32 暴露大会
本日二話目です。
二学期が始まってその週の日曜。
俺は先輩に頼んで防音の魔道具改を借りた。いつの間にか改を作成していた。
というか学園に戻ってから先輩は色々作っている。これ使ってみてって脱毛剤も飲まされた。無駄毛だけ抜けるやつ。ちょっと恥ずかしかった。
そんな事だから体調が心配になってあれこれ世話を焼くのだが絶好調って返される。そして多分本当に絶好調。見てて楽しそうだった。
それはともかく今いるのは王子の部屋の前だ。超緊張している。流石に王族は部屋のある位置も規模も違う。
「やあ、よく来てくれた。先輩方もありがとうございます。」
「お招きありがとう。基本女子禁制だから少し手間取ったぞ。」
「ははは、それはすいません。ですが通ったのですね。」
「私がいるからな。これでも執行部部長、風紀の乱れがあったら文句を言うぞ。それが例え殿下が相手でも。」
「そうですか。どうぞ中へ。アソエル君とハウストルスは既に来ていますよ。」
俺達は中に招かれ応接室に通された。……寮に応接室があるんだよなぁ。
「使用人達には部屋から出てもらっている。あまり気を使いたくないからね。」
「ありがとうございます。」
「どれ、私は……私とプラトネスは女子二人を迎えに行こう。その方が円滑だろう。」
先輩一人だけ残すのもどうかと思ったのか会長は二人でお迎えにいった。お願いします。
「……ロレンス。聞かせてくれるんだね?」
「揃ったらですね。」
俺はちらっと防音の魔道具を見せる。私の盗聴も遮断するって説明されたからかなり高性能なのだろう。
でもそのうちその防音すら貫通する盗聴器を作りそうな気もする。
「一応勉強道具も用意しているんだ。試験対策なんかをやってみるのも楽しそうでね。」
「確かに。ですが今回は必要とならないでしょう。お茶淹れますね。」
「頼む。私はどうも上手く淹れられない。」
俺は用意されていた茶器を用いてお茶を淹れていく。……お湯が適温だ。何故?
「保温の魔道具だからだよ。」
「……今口に出しました?」
「顔に出てた。」
「……まあいいです。はい、どうぞ。」
「…………可もなく不可もないな。」
「本職じゃないので言わないでください。ここ数ヵ月で覚えたんですから。」
「でも言えないか。私が淹れるともっと香りが死ぬからな。何故同じ淹れ方をしているはずなのにあんなに違うのか。」
「分かりませんね。」
俺にはそんな細かい違いは分からない。先輩とか焼けば食えるの人なのに今日のは成功今日のは失敗、温度が香りが蒸らし時間が……と色々評価をくれる。俺には分からない。
ちょっと温度が高いとか言われて計ってみたら3℃高かったなんてこともあったからな。
俺はそんなことを考えながら適当に雑談をして待った。
30分ほど待つと戻ってきた。だが少し疲れているように見える。
「どうかしましたか?」
「変な手合いに絡まれていた。男だ。何でも君が悪魔の手先で危ないからどうのこうの。取り合っていなかったのだがとにかくしつこくてな。あまり根も葉もない噂をするようなら反省文で済まさないと言ってやったらすごすご去っていったよ。」
「………………どの手合いなんでしょうね?」
「例の手合いじゃないか?」
という辺りで防音を張る。
「会長、お疲れさまでした。」
「防音したな?」
「はい。」
「よし。さっきの話だが恐らく例の男だろう。微妙に訳知り顔で話していたからな。」
「悪魔……ね。…………さて、まずセルヴェーラ様とセルスター嬢、騙してすいません。本日の用件は文化祭の詳細などという生易しい内容じゃないです。」
「……話すんだな?」
「でないと危険です。」
「…………君が決めたのなら私は何も言わないよ。」
「ありがとうございます。」
「……私は察していたわ。」
「………………実は、私も。」
「だって貴方、隠し事するつもりがないんだもの。私達に対して異様に好意的じゃない。そして殿下が……ルドが楽しそうなんだもの。」
「私はセルヴェーラ様の様子からなんとなく……。」
