表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞7の応募作品

ほっと一息、ホットケーキ

作者: 霧澄藍

 気がついたら教室を飛び出して、踏切に向かって走っていた。何回も迎えたと思っていた限界が、まだまだ甘かったことに気づいて絶望する。

 冬の寒空の下、ブレザーも着ないでワイシャツにスカートだけで走る。履き替えた記憶もないのに、靴は上履きじゃなくてローファーだった。

 視界に踏切を捉えたところでベルが鳴り始める。下がり始めるバーに追いつきたかった。でも、私がたどり着いたときにはもう電車が通り始めていて、私は逃げる道すら絶たれた気分で踏切の前に崩れ落ちた。

 動けなくなった私を嘲笑うように踏切が上がる。

 あともう三歩進んだところであれば、あともう十秒はやくついていならば、私は逃げ切れたはずだったのに。進む足は上がらないし、時間は戻ってくれない。素足の太ももに触れるアスファルトがやけに冷たい。視界が少し歪んできた。

「なにしとるの、こんなところで」

 一瞬、自分に向かって掛けられた声だと気付かなかった。声がしたほうを振り向くと、赤いエプロンを付けた女性が立っている。

「ほらほら、そんな格好じゃ寒いでしょ?こっち来なさい」

 言われて初めて、寒さを感じる。女性の示すほうを見ると、小さなカフェがあった。

 でも、今の私はどうしてもそんなお店に入れる状態じゃない。誰とも一緒に居たくなかった。少しだけ良心を痛ませながら、無言で立ち去ることに決める。

「待って、どこ行くの」

 わ、冷たい手、と言う彼女は私の手を掴んでいた。

「離してください」

「いや、だめだめ。あなたはお客さんだから」

「今お金持ってないんです」

「じゃあ試食手伝ってよ」

 ぐるる、とお腹がなった。確かに弁当を捨てられて、私は何も食べてない。こんなときでもお腹は空くらしい。

「ほら、お腹空いてるでしょ、おいで」

 軽く引っ張られたことに抵抗できず、そのまま店の中に入る。案内されるがままに席に座った。クッションが柔らかかった。

「ほら、これ食べてみて。言いたいことあったら教えてね」

 目の前に出てきたのは二枚重ねのホットケーキだった。苺も乗っていておいしそうだ。

 ナイフで一口分切って口にいれると温かい。温度差で自然と涙が出てくる。

 あっと言う間に完食して、ふと気づく。私は今、寒空の下ワイシャツだけで踏切の前にしゃがんでいたのだ。泣きそうな顔で。でも、彼女はそこに触れないで、私を招き入れてくれた。

―――言いたいことあったら教えてね

 溢れてきた涙を隠さないで、彼女に見せてみようと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