黒い笑みを浮かべる者たち
「なるほど。それは随分とおもしろいことが起こっていたのですね。内心は怒り狂っていた王と、恥を掻いたうえにグワラニー様に利用されただけとなったコンシリア将軍がそのときはいったいどのような顔をしていたのか。その場に立ち会えず、それを実際にこの目で見ることができなかったことは残念でなりません」
グワラニーからそのいきさつを聞いた側近の男は、この場にいない者たちへの十分過ぎる皮肉を感想という形に変えた言葉でそう応じた。
だが、直後、男の表情が激変する。
「ですが、少々危ない橋を渡ったような気がしますが」
……危ない橋。
……元の世界から私が持ち込んだ言葉や表現が多くの場所で日常的に使われるようになっていることは知っているが、こうして直接それを耳にすることはやはり特別なものがあるな。
バイアが口にした言葉を聞き妙な感慨に浸るグワラニーだったが、もちろん側近の男が言外に主張したかったことは十分に理解している。
「将軍連中だけならともかくあの王の前で不用意な言動は避けなければならないという意見は私も同意する。だが、物事には絶対に逃してはいけない攻め時というものがある。そのような場合には危険を冒してでも進まなければならないのだ」
「今回がそのときだと?」
「そうだ」
言葉を一度切り、黒い笑みを浮かびなおしたグワラニーがもう一度口を開く。
「それに、たとえ怪しいと思っても明確な反意が確認できないかぎり今の王は私には手は出せない」
「なるほど」
グワラニーの言葉の意味を即座に理解した男はまず口にしたその短い肯定の言葉に続き、グワラニーが口にしなかった説明を自らに言い聞かせるようにつけ加える。
「たしかにコンシリア将軍と違い、王はグワラニー様の才を十分に理解していますので、この戦況で我が軍随一の知将を自らの手で葬ることはしないでしょうね。それは間違いなく自らの滅亡に直結するものなのですから」