「いいわよ、マリアン。貴方も崩して。」
「……殿下とかいますけど。」
「どうせ始まるのは暴露大会よ。敬語なんて使ってたら白々しいわ。きっと集まったこの人達は信用できる。ルドとストは私の幼馴染みよ?」
「…………分かりました、ヴィー。」
「それでいいのよ。貴方もいいわよ、ロレンス。私もロレンスって呼ぶから名前で。少し長いからヴィーかヴェーラでいいわよ。」
「……ハウストルス、婚約者殿が何か言ってるぞ。」
「呼び方くらい好きにすればいい。私は婚約者が他の男から愛称で呼ばれたくらいで目くじらを立てるほど狭量でもない。」
「なら私も久しぶりにヴィーって呼ぶかな。」
「そうね、ルド。というかもういちいち許可するのも面倒だから全員名前か愛称で呼びましょ。良いわよね?」
「良いんじゃないか? 私も面倒だ。本題はロレンスの秘密の暴露であって呼び方とか些細なことではない。」
「…………まず、謝りた……いや、それは卑怯だな。意味が分からないだろうから。ならまず話を聞いてくれ。聞いて混乱するかもしれないがとりあえず一通り最後まで聞いてほしい。」
俺はそう切り出した。
俺は前世のこと、ゲームのこと、記憶のこと、俺以外に同じ人間がいることを順に話していく。
「…………だから俺は分かっていて惚けたりした。自分と違う自分を詳しく知っているだなんて気持ち悪いことこの上ないと思う。そして邪神だなんて頭がおかしいと思われても不思議じゃない。しかも、その戦いに巻き込もうとしてるなんて正気じゃない。でも……言わないと危険だと分かった。だから話した。…………すまない、こんな男に少しでも心を開かせてしまって。」
「…………うーんと。多少は混乱するけどまず一つ。さらっと精霊王とか言う単語が登場しなかったか?」
「した。精霊王と話し、少しはそういう事象が起こったと確信できるに至ったんだ。」
「精霊王っていたんだね、お伽噺の存在だと思ってた。……で、君の主張としてはよく知らない人間が自分の事を知っているのは気持ち悪いだろうから軽蔑して構わない、ただ守らせてくれって事か?」
「…………そうだな。」
「なら返答しよう。まずその考えの方が気持ち悪い。」
「ちょっとルド!」
「いや、そのくらいの覚悟で言ってくれたというのは分かる。理解している。私が逆の立場で、仲を深めてしまったら罪悪感と自己嫌悪で同じことを考えるかもしれない。……ただ、私は私だ。もし友人がそんな理由でその感情は仮初めだと言ってきたら君はどうする?」
「ぶん殴る。」
「……ははっ、そうだろう? それに相手の事を知っているからなんだ。それなら私達だって軽蔑されて然るべきだ。何故なら私達は君を徹底的に調べたからな。いつまで寝小便をしていたのかまで知っている。」
「ちょっとルド!」
「私は何よりそうやって決めつけられることの方が許せないな。私にだって友人を選ぶ権利くらいある。」
「…………気持ち悪くはないか?」
「私は平気だな。だって君は私を見ているじゃないか。王子だの殿下だの次期国王だの王太子候補だのではなくこの私、ハロルドを真正面から見て話して仲を築いた。私はそれでも君を面白いと思う。だからそう俯くな。」
「…………………………あの、私空気読めてないみたいで申し訳ないんですけど普通に怖いです。」
「……やっとここに普通の感性の人が。」
「いや、貴方はまだマシなんです。ただ自分が不特定多数の男性にそういう対象として見られていたと思うと……鳥肌が。むしろ吐き気がします。今日絡まれたのもそのせいかと思うと私は怖いです。」
「…………すいません。」
「貴方はマシです。そう見てこないので。たまに凄く遠い目をしている理由が分かりました。ですが凄く生暖かい目を向けるのはやめてください。その何か大切な物を見守るような目だけは気持ち悪いです。」
「……ごめんなさい。」
「私には他の世界の出来事と割りきれません。普通に怖いです。なのでその話をしないでください。私も忘れます。そして改めてこの世界で生きてください。…………あとスリーサイズも忘れてください。もし次覚えてると知れたらヒールで足の小指を踏みますから。」
