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祓う  作者: シグマ君
15/16

第15話 4丁目0番地 その7

 壁に十字架のような格好で張り付けられた裸の権藤彩音。両膝が開きながら腕のところまで持ち上がった。含み笑いの女が覗き込むように近づいて来る。


「ふふふ……いい格好だね~……ふふふ……私が天国に連れていってやってもいいんだけどさ~、女の身体に興味ないんだよね、残念だけど。凛ちゃんなら両刀なんだけどね~………ああ、さっき来た女が凛ちゃん、東野凜。苺ちゃんも夏江ちゃんも凛ちゃんにヤられて鳴いてたな~~…………凛ちゃん呼んでもいいけど………どうしようかね~………お嬢ちゃん、女とヤったことある? ………ちょっと~返事くらいしてよ。恥ずかし過ぎて喋れない?」


 壁に張り付き宙に浮いたままの彩音は相変わらずの格好でーーーまるで幼い女の子にオシッコをさせるために後ろから抱きかかえられてるような格好で、瞬きすら忘れたように女を見ているだけだ。


「あ~~忘れてた! ごめん、ごめん。喋れないよね~。私が動けないようにしてたんだ。口だって動かないもんね~、あはははははは………………女同士の見ても大して言面白くないし………お嬢ちゃんは部外者だけど特別にこの土地に閉じ込めてる奴にヤらせるかな。ふふふ……狂っちゃうだろうね~~そうだ、狂う前に教えてあげる。この土地に閉じ込められてるバカな男と私の関係。鶴岡二郎ってヤツがヒグマを食って狂った。あんなモン食うもんじゃないよね~、っで女を犯しては殺すを繰り返してる内に焼き殺されちゃった。あはははは……そいつの怨念や殺された女の怨念、そして獣の怨念が混じって籠った土地がここなの。知らなかったでしょ? ある意味パワースポットなんだよ。とんでもない土地。そして呪いを掛けて抑え込んだのが名切残間。その残間ってのが私の親父。60過ぎに私の母さんを孕ませたスケベ爺なんだけどさ~、けっこうな霊能力を持ってた。だから母さんと兄貴と私の三人で喰らった。はははは……食っちゃったの、心臓、睾丸、亀頭をね。亀頭って美味いんだよ~、一度食ったら止められなくなるから……ふふふ……お嬢ちゃんにも食わせてあげたいけど、もう無理か。力を持ってる奴を食うとね、そいつが持ってた力を全部自分のものにできるんだよ。ふふふ、知ってた? 母さんもそこそこの力を持ってたけど、親父の………ああ、母さんにしてみたら亭主だ。ふふふ……亭主の食ってからの母さんは強くなった。その母さんを食ったのが兄貴と私。でもさ~、女の芯は大して美味くなかったな~……ちっこいし。そうだよ、芯は私が食った。っで兄貴を食ったのはもちろん私。うん、一人で食った。もともとウチの家族で私が一番強かったんだけどね。私がまだ子供だった頃でさえ、親父や母さん以上だったから、家族のみんな私を怖がって腫物に触るみたいにして………だから母さんに言ったんだ。親父を食っちまおうって。そしたら母さんだって少しは強くなるよってね。兄貴はバカだったね~~、ほんとバカ。この土地に呪い掛けたのは親父だけどさ~、幼稚園建てる時に何とかしたのは兄貴じゃないから。私がやってあげたの。親父や母さん食ったのにあのバカは全然ダメ。口だけ。それなのに金を独り占めしようとしたから食った。うん、ここで食ったんだよ。でもさ~兄貴のより親父の亀頭の方が美味かったね。他にも男を食ってみたけど、親父のが一番だった。やっぱり力が強い男の亀頭が最高なんだろうね。っで親父が呪いを掛けて閉じ込めた鶴岡二郎なんだけど、もう随分と昔なのにまだ閉じ込められたまんま。私がちょっとした細工をしたからね~。セックスに対する渇きを増幅させてやったんだ。だから幽霊のクセにセックス中毒。あははははは………ヤりたくてヤりたくてずっと居るの。だけどどっかにフラフラ行かれちゃったらさ~、偉い坊さんなんかにヤられちゃうだろ。だからかごめかごめで頑丈に閉じ込めた。この土地には兄貴も縛ってあるんだよ。バカな兄貴は死んでもバカでさ~、誰彼かまわずかごめかごめをやらせ続けてる。まぁ便利でいいけどね。…………ああ、ようやっと日が落ちたみたいだね。ふふふ………」



