数が多かったという。王都からここまで来るまでに聖女の浄化魔法が魔物を浄化し勇者の剣が魔物を切り裂いてくれた。馬車に積んできた物資を下ろす作業は集落にいる若者が手伝ってくれた。今夜、ここで一晩を過ごして明日の早朝に出立する予定だ。睡眠も大事なのでしっかりと、食べて英気を養う事にする。



* * *



 魔王の居城へは、王都から九ヶ月ほどの月日が経っていた。メリルが寂しそうにラナを抱きしめた。「ご武運をお祈りしております」静かに頷き合い、三人は魔王の居城に向かって歩き出した。空は暗雲が立ち込め、瘴気に、気持ちが滅入る。それでは、進まなくてはならない。勇者の手にした剣が光を放ち道案内してくれる。ここで、歩みを止めることは出来ない。



 魔王の住む居城には弱い魔物はいないが、それなりの強さに魔物が勇者たちに向かって攻撃してきた。それを、素早く切り伏せ三人は先を急ぐ。長い螺旋階段をひたすら上に向かって走る。勇者の力が魔王は上に居ると告げている。

 玉座の間からゆっくりと立ち上がる魔王は勇者を見てうっすらと笑みを浮かべた。戦う事が楽しみなようだ。



「今代の勇者の力見せてもらうぞ」



 ラナの補助魔法が勇者へと飛ぶ。勇者を守ろうとレオンハルトが前に出た瞬間、魔王の一撃でレオンハルトの身体が吹き飛ぶ。一瞬の出来事だった。油断したとはいえ、魔王の力はかなり強大なようだ。ラナが回復魔法をレオンハルトに飛ばす。しかし、勇者の力も負けてはいなかった。



 レオンハルトが吹き飛ばされた事に、勇者に焦りが見えたのだろう。王国最強に次ぐと言われた団長が油断したとはいえ、一瞬で吹き飛ばされたのだ。



「ルカ、先走り過ぎ! レオン様に言われたじゃない。落ち着きなさい。落ち着いて対処すれば、大丈夫」

「たぁ!」



 ラナの声は届いているようだった。少し落ち着きを取り戻したが、次の瞬間には魔王の魔力撃がラナに向かって飛ぶ。きゃあ、小さな悲鳴を上げてラナが吹き飛ぶがその身体をレオンハルトが抱き止める。しっかり、回復は届いていたようだった。ラナの身体を立たせてレオンハルトは走り出す。その横を並走するようにルカが走り出した。



 二人の剣戟を受けてさえ、魔王は余裕を見せていた。圧倒的な力の差にルカが一瞬怯んだ。それを見越して魔王は勇者に向けて手を振りかざす。魔王の手から衝撃が発せられた。しかし、すぐ側までやって来ていた団長がその隙を突いて魔王の懐に飛び込んだ。それさえ、受け止めると反対の手で大きな火球を団長の胸に打ち込んだ。衝撃も相まって団長が壁に向かって吹き飛ばされる。「今です!」団長の悲痛な叫びを受けて勇者の手に握られた剣が魔王の心臓を貫いた。その場から灰のように魔王が崩れ落ちて行く。壁に叩きつけれたまま、団長は身動きしない。ラナが慌てて近寄るが火球の威力と衝撃に団長は目を閉じたまま開くことはない。



「嘘よ、そんなこと」



 ラナはその場に崩れ落ちた。何度も何度も回復魔法を掛けても目を覚ますことはない。



「ラナ!魔力の無駄だ。使うなら」



 ぐらりとラナの体が上下に崩れる、その肩を引き寄せてルカは叫んだ。



「使うなら蘇生魔法だろ!」

「無理だよそんな魔力残ってない」

「無理でもやるんだ。団長を助けたくないのか!」

「助けたい、助けたいよ。お願い、レオン様、目を開けて。私を置いて行かないで。私の側で笑って頭を撫でてよ。お願い、レオン様」



 ラナの目から零れ落ちた涙がレオンハルトの顔を濡らす。その手から眩い光がレオンハルトを包んだ。聖女の優しい光。きらきらとレオンハルトを包んで弾けた。次の瞬間、ぐらりとラナがレオンハルトの胸に倒れ込んだ。その、身体を引き寄せて、レオンハルトの手がラナの頭を撫でた。蘇生魔法で生き返ったレオンハルトはラナが魔力切れで倒れただけと知るとほっと胸を撫で下ろした。