「善処します。」
「そうしたら……私と貴方は友達です。貴方は前世の名も知らぬ誰かに縛られず生きてください。そして私達の未来や幸せを勝手に決めないでください。もしかしたら私が貴方に惚れるかもしれませんよ?」
「その冗談は先輩がキレますよ? 俺がめっちゃ殴られます。」
「……ふふっ。貴方を嫌うには良い思い出が多すぎる。貴方を嫌うには貴方は私達を思いすぎている。貴方を嫌うには私達は色々と捨てないといけない。……だから私達は貴方を嫌えない。それを卑怯だなんて言うつもりはありません。貴方はもう十分に悩んだ。悩んで自分より私達を取った。私には無理です。怖いですけど……嫌いにはなれません。」
「…………ありがとう。」
「あと知ってるなら助けてください。へるぷみー。」
「無理。」
「そんなご無体な。」
「だって俺が助けたら俺の元に嫁に来るしかなくなるから。それは最終手段。……マリアン・セルスター。君には未来を切り開く力がある。だから自分で切り開くと良い。もし本当に辛いのなら隣に支えてくれる友人もいる。助けてくれる王子様もいる。とりあえずやってみない? 俺も支えるから。」
「…………こういうところに惚れたんですか?」
「その通り。貴方見込みある。」
「えー……まあ良い縁を繋いだと喜んでおきます。」
「私達は守られるだけの存在じゃない。分かったか?」
「……まあ、そうだな。言いたいことは言われたからとりあえずこれで全部水に流そう。」
俺はハロルドに軽く頭を小突かれた。
「では私も。」
それから何故か順番に頭を小突かれた。先輩や会長、アソエルまで小突いてきた。何故かメインヒロインちゃん……マリアンまでだ。
でも悪い気分ではなかった。
「……さて、邪神だったな。今の私達が戦うことになるとは到底思えないが……。内心は別として立場がな……。」
「そこはほら、ここに言い訳考えてくれる先輩がいる。」
「私が次の執行部部長になるから全員入れば良い。研究室との兼ね合いがあるから却下される可能性もあるけどその場合は後輩君を部長に据えて全員入れば良い。私は調査の同行をお願いする。そして後輩君の知識は本物。スキルが沢山取れた。そしてこんなことも出来るようになった。」
先輩は自分の影に手を入れて何かを取り出した。多分筆記用具。
「……えぇ? いつの間に。」
「私も日々鍛えてる。」
「…………魔力不全だったのでは?」
「だった。魔法、使えるようになった。後輩君のお陰。私は良い男捕まえた。」
「この際だから宣言するとロレンスは私の夫予定でもあるからな。父からは許可を貰った。父もロレンスは気に入っているからな。」
「……戦えるようになりそうだ。」
「…………あの。またちょっと思うんですけど私、本当に荒事とか苦手で萎縮しちゃって。どうやっても戦えるようになるとは思えないんですけど……。」
「それを乗り越えろなんて言えない。理由も知ってる。ただ俺達と接して少しは男性に慣れてほしい。……無理に戦う必要はない。」
「…………私、何してましたか? 武器とか魔法とか絶対無理なんですけど。」
「サポートしてた。」
「サポート……って具体的には?」
「回復、味方への補助魔法、敵への妨害魔法など。」
「私らしい……でも回復魔法なんて使えませんよ?」
「貴方も起こすのに時間はかかるんですけど……お試しならできますか。アクア、ブリーズ、ファイア。手伝ってあげられる? 魔力のコントロール補助だ。」
……肯定っと。
俺はナイフで指の腹をちょっとだけ切る。血は拭き取る。血液恐怖症でもあるからね。
「痛くないんですか?」
「痛いので治してください。」
「そんなこと……。」
「出来るよ。目を閉じて。俺の傷を塞ぐように考える。なるべく具体的にどう傷を塞ぐのかを考えて。今回は彼女達が魔力の操作を手伝ってくれる。動かし方を指示してあげて。こうしたい、こういうのは嫌って考える。血は見たくないとか痛いのは嫌とかでもいい。そして念じて。治れって。」