 か~ご~め~か~ご~め~、か~ごのな~かのと~り~わ~、い~つ~い~つ~で~や~~る~、よ~あ~け~のば~~んに~、つ~るとか~めがす~べ~~た~、うしろのしょ~めんだ~れ~だ~



 何処からか聞こえ続る童歌。その歌う声が大きくなた。


「ふふふ………私が居れば何時だって現れるんだよ………その格好なら立ったままでも出来そうだね」


 何かが壁から現れた。真っ黒い、影よりも闇よりも黒いナニか。1体ではない。何体も繋がった黒いヤツが壁を通り抜け、反対側の壁に張付けられている彩音に向って移動している。


「ふふふ………お嬢ちゃん、存分に楽しんだらいいさ。生きてる男だったらアっという間に終わっちゃうけど………ふふふ……コイツは終わらないよ。おかっぱ頭の似合う可愛いお嬢ちゃん。ツンと澄ましたその顔……ふふふ………涎たらして白目剥いちゃうから。どんな声で鳴くのかな~。あっ、そうだ、言い忘れてた。お嬢ちゃんの芯は私が食うから心配しないで」



 か~ご~め~か~ご~め~、か~ごのな~かのと~り~わ~、い~つ~い~つ~で~や~~る~、よ~あ~け~のば~~んに~、つ~るとか~めがす~べ~~た~、うしろのしょ~めんだ~れ~だ~か~ご~め~か~ご~め~、か~ごのな~かのと~り~わ~、い~つ~い~つ~で~や~~る~、よ~あ~け~のば~~んに~、つ~るとか~めがす~べ~~た~、うしろのしょ~めんだ~れ~だ~



 黒い奴らが彩音を取り囲み、ゆっくりと、ゆっくりと回っている。

 彩音は壁に張付けられているから取り囲むことなど出来ないはずが、黒い奴らは壁など無いかのように取り囲んでいる。

 彩音の正面に1体が止った。そいつが近寄り、腕と思われる部分を伸ばし彩音の身体にーーー両脚の中心に触ろうとしている。全く動けずに瞬きすらしない彩音。黒目すら動かす事ができないのか、己の女の部分に伸びる真っ黒い手を見る事もせず、ただ前を見続けている。


 か~ご~め~か~ご~め~、か~ごのな~かのと~り~わ~、い~つ~い~つ~で~や~~る~、よ~あ~け~のば~~んに~、つ~るとか~めがす~べ~~た~、うしろのしょ~めんだ~れ~だ~か~ご~め~か~ご~め~、か~ごのな~かのと~り~わ~、い~つ~い~つ~で~や~~る~、よ~あ~け~のば~~んに~、つ~るとか~めがす~べ~~た~、うしろのしょ~めんだ~れ~だ


