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第5話

 次の日、私はいつも通り学校へ向かう。

 しかし、いつもなら使用人達に身支度を手伝わせるところ、今日は自ら全ての身支度を終えました。


 既に私が支度を終えていることに気付いた使用人達は、目を丸くして驚いておりました。

 無理もありません、生まれてこの方一度も自分で身支度などした事のなかった私です。

 たかが服を着て、身嗜みを整え、教科書を鞄に詰めるだけのこと。

 それでも、使用人達を驚かせるには十分だったのです。


 ――たったこれだけの事でこの驚きです。これは楽しみですわね。


 私は内心で、そんな周囲の変化に満足しておりました。

 しかし、この急な変化は使用人達を勘違いさせてしまったようです。


「セ、セイラお嬢様!? わ、わたくし達に何か至らない点でもございましたでしょうか!?」

「そんな事はないわ。いつもお世話してくださってありがとう」


 狼狽する使用人達。

 誤解を解くため、私は微笑んで感謝を伝えると、全員またしても目を丸くして驚いたのも束の間、中には涙しながら感謝する者までおりました。


 そんな使用人の姿を見て、私は少し心を痛めました。

 これまでどれだけ我儘を言っても何も思わなかったというのに、我ながら不思議なものです。

 今回のお遊びに限らず、これからはもう少し優しく接してあげようという気持ちが芽生えました。


 そんな私は、今日も学校へとやってきました。

 いつもの教室、そしていつものクラスメイト。

 しかしこの教室内で、私に挨拶をしてくれるような物好きは一人もおりません。


 私はこの教室において、居ても居なくてもどちらでもいい空気のような存在。

 だから、クラスメイトの隣を通り過ぎても当然会話などありません。


 それがたとえ、かつての許嫁相手であるルーカスさんだとしても――。


 何の運命か、ルーカスさんも学園ではなくここ魔法学校への進学を選んでいたのです。

 中等部でのあの一件以降、一言も言葉を交わしていない相手です。

 お互いに――いえ、少なくとも私は、ルーカスさんも魔法学校へ進学していた事なんて知りませんでした。


 だから入学式の時、同じ学校にルーカスさんの姿を見た時は驚きました。

 けれど、それだけです。

 私達は、今ではお互いに赤の他人。

 まさか二年に上がり同じクラスになろうとも、お互いに干渉し合う事なんて一切ございません。


 だから今朝も、彼は私の事なんて一切視界に入れる事無く、今日も朝からクラスメイトの皆さんと楽しそうにお喋りをしている。


 ちなみに、見た目も性格も良い彼は、クラスを飛び越えて学年でも中心的な人物の一人として、広く皆さんに知られている存在です。

 そんな彼の元には、以前の私のように常に人が自然と集まってきており、今も同じく学年の中心的な人達と集まって楽しそうにお喋りをしています。


 そんな、今日も賑わう教室内の光景を横目で見ながら、私は一人席に座り鞄を開ける。

 いつもなら、こういう隙間時間に読書をするのだけれど、生憎今日のために買った本は昨晩読み終えてしまったのだ。


 ――そうでしたわ。今日は読む物がありませんでしたわね。


 私は内心でガッカリしながら、気が進まないながらも教科書を開いて予習する事にしました。

 昨晩読んだ物語の事を思い出しながら――。


 ドカッ。


 すると、一人の男の子が少し乱暴に隣の席へ着席する。

 不幸にも、こんな我儘な私の隣の席になってしまった哀れな男の子が、始業ギリギリの時間に登校してきたのです。


 そして次の瞬間、私は自分の耳を疑ってしまう事になる――。



「――はよ」



 着席早々に机にうつ伏せになりながらも、なんと彼は目の合った私に対して朝の挨拶をしてくれたのです――。


 その声は、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量だったものの、確かに私へ向けられて発せられた言葉でした。


 彼の名前はたしか、ライリー・エバンズ。

 特にぱっとしたところの無い、平民の出の男の子。


 彼は授業中いつも寝ていて、他人に興味が無いのか私と同じく一人で居る事が多い、私が言うのもなんだけれど変わった人という印象。


 でもそんな彼が、私に対して朝の挨拶をしてきた事は正直意外でした。

 もしかしたら、彼は過去にもこうして私に挨拶をしていてくれたのかもしれない。

 けれど、周囲に対して壁を作っていた昨日までの私には、残念ながら一度たりとも届いてはいなかったようです。


 でも私は、今日から変わる事を心に決めているのです。

 だからその罪滅ぼしも兼ねて、私はライリーさんに向かって挨拶を返すことにしました。




「――おはようございます、ライリーさん」




 貴族として身に沁みついている作り笑いを浮かべながら、私はライリーさんへ完璧な挨拶を返す。

 すると、机にうつ伏せになっていたライリーさんは急に顔を上げたかと思うと、驚いた表情をこちらへ向けてくるのでした。


 その分かり易過ぎる反応は少し可笑しくて、満足した私は変わらず彼に笑みを向け続ける。

 気付けばその笑みは、先程の作り笑いとは違い、本心からくる笑みに変わっているのでした。



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