「………………良くなれ。」
うん、出来てる。痛みも引いた。
まだよわよわだけどかすり傷くらいなら治せる。初期の回復量1とか2とかだけど体力全体で50とかの世界だから意外と治る。
まあ俺はレベル上げてるから分からんけど。あと多分ハウストルスとかも上がってるのでは? 実戦経験あるらしいから初期の1のはずがないと思う。
「ほら、出来た。」
「………………これを、私が?」
彼女は俺の手を取り撫でて確認する。傷なんてないよ。
「そうだよ、君は天才だ。俺も必死に足掻くけどそのうち成績も抜かせてしまうだろう。心配はしなくても良い、君は不安に勝てるよ。こんな魔法が使えるのは心が優しいからだ。俺も使いたいところだけどこればっかりはどうにもならない。」
「その優しい目が気持ち悪いです。」
「おっと?」
「軟派者。」
「でも何かできて喜んでる人がいたら優しい気持ちになりません?」
まあ天才めとも思うけど。
「……なるほど。でも私、血液とかも駄目ですよ? 意識が遠退きます。」
「俺さ、無理して乗り越える必要無いと思うんだ。無理なものは無理で良いと思う。」
「乗り越えたんですね……どうやって?」
「沢山の血を見て? そもそも自覚するのでさえ血を見てだった。だからもう本当に荒療治。あれ絶対女の子にしていい仕打ちじゃないって。」
「…………血を見ると言うのは……。」
「聞きたい? 聞きたくなくてもふんわり伝えるけど。」
「……やめておきます。」
「賢明だ。……でね? ここからが本題と言うか……学園祭に魔族が来るんだよ。更には俺の同郷が手引きして学園を滅ぼす可能性もある。手引きまで行かなくとも何をするかは分からない。だから話した。普通に危ないから。出来れば被害は0にしたい。手を貸してほしい。大体会長かミラベル先生、学園長、先輩を呼べれば勝てると思う。」
「……プラトネス先輩を?」
「私結構強いらしい。目下魔法制御の訓練中。」
「この人ビックリマンだから。」
「人のことを変な風に呼ばないで。ナンパ男って呼ばれたい?」
「それは嫌ですね。」
「…………魔族か。伝え聞くだけでも恐ろしいが……。」
「多分今のハロルド達でも戦いにはなると思う。でも恐慌状態の生徒は別。更にかくし球があった場合、想定より強かった場合、ただ石に躓くだけでも死ぬ可能性だってある。だから基本は時間稼ぎと避難誘導が優先だ。可能なら話して帰ってもらうのが一番だが……。」
「…………通じるのか?」
「言葉は通じるが話は通じないだろうな。でも対話するのは重要だ。俺は魔王とは敵対したくない。」
「…………ちょっと待ってくれ。邪神を倒す前哨戦が魔王なのではなく? 話の流れからして邪神の手先なのだよな?」
「邪神はこの世界に直接干渉できない。だけど何者かを使えば干渉出来る穴を開けることができる。ただ、それも一筋縄じゃいかない。一気に意識を乗っ取れないから徐々にじわじわ侵食して理性を奪っていく。この状態の人物が俺の知る限り二人。魔王とクラスメイト。逆に言えばこのクラスメイトは魔王に近しい存在だ。多分殺せば侵食度が上がる。」
「…………まだ繋がりが分からないな。」
「では質問。何故世界は未だに存続しているか。何百年も何千年も魔王は存在しているのに。」
「……抵抗している、のか?」
「その通り。では何故とても強い魔王はやられてしまうのでしょうか。」
「…………まさか?」
「その通り。他者を使って自殺するからです。では何故魔王は毎回復活するのでしょう?」
「魔神邪神力ではないのか?」
「半分正解です。もう半分は部下が復活させるからですね。それはもう慕われている王様なわけです。……それを知った上で俺は世界のために問答無用で死ねとは思えない。俺は邪神と魔王を切り離す方法を知っている。だからクラスメイトも手遅れだとは思えない。そして始末してしまうのがどうかは分からないから精霊王に任せた。」
