ほっと一息、ホットケーキ
気がついたら教室を飛び出して、踏切に向かって走っていた。何回も迎えたと思っていた限界が、まだまだ甘かったことに気づいて絶望する。
冬の寒空の下、ブレザーも着ないでワイシャツにスカートだけで走る。履き替えた記憶もないのに、靴は上履きじゃなくてローファーだった。
視界に踏切を捉えたところでベルが鳴り始める。下がり始めるバーに追いつきたかった。でも、私がたどり着いたときにはもう電車が通り始めていて、私は逃げる道すら絶たれた気分で踏切の前に崩れ落ちた。
動けなくなった私を嘲笑うように踏切が上がる。
あともう三歩進んだところであれば、あともう十秒はやくついていならば、私は逃げ切れたはずだったのに。進む足は上がらないし、時間は戻ってくれない。素足の太ももに触れるアスファルトがやけに冷たい。視界が少し歪んできた。
「なにしとるの、こんなところで」
一瞬、自分に向かって掛けられた声だと気付かなかった。声がしたほうを振り向くと、赤いエプロンを付けた女性が立っている。
「ほらほら、そんな格好じゃ寒いでしょ?こっち来なさい」
言われて初めて、寒さを感じる。女性の示すほうを見ると、小さなカフェがあった。
でも、今の私はどうしてもそんなお店に入れる状態じゃない。誰とも一緒に居たくなかった。少しだけ良心を痛ませながら、無言で立ち去ることに決める。
「待って、どこ行くの」
わ、冷たい手、と言う彼女は私の手を掴んでいた。
「離してください」
「いや、だめだめ。あなたはお客さんだから」
「今お金持ってないんです」
「じゃあ試食手伝ってよ」
ぐるる、とお腹がなった。確かに弁当を捨てられて、私は何も食べてない。こんなときでもお腹は空くらしい。
「ほら、お腹空いてるでしょ、おいで」
軽く引っ張られたことに抵抗できず、そのまま店の中に入る。案内されるがままに席に座った。クッションが柔らかかった。
「ほら、これ食べてみて。言いたいことあったら教えてね」
目の前に出てきたのは二枚重ねのホットケーキだった。苺も乗っていておいしそうだ。
ナイフで一口分切って口にいれると温かい。温度差で自然と涙が出てくる。
あっと言う間に完食して、ふと気づく。私は今、寒空の下ワイシャツだけで踏切の前にしゃがんでいたのだ。泣きそうな顔で。でも、彼女はそこに触れないで、私を招き入れてくれた。
―――言いたいことあったら教えてね
溢れてきた涙を隠さないで、彼女に見せてみようと思った。