「ふふふ……」


 童歌に混じり女の含み笑いが聞こえる。

 次の瞬間だった。彩音の身体から眩いナニかが膨れ上がり、黒い奴ら全部を飲み込んだ。


「なっ…………お前!! なにをやった!!」

「消した」


 相変わらず幼い子がオシッコをさせられているような格好で壁に張り付いてる彩音が喋った。そして黒い奴らは全て居ない。


「けっ、消した? ………どっ、どこに? ………おっ、お前、どうして喋れる? 今だって………」

「浮いてるだけだ。………よく喋る女だ。黙って聞いてやってたんだ。くだらん話しでビックリした」

「クっ…………ふざけやがって、くそガキが~強がるなよ!」

「黒いヤツらは出歩いてたぞ。アタシの家にまで来た。消そうとしたけど逃げられた」

「うっ、うそだ!! そんなはず………私が頑丈に閉じ込めて………」

「お前の力なんかそんなもんだ、バカめ」


 女はよほど悔しいのか、噛んだくちびるから血が滴り落ちている。


「色々と見えた、お前達の過去」


 震えるほどの怒りを露わにした女のことなど意に介さないように彩音は全く別のことを言った。自分はまだ変な格好で動けないのに。


「…………見えただと? 適当なことを言うな!! お前にそんな力など……あるはずがない! ………そうか、意表を突いたことを言って時間を稼ぐって腹か………ムダだ。何を言ったところで動けないんだよ」

「なんで親父を食った? 母親も食った訳は?」

「はぁああああ? お前、バカか? 私が言ったこと聞いてないのか? ……ああ、お子ちゃまには理解できなかったか。もう一度だけ教えてあげる。力を持った奴の……」

「ヤられてたんだろ。ガキの頃から親父に犯され続けてたのがお前だ。母親も笑いながら見てた。だから食った」

「ちっ、違う!! そんなこと…………家族の中で私が一番強かった!! だっ、だから私が……」

「兄貴にもヤられてた。お前、何人産んでる? それも食ったんだろ」


 女は下げた両腕の拳をブルブルと震わせ、目を見開き、歯を食いしばっている。そんな女の様子などお構いなしに彩音が続けた。


「お前の母親は親父の娘だ」

「………………」

「意味わからんか? お前の姉がお前を産んだ」

「…………」

「知らんかったのか」

「黙れ、黙れ、黙れえええええええええええええええええええええ!!! 出鱈目を言うなあああああああああああああああ!! もう手加減なしだ!! 殺してやる。人間を浮かせることが出来る力ってのは、心臓を掴むことも出来るんだよ。くっくっく………簡単には死なせない。じわじわとお前の心臓を絞めてやるからな。苦しいぞ~~、地獄の苦しみだ。楽にしてくれ、早く殺してくれ~って頼むことになるからな。………ほら、どうだ? 苦しいだろう? …………言え!! 苦しい、助けてって言え!! なんで言わない!!……………そうか、結界か。お前、身体の中にも張れるのか。だから喋れるのか………お前の芯は絶対に食う。その力、ぜんぶ貰うからな。ふふふ………私はこんな事も出来るんだよ」


 ベットがガタガタと揺れ始めた。まるでポルターガイスト現象のように。そして宙に浮いたベット。


「身体の中は守れても、外からの圧力にはどうかね~~。ふふふ……ベットで押し潰してあげる。痛いよ~~……でもさ、ふふふ………生きてるお前の芯を食わなきゃね~~、生きたまんまで私に食われるのさ。泣き叫ぶんだろうね~~、楽しみ………え?………あぎゃっ!!」


 女は喋ってる途中だった。右手で自分の髪の毛を鷲掴みにし、己の顔面を床に叩きつけたのだ。それは突然すぎて左手で庇う事もできず、顔面が床にめり込んだのではないかと思うほどだった。それと同時に宙に浮いていたベットが床に落ち、彩音も床に下りた。


「お前の右腕は支配した」

「フガアアアア……アガガガガガガ………」


 彩音に支配された右腕が、うつ伏せの女の頭の方から手を伸ばし、鼻の穴に指を入れて引っ張り上げている。それは容赦のない引っ張り方で、女は90°以上も仰け反り、左手でなんとか右腕を掴もうともがいているが届かない。よく見ると、さっき床に叩きつけられた衝撃で鼻は折れ曲がり、前歯の数本も無く、鼻から口から大量に血が噴き出している。

 もがいている女がなんとか仰向けになった。その途端、右手が拳を作り、己の顔面を殴り始めた。


「ギャッ・・・・・・ギャッ・・・・・・ギャッ・・・・・・ギャッ・・・・・・もう………ギャッ・・・・・・ギャッ・・・・・・やめ………ギャッ・・・・・・ギャッ・・・・・・おねが………ギャッ・・・・・・ギャッ・・・・・・」


