第8話
俺の名前は、ルーカス・グレイ。
グレイ伯爵家の次男として生まれた俺は、何不自由なく育てられてきた。
どうやら俺は幼い事から容姿が整っているようで、常に周囲からちやほやされながら育ってきた。
しかし、グレイ家は兄のマルクス兄さんが継ぐ事が生まれながらにして決まっていたため、次男の俺は政略結婚という形で家に貢献する事が役目であった。
それ故、まだ幼少ながらも決められた許嫁が出来る。
相手の名は、セイラ・ロレーヌ。
グレイ伯爵家より爵位の高い、ロレーヌ公爵家の一人娘。
普通に考えれば、いくら貴族でも早すぎる話だ。
しかし、まだ幼い俺はまだどこか客観的に考えており、ただ親に言われた通りにするだけだった。
そんなわけで俺は、その許嫁となったお相手の女の子と一度会う事になったのである――。
◇
連れられてきたのは、自分の家より立派な豪邸だった。
それは建物だけでなく、広い敷地に賑わう領地。
正直、何から何までグレイ家とは比べ物にならなかった。
そんな光景を前に、俺は幼いながらも理解してしまう。
これから会うであろう相手との関係構築は、自分の家にとってとても重要な事であると――。
何ならこれは、自分の家を継ぐ事以上に……。
大きな扉を開けた先に待っていたのは、沢山の使用人を従えた男の人と、自分と同年代ぐらいの女の子。
俺は一目見て、目の前の彼女こそが自分の許嫁相手である事を悟る。
絹のように綺麗な銀髪に、透き通るような白い肌。
宝石のように美しい碧眼の大きな瞳が、感情を感じさせないまま俺の事をじっと見つめてくる。
俺はそんな彼女の姿を前に、目を離せなくなってしまう。
そのあまりに美しすぎる容姿は、最早この世のものではないようにすら思えてしまう――。
「ルーカス。あちらのお嬢様が、お前の許嫁相手のセイラ様だ。ご挨拶をなさい」
お父様が、そう指示してくる。
――そうか、セイラ様っていうんだ。
――こんな美しい存在が、未来の自分のお嫁さんなんだ……。
恐らく世界中を探し回ったとしても、こんなに美しい存在は他にいないだろう。
そう思える程、これまで周囲からちやほやされ続けてきたルーカスをもってして納得してしまう。
そしてこれは、自分だけの話ではない。
彼女と上手くやる事は、家の為にもなるのだ。
まだ幼いながらも俺は、まるで全てを手に入れたような気分になった。
そんな喜びと義務感を抱きながら、彼女に嫌われないようニッコリと満面の笑みを浮かべながら挨拶をする。
「初めまして、ルーカス・グレイと申します。よろしくお願いいたします」
何度も教わってきた、貴族としての振舞い。
今の挨拶には、何も問題はなかったはずだ。
……しかし、セイラ様は俺に一切興味を示す事なく、もう用は済んだとばかりにこの場から立ち去ってしまう。
「はっはっは、セイラも照れているのだろう。歳も同じなんだし、子供同士その辺で遊んできなさい」
そんな不愛想なセイラ様を見て、セイラ様のお父様は笑っている。
いつもなら、俺が笑いかければ大抵の女の子はそれだけで顔を赤らめつつ喜んでくれたのに……。
だからこそ、今のような反応は初めてでとても新鮮だった。
余計にセイラ様への興味を抱いてしまった俺は、言われた通りセイラ様の後を追う事にした。
必ずあの子を、振り向かせてみせるという強い意志を抱きながら――。
しかし、このあと俺は知る事となる。
セイラ・ロレーヌというまだ幼い一人の少女に秘められた、暗い暗い闇の部分を――――。
ということで、第二章のルーカス視点へ突入です。
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