「…………そうか。」
「魔王も部下を大切にしている。だから対話を試みるのは色々な面で必要だろう。ただもう限界なんだ。俺達の代で終わらせないと次の次は無いだろう。……だから俺は魔王を味方に引き入れたい。俺が負けなければ人類としてそれは悪にならない。俺はこの長い戦いを終わらせたい。……そして大変土下座案件もう一つ。」
「……何故私を見るのですか? 私に何か?」
「…………魔王生存させるの、マリアンとくっつける以外に知らない。お願い、知恵貸して。」
「え、えぇ……何故私ですか。」
「貴方の知識の中で癒しの魔法が使える女性を何と呼びますか?」
「神聖魔法使い……聖女? 私がですか?」
「はいそうです。聖女様は荒んだ心も癒せるのです。俺もさっき癒された。……無理矢理どうこうしないからそんな嫌そうな顔をしないでくれ。ただそういう話もあったくらいに聞き流してほしい。魔王も疲れきってるからそのくらいしか俺が知らないだけだ。他に手はあるはずなんだ。何とか考えてみるから。そう冷たい視線で見ないでほしい。」
メインヒロインちゃんの冷たい視線にちょっとだけ悲しくなる。気持ちは分かるけど……。
「………………あれ? もしかして私もサイズを知られているのかしら?」
「身長157.4センチ。」
「忘れなさい、良いわね?」
「善処します。でも完全に忘れちゃうと危ないから……少なくとも俺の他に色々知ってる人間が最低三人いるわけで。ほんっとうに危ないから。世界とご臨終しちゃうから。少しは許してほしい。ハウストルス、怖いから構えないでくれ。悪意はない、悪意はないんだ。」
「私も身長など知らなかった。後で詳しく……。」
「言ったらただじゃおかないわ。私の全てを使って叩き潰してさしあげるわよ。」
「…………言えない、言えないぞ。個人情報だ。もし贈り物がしたいなら相談に乗るくらいならしよう。」
「そんなものまで知っているの?」
「趣味、嗜好、ちょっと恥ずかしい秘密から体型、得手不得手も知ってる。だから気持ち悪いのだと言ったのに。」
「…………他言しないなら許そうじゃない。一度言ったもの。ただ他言したら潰すわ。」
「しない、絶対しない。逆に言えばハウストルスの趣味とかも知ってる。」
「なにそれ詳しく……。」
「心当たりはないが言ったら握り潰す。」
「互いに互いの贈り物の入れ知恵くらいならする。ただ絶対に直接は言わない。約束する。あともし俺が入れ知恵したとしてもそれは相手を喜ばせたいが故なので好みのドストライクに来てもちゃんと贈り物を喜びましょう。」
「………………本当に他言したらただじゃ済ませませんよ?」
「絶対にしない。直接聞くべきだと思う。……ところで何か考え付きますか聖女様?」
「次そう呼んだら怒ります。」
「ごめんなさい、ふざけました。」
「……そうですね。そもそも私に自覚がないので何とも言えません。ただ魔王さんは聞いた話が事実なら可哀想です。」
「魔王軍の幹部が話してくれるんだけどもっと後だよ。」
「…………私に人を癒す力があるのは本当なんですよね?」
「確認もした、保証する。」
「ならとりあえずは頑張ってみます。とにもかくにも強くならなければ論外ですよね?」
「怖い思いを沢山すると思うけど……。」
「その時は……守ってくださいね? 私、本当に戦うとか無理ですから。軟弱とか甘えだとか思われるかもしれませんけど……。」
「思わない。思うやつがいるなら両手両足縛って魔物の群れに囲まれた檻に放り込んでやる。無理なものは無理だし怖いものは怖い。何もおかしなことはない。」
代われたら……とは言わない。失礼だし無理だから。
「命に代えても誰も死なせない。……俺含めて。」
「それは何に代えてるのだろう?」
「死ぬ気の覚悟。」
「……まあいいか。色々話したけれど結局のところ益々精進しましょうってことだろう?」
「いえす。出来れば来年か再来年の夏あたり空けて欲しいなー……なんて思ってみちゃったりもする。」
「私も公務があるからな……おいそれと確約は出来ない。」
