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第8話 権力者たちの狂想曲

 実験成功の翌朝。

 富士の樹海の地下深くから、ほとんど眠らずに駆け付けた的場俊介は、再び、あの重苦しい空気が支配する、首相官邸の地下会議室にいた。

 テーブルを囲むのは、総理大臣・郷田龍太郎をはじめとする、日本の最高指導者たち。彼らは、やつれてはいるが、その目の奥に、隠しきれない緊張と、そしてわずかな懐疑の色を浮かべて、的場の報告を待っていた。彼らの内心では、まだ、この一連の騒動が、どこかの大国が仕掛けた壮大な謀略であるという可能性が、捨てきれずにいたのだ。的場が、憔悴しきった顔で、「実験は失敗に終わりました」と報告に来ることを、どこかで期待し、そして恐れてもいた。

 的場は、そんな彼らの視線を一身に浴びながら、用意してきたデータディスクを、会議室のメインコンピューターにセットした。


「――これより、特命対策室『CIST』より、甲号案件に関する、第一次実証実験の結果をご報告いたします」


 彼の声は、睡眠不足で少し掠れていたが、その響きには、揺るぎない確信が宿っていた。

 まず、スクリーンに、昨夜の実験の膨大な物理データが表示された。常人には意味不明な数字とグラフの羅列。だが、それは、この場にいる誰にも、嘘偽りのない、客観的な事実を突きつけていた。

 次に、映像が映し出された。

 巨大な実験装置が青白い光を放ち、空間が歪む、あの異常な瞬間。そして、実験対象である、何の変哲もない2メートルの鉄の箱。

 映像は、箱の内部に設置されたカメラの視点に切り替わった。そこには、体育館のように広大な、がらんとした空間が広がっている。そして、天井の小さな穴から、調査用の小型ドローンが侵入し、その広大な空間を、縦横無尽に飛び回り始めた。

「……これは……」

 誰かが、息を飲む。

「CG……ではないのかね?」

 財務大臣が、かすれた声で呟いた。

 その、最後の疑念を打ち砕くように、的場は、静かに、最後の切り札を切った。

「――総理。百聞は一見に如かず、と申します。……物理的な、証拠を、お持ちいたしました」

「証拠だと?」

 的場は、腕時計型の通信機に、小声で呟いた。

「……イヴ、頼む」

 その瞬間。

 会議室の中央、重厚なテーブルの上に、三週間前と全く同じ光景が、再現された。

 空間が揺らぎ、青白いプラズマが迸り、そして、黒い亀裂の中から、あの、2メートルの鉄の箱そのものが、音もなく、滑るようにして姿を現したのだ。

 突然の超常現象に、SPたちが色めき立つが、郷田が、それを手で制した。

 大臣たちは、椅子から立ち上がり、恐る恐る、しかし、抑えきれない好奇心に引かれて、その箱の周りに集まった。

 箱の側面には、調査のために開けられた、覗き窓が取り付けられている。

 最初に、その窓を覗き込んだのは、郷田総理、その人だった。


「…………」


 彼は、何も言わなかった。

 ただ、その歴戦の政治家の瞳が、まるで初めて見るオモチャを与えられた子供のように、大きく、大きく、見開かれていた。

 そして、彼は、絞り出すように、呟いた。


「…………マジかよ……」


 それは、一国の指導者とは思えない、あまりにも素直で、あまりにも人間的な、驚きの声だった。

 郷田は、ゆっくりと顔を上げると、まるで夢でも見ているかのような、放心した表情で、的場を見つめた。

「……うーん……。俺はな、的場君。昨日の、いや、今この瞬間まで、これは、どこかの大国が、我々を陥れるために仕掛けた、壮大なドッキリなんじゃないかと、本気で疑っていたんだ」

 彼は、まるで独り言のように、その本音を吐露し始めた。

「見たこともないような、とんでもない技術をちらつかせて、我々を揺さぶり、その裏で、何かを、我が国の何かを、根こそぎ奪い去ろうとしているんじゃないかとな。……だが」

