プロローグ
はあ、くだらねー。
いつもそうだった。
誰かが幸福の絶頂にいる時、その不幸を引き取るのは俺なのだ。
俺は運のない星の元に生まれた人間であると常に感じている。
映画館で自分が買った席にだけゴミが置いてあったり
不良品返品なんて日常茶飯事
使いづらい道具、くじ引きで当たるやりたくない委員会
日向の人気者達が幸運を享受している中、死ぬ程ではない、しかし損を掴まされる役割が俺なのだ。
先日席替えをした隣の席の女子は、一人だと物静かな癖に、人が集まるとスピーカーが最大ボリュームになったかのような声を出す。
だから今日も彼女がハマっているという乙女ゲームの話があまりにもくだらなくて、思わず声に出してしまったのだ。
CMでもよく見かけるそれは、運命の相手と結ばれたら魔力増加、愛の力で悪を挫く、実にチープなシナリオのようだった。
陽キャが考えそうなものだなと、斜に構えて聞いていた反面羨ましいと思っていた。
なぜなら愛の力なんて甘い関係構築は自分には叶うはずもない事だから。
そんなこんなで、またいつもの女子達が推しの話を大声でしているのだろう。
そう思ってため息混じりにつぶやいた言葉と共に目を開くと見知らぬ人達が信じられないと言った様子でこちらを見ていた。
いや、厳密には見知らぬ人ではない。
彼らは正にその乙女ゲームの登場人物だったのだ。
「お前、喋る事ができたのか。」
開口一番にそんな失礼な発言をするこの男。
こいつこそ攻略対象者の一人であり、隣の席の女子の一番の推しだった。
アルフレッドという名の黒髪とブルーグレーの瞳の彼は、攻略対象者でありながらも悪役令息であり実は王子の異母弟にあたる属性盛り盛りの所謂隠しキャラだった。
だから普段の彼はヒロインとメインキャラ達に嫌がらせをするポジションで、全員の好感度が低くなければフラグが発生しないらしい。
しかしこのゲーム、ちょっと挨拶しただけで好感度が爆上げする難易度ゆるゆるなゆるゲーであるため彼のルートは難しいのだそうだ。
盗み聞きの知識であるが。
丁度、今正にヒロインとメインヒーローの王子がこのアルフレッドに喧嘩を吹っかけている所だった。
そんなタイミングで人知れず転生が完了した俺。
発した言葉は不敬にも程があるので俺と同じくモブをしている取り巻きは青ざめた顔でこちらを見ていた。
そもそも平民と王子が一緒に通う学校って何だよ。魔法スキル次第でってこじつけがあるけど普通に危なくない?従者なしで?
いや、それよりも…
今の状況を何とかしなくては。
とりあえず…ひたすら謝って逃げよう。
「申し訳ございません。」
「何に対しての謝罪だ。」
「申し訳ございません。」
「謝って欲しい訳ではない。」
「申し訳ございません。」
「………。」
そんな俺の様子にアルフレッドは興を削がれたのか何について揉めていたのか分からないまま解散となった。
アルフレッドと取り巻き二人と共にその場を後にする。
自分の状況を整理しなくては。