「なら移動手段は来年までに私が考えておく。もっと早く動く方法。往復一週間は遠い。」
「それは助かります。恐らく私とハウストルスは丸一ヶ月空けられない。」
「私は……何か用事を用意していただければ。帰りたくはありませんから。きっと冬に怒鳴られるんでしょうけど大丈夫です。」
「私は……ストが来ないと行けないわよね。私も色々やることはあるから時間の都合が……。」
「いざとなれば丸一ヶ月私の権限で休学。」
「ならば成績は私が面倒を見ようか。これでも未だ首位だ。三年分の必須科目なら教えられるぞ。」
「覚えてるので大丈夫です。」
「私も学習自体は終わっているな。」
「私もそうね。」
「私も三年分困ることはない。」
「僕も一応一通りは。首席を落としたくありませんでしたから。」
「私も一応さらっと……特待生落とすと通えなくなるので……。」
「…………なんだこの集団は。いや、私も入学時で三年間困るような学習はしていなかったが。」
「一応は学園トップメンバーなので。俺もやっと場違いでも無くなってきましたよ!」
「そうだな、夏は頑張ってたものな。特に八月。プラトネスの手伝いをして執行部の手伝いをしてダンジョンに出掛けて鍛練して。私も少し心配になったぞ。筋肉痛でダンジョンに行くんだからな君は。」
「だって約束がありましたから。筋肉痛は伸び代です。酷い炎症は起きていません。」
「……筋肉痛であれだけ動いていたんですか、ロレンスは。」
「あれは慣れ。七月に筋肉痛で人背負ってダンジョン10キロ120分走をやったときよりマシ。あれは翌日キツかった。それでも普通に特訓されたから……。」
「……そう聞くと君も大概とんでもないことをやっていたな。」
「忘れて。汗臭かったでしょ。」
「別の意味でヤバかったので忘れられません。なぁ、アソエル?」
「僕に振られても困るんですが……少しは心中お察しします。」
「あれだけやってまだ本腰入れていない貴方達に負けるようなら俺は死んでしまいます。お願いなので追い付かれておいてください。」
「君は夏に何をしていたんだ?」
「ダンジョン巡り。死ぬかと思った。毎日筋肉痛で馬車に揺られ、地下に潜ったり洞窟入ったり森に入ったり。会長や先生には叱られ、剣を振るって魔法を鍛えて。」
「……休みとはなんなのだろう?」
「学園以外で自己鍛練出来る日。先輩達がいなかったらきっとここまでやってない。」
「……基礎体力があるものだからついな。やはり男だ。素直に弱音も吐かずやり通したのは称賛するぞ。それでこそ私の婚約者だ。」
「ありがたいです。」
「…………なぁ、ハウストルス。婚約者ってこんな互いの実力を認めあうライバルであり親友みたいな仲だったか?」
「あながち間違っていないな。私も常にヴィーには負けぬよう精進している。」
「そうね。次も負けないわ。」
「次は私が勝つ。まだ一勝一敗だ。」
「聞いた相手を間違えた。……なんてことだ、適任がいないじゃないか。」
「少し外れているのは理解しているよ。政略結婚であれば婚約者はもっと穏やかに愛を育むのだろう。だが私達は良くも悪くも普通じゃない。私はまだロレンスに抜かれるつもりはないがロレンスは私と並ぶらしい。私自身可愛いげのない性格だからむしろ望むところだと鍛え直している。」
「実に素晴らしい婚約者だろう? どうせ生涯付き添うなら頼りにならない女性よりこのくらい聡い女性の方が魅力的だと思うんだ。なぁ、ハウストルス?」
「そうだな。私達は貴族だ、結婚には大なり小なり政治的な何かが絡む。しかし互いを尊重し、支えあえる存在であれればいいと思っている。私は勿論婚約者を守るが私もまた随所で支えられている。彼女がいるから自らを高められる。私にとって婚約者とは愛すべき女性であると同時に共に人生を歩むライバルでもある。纏めるなら私の婚約者は愛おしい。」
「…………まぁ。普段は仰らないのに。」
「これは私の同族だ。」
「…………うへぇ。男二人で婚約者自慢とか私に対する当て付けか?」
