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27.領地へ行く、……その前に

連載再開にあたり、タブロイ兄弟の長男と三男の名前を変更いたしました。

アドルフ→カール

アレクシス→ブルーノ

ルドルフと名前が似ていることと、アで始まるのが多すぎて分かり辛いという意見を頂いたので。

ちなみに今回の話には出てきません。



 嫌な予感とは得てして当たるもので、結局領地へはかなりの大人数で行くことになってしまった。

 話していたルドルフだけでなく、やはりリーズロッテ様も一緒に来ることになったからだ。

 もはや我が家の専属となってしまっているアーサーさんの他、アンブローズ家から四人の護衛と侍女さんが二名同行している。

 御者を含めると、なんと全部で十六名という大所帯だ。


「今回の付き添いは女性の護衛を揃えてみたよ」


 ルドルフの宣言通り、護衛四名中三人が女性騎士だ。アンブローズ家の皆様は姉の生態をよく理解してくれている。

 ちなみに現在領で兄の代わりに父の補佐をしてくれている文官さんも実は女性だ。

 私達の話を聞いたアンブローズ侯爵様が男性文官は危険と判断し、女性文官を派遣してくれたのだ。

 案の定、糞姉は新しく雇った文官が女性と知った瞬間見向きもしなくなったとか。


「リズお姉様、本当に良かったのですか?まだヒースとの婚約話も決着が付いてないのに……」

「むしろ、決着が付いてないからこそよ!本当にムカつくわ、あの男!何がただの遊びよ!気の迷いよ!絶対によりなんか戻さないんだから!」


 最初は浮気を否定していたヒースだったが、証人が複数人居たと言う事実をどうしても覆すことが出来ず、最後は不貞を認めた。

 だが、不貞は一時の遊びで、もう二度としないとリーズロッテ様に縋ったのだ。

 あちらのご両親もどうかやり直しの機会を与えて欲しいということで、婚約破棄したいアンブローズ侯爵家との話し合いは平行線を辿っている。


「今回の不貞分の慰謝料は払うから見逃して欲しいって図々しいのよ!」

「全くですよね」


 現在リーズロッテ様に縋り付く勢いで、毎日謝罪にやってくるヒース。

 屋敷に居たくないという彼女の気持ちもわかる。

 だがやはり、それとこれとは話が別で、十人を超える人間を屋敷に招待することを考えると気が重い。


「フェリシア嬢、先発部隊として既にメイドも数人送っているから大丈夫だよ。報告じゃそこまでお屋敷も傷んでないって聞いてるし、僕も姉様も贅沢は言わない方だし……」

「それは理解しております」


 用意のいいことに、先発隊として領地へは四人の下働きメイドを送り込んでくれていた。主に掃除や客室の準備のために侯爵様が派遣して下さったのだ。

 今頃、大慌ての父と共に屋敷を整えてくれているだろう。

 ちなみに、彼女らは暫くそのまま屋敷に残り、女神の宝玉を持ってやってくる筈のトラスト・カレディスを迎える。

 糞姉には、高位の神官様を迎える為に急遽雇ったと言うつもりである。


「準備万端過ぎて怖いわ……。ルドルフ様、本当に無償で宜しいのですか?」

「さすがにここまでして頂くのは恐縮なのですが……」


 兄と二人、余りの用意周到ぶりに戦々恐々とする。

 侯爵子息と令嬢を迎え入れる準備としては当然なのかもしれないが、そこまでして我が家に来るメリットがないと思うのだ。


「二人とも、そんなに困った顔しないでよ」

「ルドルフ様……」

「うちとしてはそこまでの出費ではないし、まぁ、先行投資みたいなものだよ」

「先行投資ですか?」

「そう。多分父はコルプシオン家を自分の派閥に入れたいんだと思う。だって、何処にも入ってないよね?」

「はい。我が家は今のところ中立派ですね」


 前世の政治党のように、貴族社会にも派閥は存在する。

 派閥は大きく分けて四つ。

