第7話
次の日から、私はライリーさんとよく会話をするようになりました。
最初は私から話しかける一方だったのですが、徐々にライリーさんの方からも話しかけてくれるようになりました。
貴族と平民など関係なく、等身大に向き合っていただけるだけで私は嬉しく感じてしまう。
これまでずっと人を遠ざけ続けてきた私が、まさか人から話しかけられる事に喜びを感じる日がくるなんて……。
それだけ、私にとってライリーさんという存在はとても新鮮で、今ではこの学校における唯一安心できる存在となっていました。
そんな日々が続いていく中で、周囲の様子も変わってきていました。
入学して以降、ずっと我儘の限りを尽くしてきたこの私が大人しくなったうえ、休み時間には普通にクラスメイトと談笑しているのです。
そんな豹変してしまった私に対して、クラスの皆さんはとても驚いているのが分かります。
それは、私の思惑通りの結果。
あの小説のヒロインように、まるで悪役令嬢だった私の変化は周囲を驚かせるのに十分過ぎたようです。
――でももう、正直そんな事はどうでもいい。
最初は面白そうだと思い立って始めた事で、想定通りの結果にもなった。
けれど私は、気が付けばそんな事はもう心底どうでもよくなっていました。
私にとって、張りぼての存在。
そんな彼らの反応よりも、今の私にとってはライリーさんとお話している時間の方がよっぽど価値があるのですから――。
ですから、強欲な私は現状に飽き足らずに、もう一歩踏み出してみる事にしました。
「――あの、ライリーさん。もし良ければ、途中まで一緒に帰りませんか?」
もっとライリーさんの事を知りたい――。
そう思った私は、勇気を出して一緒に帰ろうと誘ってみたのです。
これまで私は、周囲から一方的に誘われる事しかありませんでした。
だから、こうして誰かを誘う事なんて人生で初めての事かもしれません。
まさか人を誘う事が、こんなにも勇気の要る事だなんて知りませんでした。
――それに、たかが人をお誘いするだけで、こんなにも頬が熱くなってしまうだなんて……。
恥ずかしさや、断られる事への不安。
そして、期待と高揚――様々な感情が胸の内で駆け巡る。
それはやっぱり、これまでの人生で感じた事の無い感情ばかりでした。
まさかこの私が、こんなにも感情をかき乱す事があるなんて、自分でも驚く程です――。
「ん? ああ、いいよ。じゃあ、一緒に帰ろうか」
私のお誘いに対して、ライリーさんは二つ返事で快く受け入れてくれました。
その言葉を受けて、私はまた新たな気付きを得る。
――人に受け入れられる事って、こんなにも嬉しいことだったんだ……。
知らなかった――。
込み上げる嬉しさは、自然と笑みとして零れてしまう。
ただ一緒に帰るだけの事が、まさかこんなにも嬉しい事だなんて思いもしなかった。
しかし、そう喜んでいられるのも束の間の事でした――。
何故なら、たった今一緒に帰宅する事になった私達に向かって、声をかけてくる人物が現れたからです。
「――ちょっと、待てよ」
その声は、私のよく知る人物の声――。
振り向くとそこには、元許嫁であるルーカスさんが立っておりました――。
これにて、セイラsideは終了です。
次回から、ルーカスsideのお話になります。
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