「では僕が妹自慢を挟みましょうか?」
「いらない。……婚約者、か。」
「ファイト、王子。俺は陰ながら応援してるZE。」
「殴ってやろうか。」
「へっぽこ王子に殴られるほどやわじゃないやい。悔しかったら強くなるんだな。お前の魔法属性は雷だ。強くなれば簡単に殴れるぞ。」
「まあ強い女性がいいか守りたくなる女性がいいかは置いておいて。来年の予定も軽く立てたし今年はもう各々自己鍛練と警戒しか出来ない。来年は大変だぞ? 今のうちに鍛えるんだ。特にハロルド。」
「……私、か?」
「一番危ないのはハロルドだ。そして自己鍛練が一番効果があるのもきっとハロルドだ。俺はお前の強さを知っている。だがまだ弱い。俺に負けるようじゃ何もなせない。諦めるなら俺が守るから後ろで守られておけ。」
「…………君も結構いい性格をしているよね。」
「どっちにしても覚悟はいる。何もしない覚悟か何かを成す覚悟だ。何もしないのなら目の前で大切な人が傷ついても歯噛みすることしか出来ない。逆に何かを成そうとするのなら膨大な努力と自分の命をかける覚悟がいる。中途半端が一番駄目だ。互いに一番危ない。いざというとき信じきれるか、疑い抜くか。憶測と願望は死を招くぞ。」
「何もしないなら宛にしないが変に手を出せば宛が外れるかもしれない、それは危険だ……と言うことかな?」
「悪く言うならそうだな。」
「…………命を懸ける覚悟なんて簡単に出来るものではない。」
「全く逆でもいいぞ。戦場で絶対に死なない、死なせない覚悟。正直もっとキツいと思う。臆病ではなく勇猛でいないと邪魔になるからな。」
「私はそっちだな。もちろん命は張る。そうしないと誰も救えないからな。そうしないとハロルド、君が遠くにいってしまうからな。隣で掴んでおかないと。もし行こうとしたら引っ張り戻すために。」
「まあ正直な話、貴方達を守るためなら咄嗟に体は動くでしょうね。死ぬことよりも死なせることの方が辛い。」
「……私も今言われた方がしっくり来るな。死なせない覚悟、か。」
「随分と重い覚悟をしているのね。」
「話した時点で巻き込んだ。巻き込んだ全責任は俺にある。死は自己責任だなんて言わない。何十何百何千の屍を築いたってやらないといけない。たらればで後悔して、でもだからこそ必ず成さなければいけない。この先の何万、何十万の命のために。自分の大切なものを守るために。……俺は、それを背負って生きていく。知ってる俺に課せられた代価だ。」
「……貴方、本当に同い年?」
「前世享年十七歳、今世十六歳。五つの時に頭を打って前世を思い出した。合わせたら二十七になるがそもそも俺の自意識として連続していないから意味はないと思う。」
「…………死んだんですか?」
「多分ね。電車……鉄で出来た数十台分くらいの重さ、大きさの馬車が目の前から突っ込んできた感じ? 意識はぶつかって凄い衝撃に襲われたところで途切れてる。生きてると思う?」
「…………思えませんね。」
「だからかもしれない。勿論俺は俺でロレンスなんだけど……人間って死ぬときは本当にあっさりと死ぬんだよ。ちょっとした買い物の帰りだったり、学校の帰りだったり、子供を産んだときだったり。だから諦めてるところがあるのかも。そして……だからこそ守りたいんだろうね。物心付く前に失ってるから失う辛さとか分かんないんだけどさ。でも限られた人は大切にしたい……って神妙な顔しないで、暗くしたいわけじゃないの。そりゃあ振ったのも答えたのも俺だけど!」
「……貴方にとって私達はそんなに大切ですか?」
「大切だよ? 前世のことが無いと言い切れないのは残念だけど……友人を失いたくはないな。」
「…………ロレンス。ちょっと君抜きで話をしたい。出ていてはもらえないか?」
「………………いいですけど……ハロルド、俺どこいればいい? 外は出たくないんだけど。」
「この隣に第二応接室があるよ。」
「ならそこいる。」
俺は会長に言われ一人寂しく出ていった。話ってなんだろうか……?
続きます。




