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作戦はこうだ。
アルフレッドが薬を飲んだふりをして俺の兄マイクに接触。以上。
その隙にマイクの隠し持っている帳簿を見つけ出す事。
不安しかないがこれ以上良い方法が思いつかないから仕方ない。
「教会にマイク様が足を運ぶ所は見た事がありません。恐らく父がパイプ役として出向いていたのでしょう。」
「帳簿があるとするならばマイク様がご自身で保管しているはずです。父や教会には自ら指揮する機能がありませんから。」
「何とかしてマイクを家から離したいものだな。」
恐らくマイクは自分の屋敷に帳簿を隠しているはずだ。俺達二人だけでは欺く事は難しい。トムとジャンに協力を仰いだらあっさり了承してくれた。
「しかし、いいのか?教会の事が明るみになれば君達のご両親も無事では済まないだろう。」
アルフレッドがトムとジャンを交互に見た。
「いいえ、私達は常にマイク様に怯えておりました。自身を護るばかりで周りが見えていなかった。」
「それに、私の屋敷の雰囲気は常にピリピリしていて、昔のような優しい家族に戻って欲しいと思っていたのです。それにしても…」
ジャンがぷくっと頬を膨らませながらこちらを見つめる。
「自分達も当然、クリスに付いて行くつもりだったのに頭数にすら入れられていなかったなんてショックだな。」
この二人、急激に個性を表し始めたな。
真面目なトムと少し子どもっぽいジャン。
いや、俺がモブだと決めつけていただけできっと元々こんな奴らだったんだ。
「ここにいるみんなには言っておかなければならない事がある。」
ややあって、俺が口を開くと三人はスッとこちらに耳を傾けた。
「アルフレッド様には既にお伝えしているけれど、俺はクリスじゃない。厳密に言えばクリスに前世の記憶がある。が正しいのかも知れない。」
昨日あの後、アルフレッドに転生者である事実を認めた。協力を頼むなら二人にも事情は説明すべきだとアルフレッドに言われたのだった。
「だからクリスがどんな奴だったかとか、家ではどんな態度を取っていたかとかが全く分からないんだ。」
トムとジャンは顔を見合わせた。
「納得がいったよ。君はまるで今までのクリスとは別人のようだったから。」
「気味がわるいって思わないのか?」
「実は解離性同一性障害になったのではないかと思い、事が落ち着いたら専門家を紹介しようと考えていたんだ。」
真面目だなトムは。
「前のクリスに挨拶できなかったのは残念だけど、君に救われたのは事実なんだ。だからそんな事思う訳ないだろう。」
ずっと抱え込んでいた悩みを共有できて、俺はつんと喉の奥が熱くなった。
「俺の前世ではこの世界はゲームなんだ。」
前世の出来事を三人にかいつまんで説明した。
「俺が悪役令息と呼ばれているのは気に食わんが大体の概要は同じという事だな。」
「自分は何の特徴もないモブだという事が悲しいです。」
「アルフレッド様が洗脳されていない事、教会の後ろ盾がマイク様だった事が大きな違いですね。」
正直なところマイクに関しては俺がゲームをプレイした訳ではないからよく分からない。
実は居たかもしれないが物語に影響の出ないレベルだったのかもしれない。
今となっては確認しようがないからどうしようもないのだ。
「自分の家なんだし、帳簿を俺が忍び込んで探すってのはどうかな?」
俺の提案にアルフレッドは首を振る。
「場所を知っているならまだしも、闇雲に探したところで怪しまれるだけだ。それに奴は隠蔽の魔法が得意だったと聞く。未熟者が手を出すには危険だ。」
はっきりと未熟者と言われ落ち込んだ。
「奴の帳簿に関してはこちらで何とかする。お前の最優先事項は、マイクにバレずに普段通り振る舞う事だ。」
そうだ。俺の最優先事項。
「トム、ジャン俺が兄上にどんな甘え方をしていたのか教えてくれ。」