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22話 惡の特異点:Epilogue

「彼の地へ向かうのかい?」


 しっとりとしたハープの音色が混じる。


「……君は?」


 月の照らす、たった一人の旅路。

 林道の分かれ道で、二人は出会った。


「しがない吟遊詩人さ」


 吟遊詩人は、鈴虫と共に奏でる。


「僕のことを待ち伏せしてたのか」

「勇者ソルナス。君の半生を後世に唄い伝えたくてね」


 ソルナスは、困ったように眉を下げてから、丸い岩に腰掛けた。

 

「一人で魔王と戦うつもりかい?」

「あぁ、仲間を失いすぎたからね」

「唯一竜を倒し、魔女を騙して――魔王を討伐できたとして、その先に何がある?」

「平和じゃないかな?」

「ははは、それは面白い考え方だ」


 正義を嘲り、勇者に立てつく。


「世界に、あと何人の≪終末級≫がいるか知らないのかい?」


 ソルナスは答えない。


「世界は、常に誰かの手の平の上だ。私たちには、どうすることもできないよ」


 憂う気持ちが、ハープの弦を強く弾く。


「僕は、できる限りのことをするだけさ」

「どうして、そこまで世界に尽くす? それが勇者としての役目だからかい?」


 吟遊詩人が、意地悪に笑う。


「……僕が戦う理由を、教えよう」


 ソルナスは魔剣グラムを抜いて、月に掲げた。


「いいね。それが聞きたかったんだ」


 そう唸って、ハープに手を当て、音を掻き消す。


「僕の世界では、絶えず人々が争っていた」


 ソルナスは、家族を失い、故郷を失い、ここに辿り着いた。


「人同士が争う理由は、人がとても……弱いからだ」


 ぎゅっと拳を握り、魔剣を大地に突き刺す。


「でも、この世界は違う。強大な存在が、世界の均衡を保ってる」

「……それじゃあまるで、君が争いを求めているようじゃないか」


 吟遊詩人は、臆さず吐き出した。

 ≪終末級≫を狩ることは、すなわち世界の均衡を崩すこと。

 保たれた平和を、踏みにじる行為ともとれる。


「僕は誰よりも強くなって、元の世界へ戻る」

「それは、どういう意味……かな?」


 ソルナスの言葉は、徐々に陰りを帯びる。


「この世界の平和は、後世に託すよ。そのために、唯一竜と魔女を生かしたんだから」


 そう言って、ソルナスは立ち上がって背を向けた。


「勇者ソルナス! ご武運を」

「ありがとう。そう言えば、君の名前は?」


 勇者を唄い伝える者の名を、聞かないわけにはいかない。


「デルバ。吟遊詩人のデルバだ」


 いつ、いかなる時代においても、唄は続く。

 脈々と流れる血のように、人々の感情は時代を伝播する。





 ――時は流れ、現代。

 人々は、得体の知れぬ脅威に畏怖していた。

 恐れられる者たちの思惑や信念にかかわらず。


 人々は、得体の知れぬものを形にする。

 見えないものほど、表現できないものほど、恐ろしいものはないのだから。


 とある吟遊詩人が、新たな脅威を(うた)にした。

 ヴァーリア監獄という封印が解かれ、悪逆が世界に放たれた。

 それは、勇者すら退けるほどの邪悪。

 軍門に降ったかに見えるも、真にそれらを支配することは叶わず。

 今も虎視眈々と、逆転の時を狙っている。


 その詩は、瞬く間に世界中へ広がって行く。

 人々は、得体の知れぬ脅威が世界を一変させると盲信し、震え上がる。


 そして、それらをこう呼称した。


 『惡の特異点』と――。

第1章は完結です。

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2/1(日)から1日1話ペースで更新は続きます。

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