 郷田は、もう一度、箱の内部の、ありえないほど広大な空間を覗き込んだ。

「……これは……ドッキリでも、トリックでもない。……本物だ。……本物の、『神の御業』だ……!」

 その言葉が、堰を切った。

 他の大臣たちも、次々と覗き窓に殺到し、そして、誰もが同じように、言葉を失い、絶句し、やがて、その表情を、驚愕から、抑えきれない興奮と、そして、むき出しの欲望の色へと、変えていった。

 防衛大臣は、軍人としての本能から、部下のSPに命じて、小型の調査ドローンを箱の中に入れさせた。ドローンは、広大な内部空間を問題なく飛行し、その映像がリアルタイムで大臣たちのタブレットに映し出される。映像を見た防衛大臣は、わなわなと唇を震わせた。

「……凄い……。これは、凄いぞ……」

 財務大臣は、そろばんを弾くかのように、指を折りながら、ぶつぶつと呟いていた。

「この箱一つの、資産価値は……いや、この『技術』そのものの価値は……京か? 垓か? 馬鹿な、数字で測れる代物ではない……!」

 そして、誰からともなく、その、無限の可能性を秘めた奇跡の技術が、自分たちの国にもたらすであろう、バラ色の未来についての、狂想曲が始まった。


「――総理! 総理! これさえあれば!」

 最初に口火を切ったのは、国土交通大臣だった。彼は、興奮で顔を真っ赤にしながら、郷田に詰め寄った。

「我が国の、長年の懸案であった、土地問題は、完全に、未来永劫、解決いたしますぞ! もはや、狭い国土に、人々がひしめき合って住む必要はなくなるのです!」

 彼は、まるで狂った預言者のように、その夢を語り始めた。

「首都直下型地震への対策? 簡単です! 霞が関も、国会も、皇居すらも、全て、空間拡張技術で造られた、地下の超巨大シェルターに移設すれば、どんな天災からも安全です! 羽田空港の滑走路が足りない? 空港ターミナルの地下に、今の十倍の広さを持つ、巨大な格納庫と駐機場を造れば、即解決! リニアモーターカーの用地買収が難航? もはや、地下に長いトンネルを掘る必要などありません! 東京駅と大阪駅の駅舎の内部に、空間拡張で、全長500キロの路線を、丸ごと格納してしまえば良いのです!」

 その、あまりに壮大で、あまりに馬鹿げたビジョンに、しかし、もはや誰も、笑う者はいなかった。

 なぜなら、それが、実現可能だからだ。

 次に、経済産業大臣が、震える声で続けた。

「いや、それだけではない! 我が国の産業構造が、根底から変わる! 半導体工場も、巨大なデータセンターも、これまでの十分の一の土地面積で、十倍の集積率と生産性を実現できる! 倉庫という概念が、この国から消えれば、物流コストは劇的に下がる! 日本は、再び、あの栄光の時代の、いや、それを遥かに超える、世界最強の、製造業・情報産業大国として、返り咲くことができるのだ!」

「その通り!」

 財務大臣が、恍惚とした表情で、天を仰いだ。

「この技術が生み出す富は、文字通り、無限大だ! もはや、消費税を上げるだの、社会保障費がどうだの、そんな、ちっぽけで、みみっちい議論は、今日で終わりだ! この技術を、我が国が独占し、世界中の国々に、高値でライセンス供与すれば……我が国は、国民が、一切の税金を払わなくとも、国家を運営していけるほどの、莫大な歳入を得ることになる! 国民全てに、最低所得を保障する、夢の、完全福祉国家の誕生だ!」