 王家派、教会派、貴族派、そして我が家のようにどこにも属さない中立派だ。

 文字通り、王家を中心とした派閥が王家派で、現王妃の生家である公爵家が中心となっている派閥である。

 アンブローズ家はこの王家派に所属している。

 そして信仰心が強く、あくまでも国は神から預かっているとする派閥が教会派で、教皇や司祭を多く排出している貴族家がここの所属だ。トラストの実家であるカレディス伯爵家やそこの寄り親であるリックス侯爵家がここの派閥となる。

 そして残るのが貴族派で、王権一極主義ではない貴族を総称してそう呼ぶ。議会制度などをもっと多く取り入れたいと思っている派閥だ。

 ちなみに我が家のような中立派も少なくない。地方貴族は総じて中立を保っており、三家ある辺境伯も中立派である。


「辺境伯ならいざ知らず、我が家のような木っ端貴族を派閥に入れても利点はないと思いますが」

「でも、コルプシオン男爵はヘルグレード辺境伯と懇意だと聞いたよ?」

「確かにヘルグレード伯とは懇意にさせて頂いておりました。以前は……」

「以前は?」

「……糞姉がやらかした所為で、現在は疎遠になっております」


 ヘルグレード辺境伯と父は同じ年の学友だった。

 ゆえに、以前はよく王都に向かう途中などに我が家へも寄って下さっていたのだ。

 しかし、あの糞姉が辺境伯に色目を使ったことから、辺境伯とは疎遠になってしまった。

 当時十三歳だった糞姉は、あろうことか、我が家に泊まられた辺境伯に夜這いをかけたのである。

 三十代前半の鍛えられた筋肉が眩しい美丈夫だった辺境伯。たまにはガチムチもいいと思ったというのが、辺境伯に捕まった姉の言い分だった。

 それ以来、辺境伯が我が家に立ち寄ることはなくなった。父は糞姉のせいで学園時代からの友人を失う羽目になったのである。


「領が隣接しているので完全に疎遠になった訳ではありませんが、今は仕事上の付き合いしか無いと聞いております」

「うわぁ……」


 事情を説明した瞬間、頭を抱えたルドルフ。

 辺境伯への繋ぎを取りたいという目論みが外れて申し訳ない。


「ご期待に沿えず申し訳ないです」

「いや、それはいいんだ。ただ、君たちのお姉さんの話に思わずドン引きしたというか……。だって、辺境伯って君たちの父君と同じ年なんだよね?」

「ええ、間違いなく同じ年です」

「つまりアレは、自分の父の友人に十三歳にして夜這いをかけた阿婆擦れという訳です」

「す、凄い方なのね」


 私達の話を何となく聞いていた使用人の方たちも一斉に顔を歪めている。

 身内の恥だが、今から行く領には、そんな女がいると事前に知っていて欲しい。


「う~ん、これは本当に覚悟を持って挑まないといけないね」

「断言してもいいですが、その覚悟は姉を見た瞬間、一瞬で砕けると思います。そしてそれを修復出来るかが課題です」

「ちなみにフェリちゃん、女性の私も覚悟した方がいいのかしら?」

「はい。リズお姉様も、護衛や侍女の方々も覚悟をお願い致します。色恋に発展することはないですが、糞姉は拝みたくなるほど美しいです」

「拝みたくなるほど……」

「まさに女神が実在したらこんな感じ……という容姿をしています。本当に外見だけはいいんです、外見だけは……」


 だから初見でみんな騙される。

 どれだけ悪辣だと聞いていても騙される。


「ちなみにこの中で一番危険なのはアーサーさんです」

「わ、私ですか?!」

「年齢的にも容姿的にも一番姉の好みだと思います。お気を付け下さい」


 ちなみに、今回唯一の護衛の男性はそこそこの年齢だ。

 鍛え上げられた肉体は姉の好みかもしれないが、容姿的にも年齢的にも一番危険なのはアーサーさんとなるだろう。

 まぁ、出来るだけ被害が行かないように、私はさっさとトラスト・カレディスを生贄にするつもりである。だが、自ら生贄に行かれるとフォロー出来ないし、万が一にも私達の企みが姉にバレることはどうしても防ぎたい。