 自分を殴り続ける右手を左手で掴んだが、抑えきれず、左手で顔を覆うが右手は殴るのを止めない。顔を覆った左手の指がおかしな具合に曲がったから折れたのだろう。


「左腕も支配した」


 女の左手。数本の指が有り得ない曲がり方をしているが、そんなことなどお構いなしに自分が穿いているジーパンを脱がし始めた。女は腰を振ったり捩じったりして抵抗しているが、その間も自分の右手に殴られ続け、パンツも脱がされた。女は両足をクロスして最後の抵抗を試みたが、左手をねじ込まれた。そしてその左手は陰毛を鷲掴みにすると引き千切った。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……………」


 左手は股間の皮膚ごと毟り取った。


「食いたいなら自分のを食え」


 左手は掴んでるモノを自分の口にグイグイ押し込んだ。

 動かない女。だが息はしているらしく、胸が大きく上下している。そんな女に彩音が近づき、女の額に手を置いた。すると女は、まるで陸に上がった魚のように1回だけ身体を跳ねらせ、そして動かなくなった。だが胸は上下しているから死んではいないらしい。


「アタシは二十歳だ! ガキなんかじゃない!! なにがお嬢ちゃんだ、クッソ~~……剃ってないからな! まだ生えてないけど……これから生えてくるんだ!! 処女じゃなくて悪かったな! ああ、そうだよ、ヤってるよ、セックスして悪いか!! むぅぅぅぅ………いろいろと仕込まれてなんかないからな! アタシは純真なんだよ! お前みたいなヤリマン女と一緒にするな! 聞いてんのか、ちくしょう………」


 動かない女に文句をずっと言い続けていた。




 数日後、権藤家を訪れた大国が、権藤彩音と丹波ユキ、それと栄前田椿を前に正座をしている。


「あのアパートの裏から何体もの遺体が出た。どの遺体も白骨化が進んでおり身元の確認が難航しているらしいが、行方不明になっていた者だろう。何体かは身体の一部が欠けているという。あの女……名切西鹿………名切麻未と名乗っていたようだが………う~ん………留置所でずっと歌ってるらしい。かごめかごめを」


 そう言った大国が彩音を見たが、彩音はどこ吹く風というように明後日の方を見ている。ユキが、「歌ってる? 取り調べは?」と言うと、


「ムリだろうな。どうにも5歳児程度の知能しかないらしく…………ハッキリ言ってしまえば、壊れた。特別に許可を貰って私があの女の頭の中を覗いたが………何といって良いか………まぁ5歳児だった。おかしな力もきれいさっぱり無かった」


 すると栄前田椿が、


「あの~~壁から出て来た黒い幽霊は………」

「それは彩音が消したらしい。そうなのだろう?」


 すると彩音が黙って頷いた。


「だったら、もうあのアパートに戻っても大丈夫ってことですか?」

「いや、あのアパートには住めない。多々羅町4丁目0番地は………けっして消す事の出来ぬ怨念が染み付いている。アパートは壊すしかなかろう」

「………怨念……ですか………あの~~その怨念について聞かせてもらう訳にはいきませんか?」

「そうか、聞きたいか。………栄前田椿さんもあのアパートに住んでいのだから知りたいのは当然か。彩音、お前は名切西鹿とやりあったのだから、もう知ったのだろう? 名切家と鶴岡家の因縁」