 夢。

 夢、夢、夢。

 大臣たちは、それぞれが、自分の権力と欲望のフィルターを通して、この奇跡の技術がもたらす、甘美な夢を、競い合うように語り始めた。

 その狂騒に、쐐を刺したのは、今まで黙っていた、防衛大臣だった。

「……そうだ。そして、その富と、繁栄を、守るための力も、我々は手に入れる」

 彼は、まるで軍神にでも取り憑かれたかのような、鋭い、そして危険な光を目に宿していた。

「諸君、考えてみろ。我が国の、そうりゅう型潜水艦の内部が、もし、十倍の広さになったら、どうなる? 無限の食料と、燃料と、そして、数百発のミサイルを搭載したまま、何年も、太平洋の底に潜み続けることができる、究極の戦略原潜となる! 我が国の、F-35戦闘機の内部が、もし、十倍になったら? 空飛ぶ要塞だ! 大量のドローンと、新型兵器を、その腹の中に隠し持った、無敵のステルス戦闘機が生まれるのだ!」

 彼は、ゆっくりと、その場にいる全員を見回した。

「この技術は、どんな核兵器よりも強力な、究極の『抑止力』となる! 我が国は、もはや、アメリカからも、中国からも、ロシアからも、どの国からも、決して脅かされることのない、絶対的な安全と、尊厳を、その手にすることができるのだ!」


その言葉に、会議室の興奮は、最高潮に達した。

富、繁栄、そして、絶対的な力。

この技術は、その全てを、この国に、自分たちにもたらしてくれる、万能の打ち出の小槌なのだ。

その、熱に浮かされたような大臣たちの狂騒を、郷田総理は、静かに、しかし、その目の奥に、彼らの誰よりも深い、業火のような野心を燃やして、見つめていた。

やがて、彼は、ゆっくりと手を上げて、その喧騒を制した。


「――静かにしろ」


その声には、もはや、いつもの老政治家の老獪さはなかった。それは、絶対的な権力者だけが持つ、有無を言わさぬ、覇者の声だった。

「……君たちの言う通りだ。だが、君たちの見ているものは、まだ、小さい。あまりにも、小さい」

郷田は、まるで世界地図でも見下ろすかのように、虚空を睨みつけた。

「この技術は、この国の形を変えるだけではない。世界の、パワーバランスそのものを、根底から、永遠に、塗り替えるのだ」

彼は、ゆっくりと、続けた。

「資源もない、広大な土地もない、軍事力も、国連の常任理事国の地位も持たない、この小さな、極東の島国が……この技術一つで、世界の頂点に立つ。アメリカも、中国も、ロシアすら、我々の前に、ひれ伏すことになる。世界のルールは、我々が作る。世界の富は、我々が決める。世界の平和は、我々が、管理する」

そして、彼は、低く、しかし、会議室の隅々まで響き渡る声で、宣言した。


「……俺は、この手で、それを成し遂げる。この日本の歴史上、いや、この世界の歴史において、アレキサンダー大王も、ジンギス・カンも、誰一人として成し遂げられなかった、真の世界統一を。……そして、その頂点に立つ、最も偉大な指導者として、永遠に、その名を残すことになるのだ……!」


その、あまりにも巨大な野望の告白に、大臣たちは、もはや、言葉もなかった。

彼らは、ただ、自分たちのリーダーが、神々の力を手にしたことで、凡庸な政治家から、歴史を動かす覇王へと、変貌を遂げる瞬間を、畏怖と、興奮と、そして、わずかな恐怖をもって、見つめていた。


その、狂騒の中心で。

ただ一人。

的場俊介だけが、冷え切った、氷のような目で、その光景を、黙って、眺めていた。

彼は、意を決して、一歩、前に出た。


「――皆様。総理。……少し、よろしいでしょうか」


その、あまりにも冷静で、冷ややかな声に、大臣たちの興奮は、一気に、水を差されたように、静まった。

「……なんだね、的場君。君も、何か、素晴らしい未来のビジョンが、浮かんだのかね?」

郷田が、少し不機嫌そうに、尋ねた。

的場は、静かに、首を横に振った。


「いえ。私が申し上げたいのは、その逆です」

「……何?」

「皆様、お喜びになるのは、よく分かります。この技術が、我々に、無限の可能性をもたらすことも、事実でしょう。……ですが、どうか、お忘れなきよう。この、奇跡の技術は、我々が、自らの血と汗で、生み出したものでは、決してありません。あの、介入者と名乗る、正体不明の存在から、一方的に『与えられた』ものなのです」


