32.糞姉捕獲作戦
「予定より早くないですか?」
「早い、というか早過ぎる……」
「それだけカレディス卿は焦っているのでしょうか?」
「だろうね」
王都では大々的に『聖人のゴブレット』の発見が取り沙汰されており、三ヵ月後に記念の式典が行われると発表された。
その際にバーミリオン様は枢機卿に昇進すると内々に通達があったため、カレディスは相当焦っている。
だが、そんな彼も式典までに聖女を発見できれば、バーミリオン様に並ぶことが出来るかもしれない。
更に教会側もこのタイミングで聖女を発見出来れば式典で登場させられる。故にカレディスのコルプシオン行きが早まったのだろう。
「日付はどうなっていますか、お父様?」
「五日後になっている。それまでにシーナが帰ってきてくれればいいんだが……」
「……となると、もう王都を立っているかもしれませんね」
「教会に連絡して日程をずらして貰うことは出来ないでしょうか?」
「だが、今から手紙を送っても向こうの出立に間に合わない」
確かに手紙なら確実に間に合わないが、今の我が家には最新の通信光具がある。
王都の教会なら連絡先も公表されているので、上手くすれば間に合うはずだ。
「お兄様、通信光具の出番ですわ」
「分かった。父上、教会宛の手紙をお願いできますか?」
分厚い登録台帳を捲り、王都の教会の連絡先を探す。
前世の電話帳ほど小さい文字ではないが、その分台帳自体が重くて仕方ない。
その内これも光具で検索できるようにならないだろうか?
「お兄様、こちらが教会の登録番号です」
「ありがとう、フェリ」
私が番号をみつけて直ぐに父も手紙を書き終え、兄が通信光具を使用する。
小さく光り手紙を読み取る光景を、父が珍しそうに見ている。
「ベルティールが以前話していた通信光具は便利だね」
「ええ、フリッツ様。これでお仕事が楽になりますわ」
「そうだね。シリウスとフェリには感謝しないとな。ありがとう、二人とも」
にこにこと嬉しそうに私達を見つめる父に、兄と二人で笑みを浮かべた。
だが、機嫌よく通信光具について語り合っていた私達に、教会からの返信は無情だった。
「既に発った後だとは……」
何故もっと余裕を持って連絡してこないのかと言いたい。
しかし居もしない相手に愚痴っても仕方なく、私達は対策を講じる。
「王都からここまでの滞在先が分かればそちらに通信を送ることが出来るのでは?」
「いや、基本的には教会に宿泊するそうだ」
王都にある教会とは違い、地方の教会に通信光具は置いていない。
あるのは大きな都市にある教会くらいだ。
「仕方ありません。こうなったらアレの帰郷を待つよりも、迎えに行った方が早いかもしれません」
昨日の時点で糞姉のお迎え係であるガスパルに動きがないのは確認済み。
ならば今から捕獲に向かえば十分に間に合う。
だが、糞姉がローリアから移動している可能性もある為、余裕は欲しい。
「私がシャーリーさんと共に捕獲に向かいます」
「フェリ、それなら俺が向かうよ」
「いいえ、お兄様。アレはお兄様のことを警戒しています。ですので、無害だと認識されている私が向かう方が良いでしょう」
いざとなれば一緒にいる男に泣き落としをする予定だ。
それに糞姉だってそろそろゲームの展開にしなければ拙いと分かっている筈である。
「シャーリーさんには申し訳ありませんが、少し休憩した後に向かいたいと思います。大丈夫でしょうか?」
「お任せください」
「フェリシア嬢、悪いけど僕も一緒に行くよ」
「ルドルフ様?」
「それと、アーサーとダルカンも連れて行く」
「しかし……」
ダルカンというのは護衛の男性のことで、要するに兄だけを置いて捕獲に向かうということだ。
「ルドルフ、アレは危険だよ」
「分かっている。でも、女性だけの旅は危険だし、僕が一緒ならいざと言う時にアンブローズ家の名が使える」
言いながら、早速ルドルフはアーサーさんに命じてローリアへの道中にある宿屋へと通信光具を使って予約を始めた。
その隣ではベルティールさんがローリアにあるホテルをピックアップしている。
こうなってはもう、ルドルフを止める術はない。
「俺だけ、置いてけぼりか……」
「お兄様はどうか、カレディス卿を迎え入れる準備と、糞姉対策をお願いします。アレが戻ってきたと知ったら、またアレの信望者の男共が屋敷の周りをうろつき兼ねません」
「分かった。対策しておく」
「では、荷物の整理をしたら早速向かいます」
「宜しく頼む。それからルドルフ、気を付けて」
「ああ。フェリシア嬢のことは任せてくれ」
その後、簡単に荷物の整理を済ませた後、直ぐにローリアに向けて出発することになった。
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