第1話
私の名前は、セイラ・ロレーヌ。
ロレーヌ公爵家の一人娘として生まれた私は、生まれながらにして裕福な家庭で育てられてきました。
お母様譲りの銀髪に、冬に降り積もる雪のような白い肌。
そんな私は、どうやら人より恵まれた容姿をしているようで、常に周囲から可愛がられながら育てられてきました。
お父様の付き添いで参加する社交パーティーでは、同じく付き添いで来ている同年代の子達から常に取り囲まれており、私は周囲から常に注目も集めていたと思います。
それは勿論、私に対する好意があるからというのは間違いないでしょう。
……けれど私は、ある時気付いてしまったのです。
彼らが集まってきているのは、私に興味があるだけではないという事に――。
――そう、彼らは私への興味以前に、ただ親に命じられるまま私に近付いてきていただけだったのです。
みんなが見ているのは、私ではなく公爵家という爵位。
私へ向けられる彼らの好意は、みんな私の家に取り入って貰うため、親に言われた通り私に媚びているだけだったのです――。
その事実に気付いてしまった時、まだ幼い頃の私はそれ相応のショックを受けてしまいました。
彼らの事を、友人だと思っていたのは自分だけ――。
そんな残酷な真実は、まだ幼い頃の私にとってはそれなりにショッキングな出来事でした。
周りの全てが作り物。
その現実を突きつけられた私は、一つの結論を出しました。
――だったらもう、他人に期待する事はやめよう。
誰かを信じて悲しい思いをさせられるぐらいなら、最初から信じなければいい。
そう答えに辿り着いた私は、その瞬間から他人に対する興味を完全に失ってしまいました。
結局誰一人、私の事なんてちゃんと見てくれてなどいない。
みんなが私に見ているのは、私ではなくロレーヌ家という爵位だけ。
だったら私も、そんな張りぼてなあなた達を利用してあげましょう――。
こうして私は、気が付けば他人の手に負えない程の性格に捻くれていくのでした。
◇
ある日のこと。
私は親同士の合意で、とある男の子の許嫁になりました。
お相手の名前は、ルーカス・グレイくん。
グレイ伯爵家の一人息子で、伯爵家という公爵家に次いで高い爵位。
端整な顔立ちをしており、私のように性格が捻くれているわけでもない純真な印象の男の子。
客観的に見れば、申し分のないお相手なのでしょう。
それでも捻くれている私は、親が勝手に決めた相手なんて当然受け入れられるはずもありませんでした。
しかし私は、許嫁などという親同士の勝手な決め事を拒んだりはしません。
これは別に、親に逆らえないとか、何か特別な理由があるからというわけではありません。
捻くれた私がする事はただ一つ――だったら、相手が逃げ出すぐらい好き放題に振舞ってやろう、でした。
家柄がよく、見た目も申し分のない私は、基本的に何をしても許されてしまうのです。
だから私は、いつも好き勝手に振舞ってきました。
家でも通っている学園でも、私は思い付く我儘の限りを尽くしてきました。
その結果、ルーカスさんの限界が訪れるのにそれほど時間は要しませんでした。
最初は私に取り入ろうと頑張っていたものの、次第に私に対して不快な感情を態度に表すようになり、気が付けば私に対して不快な感情を表に出すようになっていました。
それから時は経ち、学園の中等部へ上がる頃には完全に私との接触を避けるようになっていました。
けれどそれこそが、捻くれた私にとっての望む結果でした。
次第に壊れていく関係を前に、私は内心で「ざまぁみろ」と楽しんでいたのです。
これは別に、ルーカスさんが悪い訳ではない。
それでも、家のためにこんな私とくっつかないといけない未来があるなんて、なんて悲惨で可哀そうなことでしょう。
捻くれた私は、その歪みきった状況を楽しんでいたのです。
まるで他人事のように――。
しかし、そんな歪な関係には当然終わりがやってくる。
中等部の卒業が迫ったある日、事件が起きるのでした――。