的場の言葉に、会議室の空気が、少しずつ、変わっていく。

「皆様は、今、目の前の宝の山に目を奪われています。ですが、どうか、その宝を『与えた』者のことを、お考えください。彼らは、なぜ、我々に、これほどの『お恵み』を与えたのでしょうか。彼らの、真の目的は、一体、何なのでしょうか」

彼は、一度言葉を切り、その場にいる全員の目を、一人一人、まっすぐに見つめた。

「私は、こう考えます。これは、壮大な実験なのではないか、と。猿の群れに、火の使い方を教えたら、どうなるのか。その火で、暖を取り、文明を築くのか。それとも、互いを焼き尽くし、森ごと滅びるのか。それを、高みの見物をしているのではないか、と」

その、あまりにも鮮烈な比喩に、何人かの大臣が、はっと息を飲んだ。

「我々が、この技術に酔いしれ、この力に、完全に依存してしまった時……介入者は、必ずや、次の要求を、突きつけてくるでしょう。『第二弾』『第三弾』の、さらに高度な技術供与を、その喉元にちらつかせながら。そして、我々が、彼らの要求を、拒否できなくなった時。気づいた時には、この国は、彼らの、完全な、技術的奴隷に、成り下がっているやもしれません。……いや、もっと悪い。我々人類そのものが、彼らの掌の上で踊らされる、哀れなペットになっている可能性すらあるのです」


的場の、魂からの叫びにも似た警告は、確かに、熱に浮かされていた権力者たちの頭を、急速に冷却させていった。

先ほどまでの、狂騒的な興奮が、嘘のように引いていく。

会議室は、重い、そして気まずい沈黙に包まれた。

大臣たちは、互いに顔を見合わせ、あるいは、バツが悪そうに視線を逸らした。

彼らも、心のどこかでは、分かっていたのだ。

だが、目の前にぶら下げられた、あまりにも甘美な果実を前に、その、不都合な真実から、目を逸らしていただけなのだ。

的場の言葉は、その欺瞞を、容赦なく暴き出した。


「……水を、差すようなことを……」

財務大臣が、先ほどとは打って変わって、弱々しい声で呟いたが、その言葉には、もはや力がなかった。

沈黙を破ったのは、郷田総理、その人だった。

彼は、先ほどまでの覇王の顔ではなく、幾多の修羅場を乗り越えてきた、老獪な政治家の顔に戻っていた。

彼は、ゆっくりと、深く、息を吐き出した。


「…………うーん……」


郷田は、腕を組み、目を閉じたまま、数秒間、何かを深く考えていた。

やがて、彼は、ゆっくりと目を開けると、的場を、まっすぐに見据えた。


「……的場君。君の言う通りかもしれんな」


その、静かな肯定の言葉に、大臣たちは、驚きの表情を浮かべた。

「まあ、たしかに……。我々は、少し、浮かれすぎていたようだ。目の前の、甘い果実の匂いに、我を忘れていた。猿に火、か。……的を射た、耳の痛い例えだ」

郷田は、自嘲気味に、ふっと笑った。

「そうだ。リスクを忘れた者に、リターンを得る資格はない。我々は、今、人類の歴史上、誰も手にしたことのない、あまりにも強大な力を、その手にしようとしている。……それは、同時に、人類の歴史上、誰も背負ったことのない、あまりにも巨大な責任を、背負うということでもあるのだな」

