第20章:最強の始まり
『黒鉄の城』での最終決戦から数年の月日が流れた。
あの戦いは後に『創生戦役』と呼ばれることになる。俺たちが持ち帰った【創生の宝玉】は、ギルドと世界各国の共同管理の元、枯渇しかけていたダンジョン資源に代わる新たなエネルギー源として世界中の復興を支えていた。
世界は少しずつ、だが確実に平和を取り戻しつつあった。
そして俺、相田譲は――。
「譲、またそんなガラクタばかり集めて。少しは休んだらどうだ?」
呆れたような、しかしその声色にはどうしようもない愛情が滲んでいる。声の主はもちろん、俺の隣で微笑む銀髪の美しい女性、雫だ。
俺はダンジョンの浅い階層で拾い集めてきた壊れたゴーレムの残骸や、魔力切れの魔石のクズを大きな袋に詰め込みながら苦笑した。
「仕方ないだろ?こういうガラクタの中にこそ、お宝が眠ってるんだから」
『救世主』。一時期はそんな大層な名前で呼ばれたりもしたが、結局俺は何も変わらなかった。
ギルドの名誉顧問なんていう肩書はもらったが、ほとんど名ばかり。俺は今もこうしてダンジョンで他の探索者が見向きもしないようなガラクタを拾い集め、アトリエに持ち帰っては新しい発明に没頭する、ただの「ゴミ拾いの錬金術師」だ。
俺たちが正式にパーティーとして届け出た『アトリエ・リサイクル』は、戦闘やクエストを請け負うのではなく、俺の発明品で人々の生活を豊かにすることを目的とした新しい形のパーティーだった。
俺がガラクタから創り出した「何度でも使える自己修復機能付きのテント」や「魔力を使わずに温かい食事が作れる携帯コンロ」は、探索者たちの間で爆発的なヒット商品となっていた。
「それにしても、平和になったな」
アトリエへ帰る道すがら、雫がしみじみと呟いた。
街には活気が戻り、子供たちの笑い声が響いている。俺たちが守りたかった当たり前の日常がそこにはあった。
ふと視線の先に見覚えのある人影を見つけた。路地裏でその日暮らしの日雇い労働にありつこうと頭を下げている三人の男たち。かつて俺を追放したパーティー『ブレイジング・エッジ』のリーダー、赤城とその仲間たちだった。
彼らはスタンピードの混乱の中で火事場泥棒を働き、ギルドから永久追放されたと聞いていた。見る影もなく落ちぶれたその姿に、俺の心は不思議と何も動かなかった。
怒りも憎しみも、憐れみさえない。
彼らはもう、俺の人生にとって何の価値も持たない、ただの風景の一部でしかなかった。
「……行こうか」
俺がそう言うと、雫は黙って頷いた。
彼女も彼らに気づいていたようだが、俺と同じように何も感じなかったのだろう。
俺たちの見る先はもう過去にはない。
アトリエに帰り着くと、俺は早速今日拾ってきたガラクタを作業台の上に広げた。
「さて、これで何を作ろうか」
壊れたゴーレムの腕。魔力切れの魔石。そして道端に落ちていた錆びたフライパン。
他の誰が見てもただのゴミの山。
だが俺の目には、それが無限の可能性を秘めた宝の山に見えた。
「そうだ。雫さんのために、全自動で朝食を作ってくれるゴーレムでも開発するか」
「……それは少し、興味があるな」
俺の提案に雫が悪戯っぽく笑う。
その笑顔を見て、俺は心から思う。
ああ、幸せだなと。
外れスキル【ゴミ箱】と蔑まれ、全てを失ったあの日。絶望の淵で俺が手に入れたのは、世界を救う力なんかじゃない。
ただ、この愛しい人の笑顔を守るための力だったのだ。
俺は雫の手をそっと握った。
「さあ、始めようか」
俺は彼女に向かって最高の笑顔で言った。
「――次は、どんなガラクタで、世界を驚かせてやろうか」
俺たちの物語はまだ始まったばかりだ。
外れスキル【ゴミ箱】は今日も最高の輝きを放っている。
(了)




