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「…に操を立てても捨てられる事くらいはお前も理解しているだろう?」
「…。」
「だんまりか。」
はぁ。とアルフレッドがため息をつく。
「………」
「……」
声が遠のく。
誰か僕を助けて。
お願い…どうか…もう。
楽にして。
ーーーー
嫌な夢だったな。
あの瞬間のクリスの恐怖が自分自身とシンクロして指が震えている。
何故爵位持ちでもないクリスが取り巻きでいられるのか不思議だった。
もしかしたらあいつはただ面倒見が良くて、俺自身を可愛がってくれていて、周りと軋轢が生まれたから勘違いで悪役に仕立てられたのではないかと期待していた。
悪役と言われる問題を解決する事であわよくば自分も。なんて考えていた。
しかし自分がここにいるのは何かアルフレッドの求める情報を持っていたからに他ならない。
何をがっかりしてるんだ。
当たり前だろ。
「はあ…。」
足取りが重いまま登校の準備をした。
アルフレッドや前世の隣の席の女子の話を合算すると、中世ヨーロッパ風なこの国は魔法至上主義。
属性魔法というよりは魔法使いが杖を振るうものに近い。
辛い事悲しい事、嬉しい事楽しい事、全ての事象は魔法であり魔法で解決!
聖女として生まれたヒロインをそれはそれは丁重に扱っているようだ。
王家が元々魔力が強い者が生まれやすいという事もあり法律も全て王家が一括管理している。
現代っ子である俺からしたらそんな視野の狭い政治で大丈夫なのか?とは思うけどそれはゆるゲーあるあるの何でもありなんだろう。
三権分立なんて言い出したら粛正されるに違いない。
そして何となくだがアルフレッドはそれを良しとしていないようだった。
もしかして、そのせいで悪役呼ばわりなのかな。
この手のストーリーには珍しく異母兄弟といえど、血筋存続のために侯爵として国境警備をしており本人もこの部分に関しては納得しているそうだ。
全員と不仲になる=この世界に異議を唱えるだとするならば昨日の俺に対する発言も納得だし人気が出るキャラなのも頷ける。
この様子だと恐らくヒロインは第一王子ルートなんだろう。
「お前の話をしろ。」
突然アルフレッドに呼ばれた俺は今朝の夢の事もあって警戒する。
俺は昨日から考えていた言い訳を口にした。
「実は記憶がないのです。」
そう言うしかないよな。
「本当に別人なのか、ただ記憶を無くしただけなのかそれすら分からないのです。」
「ふーん?何も覚えていないのか。お前の友人や家族の事も。」
無言で頷く。
「俺の事もか?」
厳密に言えば前世の事もあるし、普通に生活できているし全く記憶にないからと誤魔化すのも無理がある。
冷や汗をかきながら目を泳がせ明らかに不審な態度を取ってしまっている。
「まあいいさ。少なくとも俺は前のお前よりは今の方が親しみやすい。前のお前は一言も話さず何がしたいのかよく分からなかったからな。」
「話さなかったのではなく、話せなかったんじゃないかな。」
「へぇ、お前はそう思うのか。」
焦る俺の顔を見て意地悪っぽく笑うアルフレッド。もしかしてこれは遊ばれてるのだろうか。
この王子、ムカつくが意外と親しみやすい。
「家ではどうしているんだ。流石に別人だとバレるんじゃないか。」
もう別人で決定なんだな。
「俺は普段から家族と顔を合わせませんし会話もそこまでなかったみたいなので今の所問題は起きていません。父と…家業を手伝っている兄が居ますが忙しいようで帰ってくる方が稀みたいです。」
実際、魔力が違うという話も認知できるのは余程力のある人間くらいで俺みたいな一般家庭に使えるわけがない。
その上優秀な兄が家業を手伝っているのだから俺なんておまけのモブなのだ。
多少話す機会があったところで気づかないだろう。
それともう一つこれだけは言っておかないと。
「あのっ、アルフレッド様。俺は同性愛者なので以前二人きりにならない方がいいとお伝えしていたようですが!!」
「そんな畏れ多い事は考えておりませんのでご安心ください!」
「因みに俺は筋肉質で日に焼けた爽やか系が好みです!!!」
これから断罪回避のために全く会話無しなんて無理だ。そのためにもコミュニケーションはしっかりしないとね。いや、最後のはいらなかったか?
いきなり何を言い出すんだという目で見ていたアルフレッドはプッと吹き出し涙目になりながら笑いが止まらない。
ひーひー言いながら
「そんな事気にしていたら今こうして話していないだろ。けどそうか、会話をしない理由が同性愛者だからだと思っていたんだな。」
それ以外何があるというのか。
よく分からないまま今日は解散となり俺は部屋を後にした。
「父と家業を手伝っている兄ね。」
と呟くアルフレッドに気づかないまま。