彼は、ゆっくりと、椅子に腰を下ろした。

その動きに合わせて、他の大臣たちも、まるで催眠が解けたかのように、次々と着席していく。

会議室の空気は、もはや、狂騒のそれではない。国家の、いや、星の未来を決定する、極めて重要な戦略会議の、張り詰めた、しかし、冷静な空気が、そこにはあった。


郷田は、続けた。

「だがな、的場君。君の言うリスクを認めた上で、それでも、俺は、前に進むべきだと考えている。この、千載一遇、いや、万載一遇の好機を、ただ、恐れて見過ごすことなど、断じてできん」

彼は、その鋭い目で、再び、大臣たちを見回した。

「そうだ。我々の未来は、順風満帆なものになるだろう。だが、それは、ただ与えられるものではない。我々が、自らの知恵と、勇気と、そして、覚悟をもって、掴み取るものだ。的場君が鳴らしてくれた警鐘は、そのための、最初の試練なのだ」

そして、郷田は、再び、的場に、その視線を向けた。

その目には、先ほどの不機嫌さではなく、全幅の信頼と、そして、共に地獄を渡る覚悟を決めた、共犯者のような色が、宿っていた。


「……的場君。君には、改めて、礼を言う。この、熱に浮かされた会議で、ただ一人、冷静な視点を失わなかった君の功績は、大きい」

「……いえ、私は、当然のことを申し上げたまでです」

「その当然が、難しいのだ、この世界は」

郷田は、静かに言った。

「君には、引き続き、CISTの室長として、この国家の最重要プロジェクトを、率いてもらう。だが、その任務を、ここで、改めて、再定義したい」

彼は、テーブルに肘をつき、身を乗り出した。

「君の仕事は、ただ、介入者から技術を受け取り、それを開発することだけではない。君の、本当の仕事は……君が、今、我々に突きつけた、その数々のリスクを、管理し、制御し、そして、最終的には、克服することだ。介入者の真の意図を探り、彼らとの、絶妙な距離感を保ちながら、我が国、いや、人類の利益を、最大化する。……時には、彼らを欺き、時には、彼らを利用し、そして、いつの日か、我々が、彼らと『対等』な立場に立つ、その日までの、長い、長い、ロードマップを描き、実行する。……それこそが、君に課せられた、本当の使命だ」

それは、あまりにも、巨大で、あまりにも、孤独な任務の宣告だった。

だが、先ほどとは、その重みの意味が、全く違っていた。

あれは、責任の丸投げだった。

だが、これは、国家の未来そのものを託す、究極の、信頼の証。


「……これは、この国の、いや、この星の、浮沈を賭けた、最も困難で、最も重要な仕事になるだろう。失敗は、許されん。……だが、君なら、できると信じている」


郷田は、そう言うと、深く、深く、的場に向かって、頭を下げた。

一国の総理大臣が、一人の大臣に、頭を下げる。

その、ありえない光景に、他の大臣たちも、皆、椅子から立ち上がり、神妙な面持ちで、的場に向かって、一斉に、頭を下げた。

それは、謝罪ではなかった。

それは、これから始まる、未知の航海の、船長に任命された男への、最大限の、敬意と、そして、自らの運命を託すという、覚悟の表明だった。

的場は、その光景を、ただ、呆然と、見つめていた。

孤独ではなかった。

自分は、一人ではなかったのだ。

彼の胸に、熱いものが、こみ上げてくるのを感じた。


「……顔を、お上げください、総理。皆様」

 的場は、震える声を、必死に抑えながら、言った。

「……その、御命令。謹んで、お受けいたします。この、的場俊介、この身命を賭して、必ずや、この国を、人類を、輝かしい未来へと、導いてみせることを、お誓い申し上げます」

 その言葉に、郷田は、満足げに、頷いた。

「うむ。頼んだぞ、的場君」

 彼は、最後に、まるで、厳しい戦地に赴く息子を送り出す、父親のような、穏やかな目で、言った。


「――これからも、色々と、大変だろうが、頑張ってくれたまえ。日本の、順風満帆な未来は……君の、その双肩にかかっているのだからな」

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