「ああ、見えた」

「そうか、見えたか………私もあの女の頭の中を覗き、随分と遠い過去………あの女が知るはずもない遠い過去までが見えた」


 それから大国が話した内容は、おそらくは当の名切西鹿や、兄の名切塚蟲も知らないだろうし、現在の鶴岡家の人達は誰も知らない。



「名切家はタブーを犯した者達の家だ。人類には三大タブーと呼ばれている禁忌がある。3っつの内の一つは殺人だ。2つ目が食人。3つ目が親近相関。名切西鹿と塚蟲の兄妹は父親の残間が60代の時に生れた子供だが、母親の北酉はまだ20代だった。随分と若い女を嫁に迎えたと誰もが驚いた。それも醜女ではなく結構な美人で初婚。残間も初婚だった。だが北酉は残間の娘だ。残間は自分の娘である北酉を孕ませ、塚蟲と西鹿を産ませたのだ。おそらくは北酉が幼い頃から父親とそういう関係だったのだろう。なら北酉は誰が産んだ、というと、残間には双子の妹がいた。クマという女だ。昔は最初に腹から出てきた方が弟や妹で、後から出てきたのが兄や姉だとされた。そして双子を産むのは畜生腹だと陰口を言われた。クマが生まれた後に出て来た残間。驚いた産婆。咄嗟に絞めようとした。間引きとか子返しと呼ばれる行為だが、それは死産だったということにするものだが、産婆は無かったことにするために絞めようとした。だが産婆が死に、残間が生き残った。赤子の泣き声を聞いて喜び集まってきた家族が目にしたものは、誰もが言葉を失う光景だった。残間は生れて来た時から要らない子だ。早々に貰われていった。まだ名前も付けられていないままで乳の出る女がいる家に。だが乳の出る女は直ぐに死に、戻された。そこで名前が付けられたが、残念の残ではなく懺悔の懺。それも一文字で懺という名前だ。懺は一文字で「悔い」という意味がある。生れてきたことを悔いろ、という意味だったのだろう。それが親族からの強い反対で残間となった。双子の妹クマだけが可愛がられた。だが5歳頃になるとクマの知能に障害があるのが分かり、クマも両親から嫌われ、親族からは「だから双子は……」と陰口を叩かれた。そして残間とクマは2人で過ごす時が長くなり10歳頃には互いの性器を弄る遊びに夢中になり、それがいつしか性行為になった。クマも残間も執拗にそれを求めた。家族の者がそれを知ったのはクマの腹が大きくなったことによるものだった。だが結果は死産。クマは座敷牢に閉じ込められたが、その牢から尻を突き出し残間との行為は続いた。そして妊娠する度に全部が死産だったが、ある時、家族が見たのは赤ん坊の遺体を貪り食っているクマと残間の姿だった。両親は自分の子供である双子の兄妹を恐れ、とことん忌み嫌い、戸籍から抜いて縁を切った。残間とクマが15の時だ。それから二人で暮らした兄妹だが、40代になって初めて生きた子を産んだ。生れたのが北酉だ。当時では相当な高齢出産で、肥立ちが悪かったクマは死んだ」


 大国の話はそこで終わった。栄前田椿と丹波ユキの二人は顔色を無くし、よほど気味が悪かったのか、二人で腕を組んでピッタリとくっついて正座をしている。

 暫く沈黙の後にユキが口を開いた。


「………なんか胸悪くなってきた……マジで……ゲロ………だけど鶴岡家との因縁って?」

「ん? そうか、ユキちゃんでも分からないか………残間とクマは鶴岡家の長男と長女だ」

「ええええええええええええええええ!!」


 丹波ユキと栄前田椿が同時に叫んでいた。


「鶴岡家では二人を戸籍から抜いて、鶴岡を名乗ることも許さなかった。名前を切る……だから名切。昔の役場はいい加減だ。鶴岡家が豪農で村の名士だったこともあるのだろう。新たに名切として戸籍を作った。鶴岡家では双子の後に兄弟が生れている。兄が太郎、弟が二郎。兄は真面目で働き者だった。だが弟の二郎は腐っていた。それでも嫁を貰って分家となったが、ヒグマを食って狂い、女を犯しては殺すを繰り返し、町の衆に焼き殺された。鶴岡家ではそれを異様に恐れた。双子の兄妹が呪いを掛けたのではないだろうかと。そして誰かにそそのかされた。鶴岡家は呪われてる。あの双子の兄妹の呪いが二郎をおかしくさせた。このままだと末代まで祟られる。おかしくなって殺された二郎の家が途絶えたのが何よりの証拠。その二郎が最初っから居なかった、生れてこなかったことにする必要がある。もうすぐ兄の太郎に二人目の子供ができる。男の子だ。その子を二郎と名付けるがいい、と、そそのかされた。現代でも同じだが、不幸が続き、精神的に参っていると寄ってくる輩がいる。藁をも掴む者は、悪意を持った輩であろうと縋ってしまう。実際に本家を継いだ太郎には長男の一郎という子供がいたが、なかなか次の子供が出来なかったのが、その予言めいた話を聞いてから嫁は直ぐに妊娠し、男の子を産んだ。それが不動産業を始めた鶴岡二郎だ」