「アーサーさん、王都に残る気は?」

「ありません!私はフェリシア様付きとしての職務を全うするつもりです!」

「そ、そうですか……。では姉には絶対に気をつけてくださいね」

「はい。肝に銘じておきます」


 はっきり私付きだと断言したアーサーさん。

 一体いつから私専属とか、野暮なことは言うまい。だって、ずっとそんな気がしていたから。

 しかし、普通は兄付きじゃないのだろうか?


「じゃあ、準備も整ったみたいだし、そろそろ出発しようか」

「ええ。では皆様、宜しくお願いします」


 そうして、いざ出発しようとしたのだが、今度は馬車の割り当てで揉めに揉めた。

 私達と一緒の馬車がいいとルドルフとリーズロッテ様がごねたからだ。だが、私達四人が同車すると、侍女さんが乗り込めない。

 しかし結局、侍女さんの手伝いは不要という話でまとまり、私達兄妹とアンブローズ姉弟が同じ馬車に乗り、アーサーさんや侍女の方々はもう一台の馬車になった。

 女性二人と馬車に押し込まれる形となったアーサーさんが若干困った顔をしていたのが印象的だった。

 ちなみに護衛の四人は騎馬で向かい、馬車は荷車を含めて計五台となっている。


「さて、そろそろ出発しましょう」


 兄の声で、私達は一番豪華な馬車に乗り込む。

 当然、リーズロッテ様のエスコートは兄がしていて、リーズロッテ様はニコニコと嬉しそうだ。

 だが、そんな上機嫌なリーズロッテ様の笑顔に水を差す声が辺りに響いた。


「リズ!その男とどこへ行くつもりだ!君こそ、浮気じゃないのか?!」

「……ヒース?」


 今日も今日とて謝罪の日参にやってきたヒースが、兄に手を引かれているリーズロッテ様を見て、弾けるように馬車から飛び出してきた。

 あの男が来ないうちに出発する予定だったのに、思いのほか馬車割りに時間を食っていたらしい。


「その男は先日も君と一緒にいた男だな!君こそ浮気していたんだろ?!」

「貴方と一緒にしないでいただけます?私達はお友達ですわ」

「嘘だ!」

「貴方の目には、弟のルドルフやフェリちゃんの姿も見えないのかしら?」


 冷たい冷たいリーズロッテ様の視線と言葉に、漸く私やルドルフの存在に気付いたヒース。

 だがそれでも、彼の怒りは収まらない。


「彼らが何だと言うんだ?!むしろルドルフがいるなら彼がエスコートするべきだろう!」

「何が言いたいんですの?私は馬車に乗り込む際は必ず家族にエスコートして貰わなければいけませんの?」

「それは……」

「近くにいた男性に段差のある馬車へのエスコートをお願いした私と、女性の腰に手を回して口付けまでしていた貴方を一緒にしないで貰えるかしら」


 軽蔑の眼差しと共にリーズロッテ様が断言すると、ヒースは何も言えずに押し黙った。

 微妙な雰囲気が辺りに漂う。


「ヒース殿、いい加減現実を見ませんか?」

「ルドルフ殿……」

「どれだけ日参して謝罪されようと姉の心が変わることはありませんし、当家としてもこの婚約を無理に継続する意思はありません」

「……本当にもう駄目なのだろうか?」

「ええ、私の中から貴方と過ごす未来はなくなりました」

「そう…か……」


 何の躊躇もなく告げたリーズロッテ様に、ヒースが俯いた。

 断言するリーズロッテ様に対し、それ以上の言葉は出てこないようだ。

 彼も漸く取り返しがつかないことをしてしまったと、分かり始めたのかもしれない。


「リーズロッテ、いい機会だ。今からヒース殿とちゃんと話をして決着をつけなさい」

「お兄様?」

「クリス様……」