「ルカ様、魔王は?」

「レオンのお陰で倒せたよ。ありがとう」

「お役に立てたのですね」

「それよりも、城が崩れる。ラナをこっちに」

「大丈夫です。私がお運びします。ルカ様は先に」



 ルカの鎧に比べるとそこそこの重さがあるはずだが、ラナを横抱きに抱えるとルカに続いて走り出した。蘇生魔法を掛けたと同時に傷も癒やされたようだ。疲労の見える勇者に大きな傷は見えないようだ。それが、勇者の力なのだと再認識する。自分は魔王の一撃で命を落としたと言うのに。団長は腕の中で眠る聖女に改めて感謝した。



* * *



 集落に戻る頃には立ち込めていた暗雲は消え、濁っていた瘴気もなくなっていた。この辺り一体はもうすっかり、魔物の気配もない。この場所から離れた場所にはまだ、生き残りの魔物が居るはずなので、それを討伐することが出来れば、この世界は本当に救われたことになるだろう。



 戻って来た、レオンハルトの腕に抱かれているラナを見つけてメリルの顔が曇る。しかし、レオンハルトが眠っているだけです、と告げるとホッとしたようで、テント内に簡易寝台を準備してくれた。目を覚ますまで待っても良いが、今日一晩ここに滞在して、明日の朝、ラナが目覚めなくても、マースの街に戻ることになる。心配でしょうがなかったのか、お忍びで第二王子が集落までやって来ていた。こんこんと眠り続けるラナの様子を心配して、すぐ側に居ようとしたが、それはメリルに止められた。目覚めましたら、お伝えします、その一点張りだ。その様子がおかしくてレオンハルトは珍しく声を上げて笑った。「お邪魔になります。向こうに行きましょう。ルカ様のお話を聞きに来たのではないですか」主にラナが心配でやって来た王子だったが、レオンハルトの言葉にうむと返事を返して、焚き火の前で暖を取りながら、春になったといはいえ、夜はまだ冷え込む。民家も崩れ去ってないので、こうして、テントの外に焚き火を焚いて過ごしていた。



 まだ、高揚感が残っているのかルカの表情は硬い。「お役目ご苦労だった」改めて王族の所作で第二王子は頭を下げた。慌てて顔を上げるように説得する勇者の表情はいつの間にか緊張が解れたようだ。そっと、隣からレオンが勇者と王子に向けてお茶を渡してくれた。気分が落ち着くようにとメリルが用意してくれたものだ。

 ゆっくりとした時間が流れる。これで、魔王はもういない。これからの数百年の平和が約束された。勇者と聖女の力によって。



 マースの街に戻ると辺境伯夫妻のリカルドとマチルダが出迎えてくれた。ラナはまだ、眠ったままだ。王子と団長の二人がどっちがラナを運ぶかで揉めたが、無意識のうちに、レオンハルトの服の裾を握りしめたラナの手を見てレオンがその任を引き受けた。



 その日は、暖かい布団でゆっくりと身体を休めることが出来た。これからの話は後に回しても問題ない、辺境伯はそう言って三人を労ってくれた。ただし、報告だけは、済ませると言うことで魔王が倒されたという吉報は、今日のうちに王都へ向けて早馬が出された。

 ラナが目を覚ましたのはそれから三日後のことだった。魔力が底をつき掛けてい状態で誰も使うことが出来ない蘇生魔法を使ったのだ。ただ、五日ほどで目が覚めたのは聖女だからなのか、魔法を嗜むメリルがラナの魔力量などを調べてくれたがどうやら問題はなさそうだ。



「一月後に王都に向かおうと思う」

「リカルド様も行くのですか?」



 その疑問にルカが首を傾げる。勇者の凱旋ののち、王都では盛大な催しが行われることだろう。勇者と聖女を囲い込もうとする貴族のための牽制役を引き受けてくれるという。もちろん、王子も同行するつもりでいる。公爵家に次ぐと言われる辺境伯と第二王子、更に騎士団長であり伯爵家の次期伯爵候補までいるのだ、誰も文句は言えないだろうと、いうわけだ。



「それでだ。ルカとラナ二人とも俺んとこ来ないか? 後ろ盾は幾つあっても困らん。俺たちには子供がいない。王家の姫様が嫁いでくる口実にもなるはずだ」

「それって、リズと結婚出来るってことか?」

「そうなる。上二人の姫様はそれぞれ、隣国に嫁いで行った。三の姫様と四の姫様は国内の有力な家に嫁がせるつもりだろうな、陛下は。海を渡った遠くの王家になどくれてやるつもりはないだろうな。そして、うちは公爵家に次ぐ地位のある辺境伯だ。十分、姫様が降嫁されるに相応しい地位にあると思っている。剣の腕の確かな勇者様だ。十分俺の後を継いでくれると思ってるぜ」

