36 プレゼントの2
10月7日。もう学園の何処を見ても文化祭の雰囲気一色の今日この頃、とても珍しい人に声をかけられた。
正確には先週くらいから空けておいてほしいと頼まれた。用事は知れるので快諾し、今はまた門前で待っている。
「アソエルも行くんですね。」
「声がかかりました。あ、来ましたね。」
「来ましたねぇ……。」
なんか豪華な馬車が来た。乗りたくねぇ……。
「……二人とも、今日は時間を作ってくれて感謝する。まずは中へ。」
促されたので失礼する。そこには王子と公子がいた。
「……用件はプレゼントで合ってますか?」
「崩して構わない。ちゃんと防音はある。」
「ならお言葉に甘えて。婚約者へのプレゼントを選ぶ手伝いで合ってる?」
「それで合ってる。」
「公爵邸で育ててる薔薇100本、以上。解散!」
「真剣に考えてくれ。」
「多分何より喜ぶ。手書きの誕生日カードを添えると尚良し。」
「もっと真剣に……。」
「超真剣だが? ハウストルス、君が百合の花を好むように彼女は薔薇の花を好む。そしてなにより今年は彼女と気持ちが伝わった特別な年だ。これからの事や家同士の交流をこれから活発にしたいと言う意思表示のためにも家紋の薔薇を贈るのは理に叶っている。薔薇には棘があるから綺麗に一つも残さず処理すること。多ければ良いってものじゃない、100本ジャストだ。」
「わぉ?」
「それはそれは……。」
「…………なんだ、何か意味があるのか?」
「調べて? そして結局君が決めないと意味がない。何故ならば彼女は私の婚約者ではないから。彼女は間違いなく私が贈る高価な品より君の贈る手紙を喜ぶだろう。君が選び贈る事に意味がある。相手を考え趣味を想像し時には会話の中で聞いて、彼女の為に決める贈り物はきっと彼女の心を動かすさ。」
「………………特別だからこそ、何か形に残るものを贈りたい。」
「そう? なら普段は使わないけど勝負時に使えるアクセサリーとか? 髪飾りとか?」
「何故普段は使わないものなんだ?」
「では問題です。貴方は一人孤立無援の戦場にいます。その時貴方は何を頼りますか?」
「…………己の…………いや、武器……か?」
「正解。貴族の戦場はどこ?」
「なるほど、理解した。お守りのようなものか。」
「そうです。指輪は重いので却下。そうだな……誕生日までの時間が微妙だけど赤い宝石の装飾品とか? ハロルド、どう思う?」
「君はロマンチストだな。」
「うっさいよ。恋の駆け引きとかしたいならそれこそハロルドに聞くべきだ。俺は大切にするしか出来ん。ただしそれをして拗れたなら俺は今後一切君には協力しない。お嬢に協力しよう。」
「……それは私を脅しているのか?」
「はいそうです。俺は泣くお嬢を見たくない。落ち込む君も見たくない。お嬢には駆け引きが出来るかもしれないけどハウストルス、君は無理だろう?」
「……確かに。」
「なら見栄はとりあえず置いておいて私達はこんなに仲が良くて付け入る隙なんて無いと見せないと彼女を狙う男は山ほどいるぞ。」
「………………肝に命じておこう。」
「ということで。ハロルド、どう?」
「貴金属を贈るのはおかしくないね。花もおかしくはない。ただ両方贈ってしまうと少々くどいかな。」
「石は何が良いと思う?」
「魔力を帯びたルビーかスピネル。」
「魔力は必要か?」
「発色がより鮮明で鮮やかになる。婚約者への特別な贈り物でお守りならそのくらいは出しても良いだろう。」
「その辺は俺は詳しくない。アソエル。」
「確かに私が詳しいですね。女性用の贈り物の貴金属……何を作るかによって紹介する場所が変わりますね。やはり得意な分野がありますから。石は原石をいくつかの心当たりから当たってみましょう。……ところで、予算はいかほどですか?」
「法外なものでなければ構わない。」
「分かりました。何を仕立てられますか?」
「…………何が良いのだろうか?」
「適度な所だとイヤリングか髪飾り、ブローチ。」
「……ネックレスは……。」
「貴方を私の物にしたいと捉えられたいならどうぞ。」
「…………ブローチにしよう。意匠は……薔薇か?」
「それでいいんじゃないかな。アソエル、ついでだから俺も小物が入り用だ。」
「……どのようなご用向きで?」
「ちょっとした贈り物。買っても良いんだけどオーダーメイドを三つ貰ったからハンドメイドで返さないとね。あと高いと気にするだろうし貴金属はまだ贈れない。服なんかも勿論ね。だから手頃な手製の品から。」
「……何を作るんですか?」
「そうだなぁ……予定ではぬいぐるみと簡単な銀細工、ハンカチを考えているよ。」
「作れるんですか?」
「縫い物はね。編み物は作れない。あと図案は図書室で色々調べるよ。」
「……ふと思うのですが女性に手製の物を渡すのはどうなのでしょう?」
「俺の貧相な想像力じゃあ他に考えつかない。」
「…………香水?」
「考えはしたけどそれもどうかと……。」
「私も貴方のようなケースを知らないので適切な助言が出来ませんね。」
「香水はもう少し一緒にいてから贈るよ。それに今回は被るんだ。」
「興味本意で申し訳ありませんが何を貰ったんですか?」
「先輩手製の……ハンドジェル? ハンドクリーム擬きと靴とハンカチ。これー。」
「ハンカチは被るのでは?」
「逆に被らせてる。これより上手くは作れないから。」
「……ならば特別な布を用意しますか。」
「お願い。」
「ではまずは高い方から行きましょう。目的地を伝えてきます。きっと期待に答えてみせますよ。」
男四人の買い物は結構楽しく終わった。
「たまにはこういうのも悪くはないな。」
「そうだな。女性がいないと気が楽だ。」
「私は女性に囲まれていても一向に構わないけれどね。」
「田舎育ちにそこまで求めるんじゃない。」
「……もうすぐ学園祭だな。」
「心の準備はいいか?」
「勿論。ストとアソエルは?」
「私も抜かりはない。」
「こちらも情報網の準備は整いました。」
「それは心強い。各々の大切なものの為に最善を尽くそう。」
最初の山、学園祭はもうすぐそこまで迫っている。
願わくば死者が出ませんように。