 振り向くと、玄関先での騒動に気付いた長兄のクリス様が立っていた。

 そして、侍女達に指示して、リーズロッテ様の荷物を馬車から取り出し始めたのだ。


「お兄様?!嫌ですわ!私はこれからコルプシオンに行くのです!」

「遊びに行くのは今度にしなさい。元から、大人数で行くのは迷惑だと言っていただろ?」

「でも……っ」

「今回はヒース殿との話し合いが優先だ。それにお前だって遊びに行くなら身が軽くなってからの方がいいだろ」

「……それはそうですが」


 ヒースと婚約した状態で兄と過ごすのは危険だと暗に言われている。

 そして、私達の方としても人数が減るのはありがたいし、出来ればリーズロッテ様には糞姉を処分した後、憂いのなくなったコルプシオンに遊びに来て頂きたい。


「リズお姉様、是非、ヒース様とのお話し合いを優先してくださいませ。我が家へはもう少し落ち着いてからの方が良いと思いますわ」

「フェリちゃんまで……」

「次の長期休暇までにはリズお姉様に気兼ねなく遊びに来て頂けるように我が家も整えておきますわ。ねぇ、お兄様」

「ええ、何もない田舎ですが、景色は良いところも多いのでご案内させて頂きます」

「シリウス様……」


 兄に言われ、少し考え込むように目を伏せたリーズロッテ様は、小さくため息を吐くと諦めたように屋敷へと踵を返した。


「ヒース様、婚約破棄に関しての前向きな話が出来るのであれば話し合いに応じます。ですが、許して欲しいとオウムのように口にするだけの無駄な時間をお求めならば、今すぐお帰り下さい」


 折角の旅行を邪魔されたリーズロッテ様の言葉には容赦が無かった。

 ヒースを見つめる視線も、絶対零度の冷たさを醸し出している。


「どうされますか?」

「……話し合いを……」


 婚約破棄に向けての話し合いとは言わなかったが、ヒースもどうやら漸く観念したようだった。

 侍従と共に、力ない足取りで屋敷へと入って行く。

 そんな彼を睨みつけながら、リーズロッテ様はクリス様と共に屋敷へと戻っていった。


「リズお姉様、お土産買ってきますね」


 そう声を掛けると、酷く残念そうなリーズロッテ様がこちらを振り返る。


「早く帰ってきてね。絶対よ!」

「はい」


 帰ってきてというリーズロッテ様の言葉に少しだけ笑みが漏れた。

 むしろこれから実家に帰るというのに、何とも不思議な感覚だ。


「では、少しだけ荷物の整理をして出発しようか」

「そうですね」


 リーズロッテ様が残ることになった為、侍女二名と女性護衛騎士の二名が外れることになった。侍女の方は私の為に残ると言ってくれたのだが、自分のことは自分で出来るため、今回は遠慮して貰う。

 人数が減った為、アーサーさんがリーズロッテ様の代わりに私達の馬車に乗り込み、荷物を詰めることで、当初予定していた五台から三台へと馬車も減らすことが出来た。

 やなり女性五名分の荷物はそれだけ多いということだ。 


「それでは、今度こそ出発だ」


少なくなった荷物に少しだけ安堵しながら、漸く私達は侯爵邸を出発することが出来たのである。


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― 新着の感想 ―
再開ありがとうございます!ブックマーク外さないで待っていてよかった… いよいよ姉登場までカウントダウン。楽しみです。
再開嬉しいです! 楽しみにしてました
再開ありがとうございます。 待ってましたヾ(•´∇`•)ノ ワ~イ
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