「それじゃあ、なんでラナもなんだ?」

「ああ、彼女にも貴族という肩書きが必要だろ? 伯爵家に嫁ぐとなればな」



 リカルドはにやにやと楽しそうな笑みを浮かべて瞬時に赤面したラナを見つめた。ラナの希望に寄り添って決めてくれたのだろう。婦人も二人の子供が出来るのは嬉しそうだ。ルカとラナには多くの兄弟がいる。小さな村では当たり前だ。働き手が増えるからだ。なので、きっと、勇者と聖女になったあの日、両親も快く送り出してくれたのだ。



「親が何人いてもいいじゃねぇか。産んでくれた親も一緒に旅した親もこれから世話になるのもみんな大事な親だ。そう思わねぇか?」



 豪快で、しかし、暖かいそんな言葉でリカルドは告げてくれる。貴族位など出来ればなりたくはなかったがこの場所で爵位以外に普通の村人を変わらない生活が出来るなら、とルカはリカルドの申し出を受けることにした。ラナとしては、この先のことにかなり不安ではあったが隣に立つ貴族位の団長がラナの手を握ったことで、不安は解消された。



「私、貴族のマナーとか全然、分からないし、私で良いのかな」

「分からないことは聞けばいい。そうやって、聖女として学んで来たのだろう? それと、同じ事だ。本当はな、勇者聖女としての肩書きがあるだけで、貴族いや王家なみの権力を持つ事が出来る。しかし、お前さんたちはそれを望まんだろう?」

「聖女ってやめること出来るの?」

「望むなら勇者聖女の意思に任せる。それが王家の考えだ。勇者として、剣を振るったり聖女として人々を癒したり、それは君たちの自由だ。昔からそうやって、意思を尊重してやってきた。ただし、最初の魔王討伐だけはどうしても引き受けてもらえなければならなかった。太刀打ち出来る者がいないのでな」



 王国で強いとされた、レオンハルトでさえ、魔王相手には敵わなかったのだ。何が何でも勇者と聖女を魔王討伐に送り出しただろう。



「あまり、良い話ではないが昔は最悪、親を人質に取ってまで送り出したというからな。今代の二人には助かっている。本当に感謝する。勇者の剣は王家の宝物庫で眠りに着くだろう。勇者の剣ではなくても勇者は戦える。また、聖女は一生、癒しの力を備えて生きることになるだろう。自由で良いのだ。何かしたくなったらまたやればいい。それでも、構わない。ゆっくりと出来なかっただろう。今日から聴きたければ、先代の勇者聖女の話を語ろうか」



 その後、休養と称して一月ほど、滞在する事になり、その間、何世代か前の勇者聖女が兄弟だったり、王家に現れて勇者の剣が王城の王子の元に飛んで行ったという話もあった。その時は大勢の騎士が連れ立ったそうだ。お姫様との勇者の恋物語に勇者と聖女の恋物語。文献に残された出来事の多くは書物や観劇、吟遊詩人の歌となって引き継がれて行く。それが、少し恥ずかしかったが誇らしくもあった。



* * *



 それから、また、王都に戻る旅に出る。旅商人家族としてではなく、勇者一行として王都に向かう。途中で、魔物の残党がいれば狩るし瘴気が認められれば浄化する。それは、行きと変わらない旅だった。違うのは、荷物を乗せた幌馬車ではなく、きちんとした辺境伯の紋章のついた馬車だった。馬も二頭立てで乗り心地も悪くはなかった。



 半年後、王都に戻った二人は凱旋パレードに駆り出された。事前に説明があり,幌のない馬車の上で手を振るだけ良いという。勇者や聖女に危害を加える者も滅多にいなし、あったとしても勇者の力がそれを防いでくれるはずだ。王宮に案内されて、身支度を整えられて、休む暇もなく玉座の前に連れ出されると国王陛下へ凱旋の挨拶を行うことになった。それは、形式的なもので、これでようやく、勇者たちの旅が終わる。聖女はその後、神殿で神官団の長に挨拶をして、終わる。

 ルカは勇者の剣を王家に返すことにした。代わりに国一番の鍛治師が鍛えた剣を贈られた。国王が第三王女エリザベスを呼び出し、宣言する。王女を勇者に降嫁させる。そして、勇者の旅に同行した団長の元に聖女を添わせることにしたと。

 大歓声が上がる、その声は四人を祝福したものだ。



* * *



 小さな村で育ったルカとラナの幼馴染みは勇者と聖女になり、この世界を救った。その後、二人の道は別れたが、お互い幸せに暮らした。王都を拠点にしながらも、遠征が多いレオンハルトにラナも同行した。聖女の力を発揮しては人々のために尽くした。ルカもまた、マースの辺境伯の地位に着いた。魔物の姿は滅多に見なくなったが治安が悪化しないように、領内の見回りを強化した。



 今代の勇者と聖女の物語は御伽噺の様な結末を迎える。次代に引き継がれるために。



 ブログから転載。

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