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30.父との再会



 道中、頻繁にリーズロッテ様から手紙が送られてくる事以外は、何とか予定通りの日程でコルプシオンへと進んでいた。

 あと数刻もすれば領都の関所が見えてくるはずだ。


「そろそろですよ」


 兄の言葉に、ルドルフとアーサーさんの視線が窓の外へと向けられる。

 車窓からは、見晴らしのいい草原の向こうに微かな石塀が見えた。


「へぇ、結構ちゃんとした関所があるんだね」

「姉が領都を出た際に必ず分かるようにする為です」

「………そ、そっか……」


 不本意だが、あの糞姉が出て行ったことを把握しておかないと面倒事が増えるのだ。

 ゆえに、関所だけはちゃんと作っているし、兵士も常勤している。


「シリウス様、フェリシア様。お帰りなさいませ。今回はお客様とご一緒ですか?」

「ただいま、ライト。客人は全員アンブローズ家の方々だ。名簿はここにあるから入街処理を頼む」

「了解致しました」

「ところで、アレは帰ってるか?」

「まだ戻っていません」

「分かった。では、アレがここを通り次第、至急知らせてくれ。それと、王都から教会の関係者が来た場合も頼む」


 教会関係者の具体的な家名を挙げて頼めば、門兵のライトは心得たように頷いた。

 さすがは長年糞姉対策をしてくれているライトである。頼りになる。


「“アレ”で通じるなんて凄いね……」

「彼は糞姉の被害者で、私や兄の同志ですので」

「ひ、被害者?」

「彼の父が糞姉に引っ掛かりまして……。妻子のある身でありながら貢ぐために莫大な借金を作った挙句、借金返済の為に子どもの彼を売ろうとしたんです」

「うわぁ……」

「幸い、たまたま話を聞いた兄が阻止したんですが、何故かそれに怒った彼の父が包丁を持って暴れる事態になり、結局は捕まりました」


 嘆くだけだった彼の母もその件で目が覚めたのか、直ぐに離婚を決意。

 当然、領主である父は速攻で離婚届を受理し、彼ら母子に糞姉が迷惑をかけたお詫びをしたのだ。

 彼らには恨まれても当然だと思っていたが、むしろ糞姉の被害者として彼ら親子は私達にも同情してくれた。


「我が家に出入りしている関係者はそういう方が多いですよ。むしろ姉に心酔しているような人間は遠ざけています」


 コルプシオン領内においての我が家の評判はそこまで悪くない。

 最初は糞姉のせいで迷惑を掛けられた人々や商人から散々悪評をばら撒かれたが、どれだけ借金をしても税金は上げなかったし、糞姉のせいで謝罪行脚している姿も見られている。

 お蔭で、領民は同情的で、時々食べ物を分けてくれる人もいる。

 平民に食料を分けて貰う領主というのは情けない限りだが、糞姉と我が家は別だと考えてくれる人も多い。

 反面、家族として糞姉をどうにかしろと思っている人も大勢いる。特に旦那や恋人を寝取られた女性、そして財産を絞り取られた男の家族が多い。

 恨まれるのも当然だと思っているが、こちらとしても姉の美貌目当てに自分から被害に遭いに来る人を止められないのが実情だ。

 性格が悪いと言われようとも、こちらに糞姉を止めろと言うなら、そちらも糞姉に誑かされないように恋人や家族を止めるべきだと思う。


「さて、そろそろ我が家が見えてくると思います」


 民家の密集する道を進み、町外れの我が家を目指す。

 見慣れた町並みの先、田園の広がる土地の向こうに懐かしい我が家が見えてきた。

 思わず窓から身を乗り出すと、屋敷の前に佇む人影が見える。


「お父様!」


 細長いシルエットに手を振れば、父が嬉しそうに手を振るのが見えた。

 そんな父の隣には見慣れない女性が立っており、その後ろにはお仕着せを着た女性達の姿が見える。

 恐らくアンブローズ侯爵様が送ってくれた文官様とメイドさん達だろう。


「良かった!元気そうだわ!」


 私達が王都に行く前よりも父の顔色が良い。

 どうやらちゃんと食べて元気にしていてくれたようだ。


「シリウス!フェリシア!」

「父上!ただいま戻りました!」


 いつもは大人びている兄が満面の笑顔で私と同じように手を振っている。

 その横で私だって負けじと手を振った。

 子どもっぽいと思われようと構わない。私も兄も父が大好きなのだ。


「二人ともおかえり」

「ただいま!」


 馬車が停まるなり飛び出した私達を、父が満面の笑顔で迎え入れてくれる。

 それが嬉しくて、私も兄も父に抱きついた。


「元気そうで安心したよ、二人とも」

「それはこちらの台詞ですわ、お父様。王都に行く前よりもお元気そうで安心致しました」

「元気そうに見えるなら、それは彼女のお陰だよ」


 言いながら父が隣に視線を向けると、私達の様子を静かに見守っていた女性が小さく胸に手を当てた。


「アンブローズ家より派遣されてきました、ベルティール・オラールと申します。どうぞベルティールとお呼びください」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。コルプシオン家の長男シリウスと申します。こっちが妹のフェリシアです」

「初めましてベルティール様、フェリシアと申します。私達が不在の間、父を支えていただき本当にありがとうございます」

「礼には及びませんわ。私は仕事をしただけですから」

「いやいや、ベルティールが来てから本当に仕事が楽になったんだよ。それに食事の用意も彼女がしてくれて、本当に助かってるんだ」

「まぁ、お食事まで!」

「フリッツ様は仕事に夢中になると直ぐにお忘れになるのでお節介かとは思ったのですが……」

「いや、本当に助かったよ、ありがとうベルティール」


 そう言ってニコニコと微笑みあう二人。

 気のせいでなければ、妙に甘い雰囲気を醸し出している気がする。

 ちなみにフリッツというのは父の名前で、お互いに名前で呼び合っているということは、この短期間でかなり親しくなっているという事だ。

 母が亡くなって苦節6年。もしかして、ついに父にも第二の春が訪れたのだろうか?

 そんな思いで後ろに控えていたばあやに視線を向けると、ばあやはとてもいい笑顔で頷いた。

 どうやら、そういう事らしい。


「ところで二人とも、そろそろ後ろの方を紹介してくれないかい?」

「そ、そうでした父上。すみません」


 父の元気そうな様子にテンションが上がり、私も兄もすっかりルドルフのことが頭から抜け落ちていた。


「父上、ご紹介します。こちらはアンブローズ家のご子息ルドルフ殿です」

「初めましてコルプシオン卿。ルドルフ・アンブローズと申します。僕のことはどうかルドルフとお呼びください」

「ルドルフ殿、遠路遥々ようこそお出でくださいました。いつも息子と娘が大変お世話になっております」

「世話になっているのはこちらの方ですよ。二人のような良き友人に出会えたことを日々神に感謝しています。今回は僕の我儘で滞在を許可して下さりありがとうございます。父や兄ほど頼りにはなりませんが、シーナ嬢の件では少しでもお力になれたらと思っております」

「ご協力感謝申しあげます。何もない田舎ですが、どうぞごゆっくりお過ごしください。ただし、子ども達からお聞きの通り、長女のシーナには気を付けてくださいね」

「心得ました」


 その後はアーサーさんや護衛の方の紹介をして、お互いの近況を話す為に屋敷へと入った。

 そして屋敷に入った瞬間、私と兄は茫然と玄関で立ち尽くす羽目に陥った。




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