理解
廊下を歩いていた時突然のことだった。
「なあ!そこの君!待ってくれないか、伝えたいことがあるんだ!」
この前見た噂の先輩である。待ってくれと言われてもこの後私には時間までに課題を提出しにいく用事がある。
「すいません!急いでいるので!」
確かに好意的な感情を向けられるのは嬉しいが急に声をかけられると心の準備が出来ず、そわそわして逃げたくなってしまう。そういうわけなので走らないが早歩きで立ち去る決意を持つ。
それなのに、
「君の名前って俺の名字と合わせたら完璧になると思わないか!!!!????」
「…え?」
理解出来なかった。だって名前?名字?告白ではなく?いやすっとばしてのプロポーズ?頭の中がパニックになっている。
「だから、君の名前に俺の名字を合わせたら君はもっと魅力的になる!確信してる、俺の名字を貰ってくれ!」
「…失礼します!!!」
逃げた、私には衝撃的すぎてキャパオーバーだったのである。
「ふっ……アッハッハッハッ、ヒーッお腹痛いんだけど!」
友人が爆笑しながら赤い顔をしている私に指をさしている。すねた私はブスっとした顔をして机に伏せることにする。
「知らなかったの?「あの」先輩のこと。」
先輩はここで私以外知らない人は誰もいないほど有名な癖の持ち主であるそう。
それは姓と名のバランス愛好家であると。明確な判断基準は彼にしか分からないが、自分の名字と合う完璧な名前を持つ人と結婚すると意気込んでいるそう。
そしてその完璧な名前を持つのが私ということだった。
なんだよ、一目惚れとか内面で好意を持たれたとかロマンチックなことを妄想していたのに!ただの名前だけで私が結婚なんてありえない!勘違いしてて恥ずかしい!と私の心の天気は嵐である。
「んで、どうなの?彼の名字貰って結婚するの?…フフッ」
「もう…からかってるね?するわけないでしょ!私は結婚するなら好きな人とって決めてるの!それに…このままの名字がいい。大好きなの。」
大好きな両親からもらっている名字なのである。別に名字が変わるのに忌避感があるわけでも絶対変えたくないという訳では無いが、つい先程の恥ずかしさからプライドが邪魔をして言い訳として両親を出してしまう。
「へー、名字にこだわるだなんてなんだか似た者同士だね!案外話してみたら気が合うんじゃない?」
「なっ、ちがっ「あっ、ヤバい!美味しいラーメンが待ってる、行かなきゃ!じゃあねー!」
誤解された…。あんなこと言うんじゃなかったと後悔した。まあ明日もう一回話せばわかってくれるでしょなんて楽観していた私であった。