「…………叔父と甥っ子が同じ名前なんだ……。でもその予言みたいな話をした人って………まさか」

「ああ、そこまでは私にも見えなかった。だが……名切北酉かもしれない」

「残間が妹を孕ませて生れたのが北酉。その娘である北酉を孕ませて生れたのが塚蟲と西鹿。っで西鹿は子供の頃から残間に犯され、塚蟲にも犯され、母親であり姉である北酉は笑ってそれを見てた。っで西鹿は親父を食って、母親も食って、兄も食った…………ねぇ、大国のおじさん、呪われてるのって鶴岡家じゃなく名切家の方じゃ………」

「ああ、そうだな。人を呪わば穴二つというのは真実だ。残間は、自分を切り捨てた鶴岡家を心底呪っていたのだろう。ヒグマを食って狂ったと言われている鶴岡二郎…………今となっては何が真実かなど分かりはしないが、残間が、自分の弟である二郎を呪ったのかもしれん。その呪いに掛かるだけの隙が二郎にはあった」

「だとすると………不動産業を始めた鶴岡二郎も……」

「ユキちゃん、それ以上は詮索しない方がいい。今も生きている人に近すぎる。だが名切家の人達は、互いに呪い、呪われた人の集まりだ。血が濃すぎるというこもあるのだろうが、異様な力を身につけた原因がそこにある」



 それからリバーサイドの住人のことに話が及んだ。301号室の東野凜、それと102号室の尾野苺の二人は、今も取り調べを受けていて、元リバーサイドの住人の何人かを殺し、遺体を損壊させ、そして隠蔽したことを認めているという。そして身体の一部ーーー心臓と、男であれば睾丸と亀頭、女であれば子宮と芯を食べたことも認めた。だが302号室の郷原夏江はリバーサイドに越してきてから数カ月のため、それら蛮行については関与していないようだが、取り調べを受けている中で、身の毛もよだつ殺人と食人についてを聞かされ、留置所で首を吊って死んだ。


 栄前田椿は無理を言って10日ほど権藤彩音の家にいる。


「ねぇ、権藤さん、かごめかごめっを使って呪いってできるものなの?」

「降霊にはきっと使える。でも押さえ込むためにも使えそうだ。あの土地には人型が埋めてあるだろうな」

「ふ~ん…………ねぇねぇねぇ………ユキちゃんから聞いたんだけどさ、権藤さんって処女じゃないってマジ? いつ? 誰とヤった? 私が知ってる人? もしかしたらアイツ?」


 すると見る見る顔を真っ赤にした彩音は、斜め上を見て、ゴニョゴニョと口籠っている。


「え? なに? なんて言った? ………あっ、逃げてった……」

「椿ねえちゃん、ダメだよ~。彩音ねえちゃんって純情可憐な乙女なんだから」

「ん? その喋り方は渚か? ………そっか、昨日がサチコだったもんね」

「うん、渚。ねぇ、算数の宿題で解んないとこあるんだけど、教えて~。………彩音ねえちゃんもユキねえちゃんも全然ダメだし」

「おお、いいぞ、私がバッチシ教えちゃる」


 栄前田椿の腕に城島渚がしがみつき、長い廊下を二人が楽し気に歩いて行った。

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