第4話
その日の夜。
どうしても今日買った小説の内容が気になった私は、学校で読む用だけれど少しだけ読んでみる事にしました。
しかし、その判断が過ちでした……。
少しだけ確認するつもりが、読めば読むほどその奇抜な物語に引き込まれてしまったのです。
結局そのまま、最後までその小説を読み終えてしまったのでした。
小説の内容は、こんなものでした。
とある上流貴族の、一人娘として生まれた女の子。
彼女は幼い頃から大切に育てられ、何でも思い通りになるような生活を送ってきました。
その結果、彼女はとても我儘な性格に育ってしまったのです。
そんな彼女は、ある時ふと気が付くのです。
この世界は、自分が前世で読んでいた物語の中の世界なのだと――。
そして、その作中での自分の立ち位置は、悪役令嬢と呼ばれるヒロインを害する性悪な存在。
そんな悪役令嬢は、物語が進むにつれて婚約者や周囲の殿方から疎まれていく事になる。
つまりこのままでは、彼女は転落し破滅する運命にあるという事に気付いてしまったのです――。
だから彼女は、その運命に抗うべく考えを改めるようになりました。
自らの転落を阻止するべく、接する人全てに対して優しく接し、それまで我儘の限りを尽くしていた婚約相手の貴族の男の子に対しての悪態も取りやめました。
するとどうでしょう。
本来は彼女を転落させるはずだった周りの人達が、彼女の事をとても愛するように変化し、彼女はめでたく婚約相手の男の子とのハッピーエンドを迎えるのでした。
――私はこの小説を読んで、なるほどなと思いました。
同じ貴族であり、我儘な私。きっとこのままでは、この小説に出てくる悪役令嬢ように、ただ転落する運命なのかもしれない。
でも別に、私はそれでも構わなかった。
だって私の場合、全ては自業自得。
常に自らの意志で導いた結果なのだから――。
私はもう、張りぼての関係なんて要らない。
だから私は、我儘の限りを尽くしてでも人との距離を置く。
それがこれまで私が築き上げてきた、人を信用しないための一貫した捻くれた生き方なのだから――。
でも私は、その上でこの小説を読んでみて納得したのです。
それは、私も幸せになりたいとか、誰かと恋愛をしたいとか、そんなポジティブなものではありません。
私の中で生まれた感情は、ただ一つだけです。
――なにこれ、面白そう。
そう、もしこの捻くれた私が、周りに対して急に優しくなったらどうなるのか――。
きっと皆は驚くだろうし、もしかしたらこの小説のように面白い事になるのではないだろうか――。
そんな妄想をしてしまうのです。
我ながら、なんて性格が歪んでいるんだろうと思います。
これは創作の世界でも何でも無く、たった一度限りの人生だというのに、私は自分の人生を代償にしながら遊ぼうとしているのですから――。
けれど、私ももうこの我儘な振舞いを続ける事に疲れてきてしまっているのも事実です。
最近では我儘に振舞う事すらも億劫で、ただ誰も私に関わってこないよう壁を作っていた程に。
だから私は、明日から新しい自分と向き合ってみる事にしました。
この人より恵まれた容姿を持つ私が、この小説のように中身まで美しくなったその時、周囲がどのような反応を見せるのか――。
そんな事を考えるだけで、退屈でしかなかった学校生活も、今から楽しみな気持ちで一杯になりながら眠りにつくのでした。