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23話 七ヶ国会議

 オルニケア王国、王都ペルティアのとある議場。

 世界でも秀でた軍事力を持つ6ヶ国。

 それを代表する高官と、それを迎えた王が円卓に集う。


「報せは聞いておりますか?」


 一人の高官が口を開いた。


「えぇ……。我々の送り出した調査員が、全員無力化されたと」

「それだけではない。正体不明の輩も含め、『惡の特異点』を監視していた者たち、全てだ」

「これを以って、ヴァルキア皇帝陛下を弾劾し――」

「何を馬鹿なことを。もはや、力関係は崩壊している。この程度のことで、彼を律せるわけがないだろう」

「では、どうするというのですか!?」

「ヴァルキア皇帝陛下の”英雄の仮面”を剥がさなければ、『惡の特異点』を叩くことすらできないか……」


 各国の高官たちは、脅威への対策を思案していた。


「問題なのは、≪終末級≫が一団となったことです。そもそも、勇者が太刀打ちできぬのなら意味がないでしょう」

「奴らが手を組んだという確証はあるのか? 魔女も唯一竜も、かつては自身のテリトリーで猛威を振るっていただけだろう。何故、今更……」

「彼らには、3代前の勇者に討伐されたという共通点があります。魔王に至っては、相打ちとなっている。勇者への恨みから手を組んだ可能性は大いにあるでしょう」

「もしも、セントファム帝国が戦争を仕掛けてきたら……、我々には勝ち目がありませんぞ……」

「その可能性は低いでしょう。ヴァルキア皇帝陛下が、自ら”英雄の仮面”を外すとは思えません」


 皆、それぞれの考えを口にする。

 唯一、オルニケア王国のバラン国王だけが沈黙を貫いていた。

 ヴァーリア監獄たる”聖域”を有し、現代の勇者を輩出した最も巨大な国。

 魔石の生産数も世界一を誇る。

 しかし、肝心のバラン国王の政治手腕を疑問視する者は多い。


「ヴァルキア皇帝陛下に打診すれば、奴らを分断させることも可能なのでは? 単体であれば敵うのではないか? バラン国王陛下のご意見を伺いたいですな」


 バラン国王は、険しい表情を浮かべるだけで、口を開こうとしない。

 代わりに、その場に同席した勇者レトロが答える。


「陛下もそれはお考えになられています。しかし、ヴァルキア皇帝陛下は協力を拒むでしょう。他の方法を使って彼らを分断させるのが良いかと」


 勇者の力は、世界を動かす指針になる。

 バラン国王が決断を迫られる時、勇者は必ずそこにいた。


「そんな方法が、果たしてあるのでしょうか? いや、無いでしょう。それとも彼らの寝込みを襲うとでも?」


 すぐさま、反論の声が上がった。


「いえ、そうは言いません。しかし、方法については既に考えてあります」


 それは、バラン国王の考えなのか、それとも勇者レトロの考えなのか。

 いずれにせよ、各国の高官たちはそれに(すが)るしかない。

 レトロは続けて進言する。


「僕も全力を尽くしましょう。しかし、もっと力が必要になります。僕はここに『黎明の羅針盤』を再び結成することを望みます」


 それは、代々に受け継がれてきた勇者パーティー。

 脅威が現れる度に、勇者と世界中の強者が集い結成される。

 最後にこの名が歴史に刻まれたのは、数百年前。

 3代前の勇者が唯一竜を討伐した日。


「成員の選出は慣例に(なら)い、勇者である僕が務めさせていただきます。腕に自信のある者に覚えがあれば、ご紹介いただければ検討いたします」


 レトロは軽く頭を下げ、代表者たちの意見も聞かずに断言した。


「何人いても同じだろう。≪終末級≫に敵うのは貴殿しかいないのだから」


 魔王を除いて、人類に直接牙を剥いた≪終末級≫は存在しない。

 こちらから近づかなければ、滅ぼされることもなかった。

 故に、人類の平和を維持するのには、勇者一人で事足りていた。

 いや、勇者以外に抑止力となる者などいなかった。


「……そうでもありません。毒を以って毒を制す。≪終末級≫には≪終末級≫をぶつければ良いのです」


 『惡の特異点』が台頭することで、世界の情勢は変わる。

 それは、人類における話だけではない。

 世界のどこかに存在する、他の≪終末級≫たちにとっても、例外ではないはずだ。

 強すぎる力は、敵を生む。

 レトロは、それを利用するつもりでいた。


「当てがあるというのですか?」

「はい。少なくとも一人」


 レトロは即答した。

 彼はずっと考えていた。

 世界を終わらせる者が現れたとき、どうやってそれを打ち破るか。

 脱獄事件を切っ掛けに、平和なまま人生を終えてしまうのではないかと、日々募らせていた不安の感情は逆転した。

 レトロの鬼気迫る表情は、喜色を帯びている。


「ヴァーリア監獄に収監されている、ゴーヴァン・アストレイを僕に託していただきたい」


 その提案に、全員が静まり返る。


「彼には、僕と共に戦う意思がある。決して裏切らないと保証します」

「わ、我々には、その考えをどうこう言う権利はないでしょう……」


 高官の視線が、バラン国王へ向く。


「うむ……。勇者レトロよ。この私に、何か隠し事があるのではないか?」


 バラン国王の口から飛び出したのは、勇者に寄り添うものではなく、懐疑心の言葉であった。


「隠し事などありません。ただ、まだご説明できていないことがあるだけです」


 レトロは、仕方なく吐露する。


「申してみよ」

「……これは、≪終末級≫を仕留めるための作戦です。始まりは、とある亡命者の証言でした――」


 七ヶ国会議にて決議されたのは二つ。

 一つ、『黎明の羅針盤』の結成と、それに伴う≪終末級≫の囚人の一時釈放。

 一つ、『惡の特異点』の一角を崩す、勇者レトロ発案の軍事戦略の承認。

 

 そして――教会に対する、異端審問官の派遣要請。

 これは、バラン国王と勇者レトロを除く、全員の反対にて否決された。

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