30 お茶会
本日二話目です。
俺達は馬車を降りて案内に従って歩いていく。
そして馬車を降りたせいで緊張がぶり返してきた。
ちょっと堅くなりながら中庭的な場所に案内される。
王子がにやにやしている。文句を言いたい。
「ようこそ私の茶会へ。個人的な集まりだ、楽にしてくれ。学園の集まりなのだから身分もそこまで気にしなくていい。サンドブルム会長とプラトネス先輩もどうぞご自由になさってください。」
「改めて本日はお招きくださり光栄です、ハロルド第一王子殿下。」
「私も本日の誘いは嬉しく思う。歓迎パーティーでは出来なかった分、これからを担う下級生と交流できる場は大変ありがたい。……本日はありがとうございます、ハロルド第一王子殿下。」
会長の口調が急に変わった? 王子も疑問に思ったようで聞こうとしてる。
「急に…………あぁ、カンダルフ卿。」
あぁ!?
師匠本当に来た! 正装だ! 格好いい!
ただし師匠は家族ほったらかし仕事おサボりマンなのでまだ許してませんよ!
「ご機嫌麗しゅう、ハロルド殿下。」
「あぁ。何か用事だろうか?」
「本日の護衛が私なのです。」
「……カンダルフ卿が?」
「少々込み入った方もいらっしゃることですし私が適任との判断を下しました。」
「…………ガンダルフ卿も混ざるか?」
「いえ、職務中ですので。」
師匠、休みはー? おサボりの影響で長期出勤ですかー?
俺はアイコンタクトを飛ばしてみる。すると仕事中と返答が来た。多分間違ってないと思う。ちぇぇ。
……あ、王子からアイコンタクトが。何々?
うーん、こいつどうしようみたいな内容かな? 視線の動きだけって読みにくいね。
なので俺は味方と口パクで返す。
角度的に見えにくかったかな? でも見易くしてもあれだし。
「そうか。ではガンダルフ卿、お願いする。」
「はっ、畏まりました。」
やっぱ絵になるなぁ。なんでゲームに出なかったんだろう?
「さて。知った仲で挨拶はあまり長引かせたくはない。他学年の先輩方もいることだしお二人に学園祭のことでも伺わせていただこう。」
「私は昨年は当然のように参加しておりません。」
「いいえ、参加はしておりますよ。研究室として成果発表をしていたでしょう? それと私が飲食物を持ち込んでいます。学園祭では食堂での食事は勿論の事ですがそれ以外の場所でいただくことも出てきます。その様な場合に対応するため食堂では特別に持ち運び可能なバスケットと軽食を販売しております。」
会長が敬語を使っている……。
「…………思い出しました、去年の学園祭。参加していないと思っていたら良い記憶ではないので忘れていたのですね。」
「そうです、その時です。詳細は伏せますね。他にも各部毎に出し物をしていたりもします。学生は各々部活動であったり個人であったりの出し物を計画から立案、手配や実行を自らの手で行います。既に出し物をする方は提出と内容、場所の確定まで行っているでしょう。」
「そうですね。私は軽く小物の出店をしますが商品の確保までは済ませています。」
いつの間に……そういえば学園祭って確かに限られたルートでデートイベント以外にも販売ミニゲームあった気がする。かなり限られた状況下だけど……。
あとあれだ、学園祭と言えば最初の罠。学園全滅エンド。
行き倒れている人がいて助けると暴れて全滅。放置も被害大。
これは最終的には対話して倒すが正解。犠牲は立ち回りと操作キャラ次第。
ただ、正直これはどうなるか読めない。
対話しないと魔王ルートが遠のく。でも犠牲も出したくない。あとゲームだと何時から何時で侵入だったから正確な時間が分からない。
不確定要素もあることだし各自用心してもらいたい。いざとなれば会長さえ呼べれば、呼ぶ時間を稼げれば勝ちだ。
「とは言えほぼ開園記念のお祭りです。外部から人を入れ学生達が好きに動くので毎年少々厄介事は起こりますね。ですが羽目を外すことがなければ自由度の高い行事ですので是非にお楽しみください。」
「警備面では我々も人員を送ります。ですがこちらも学生主体ですから出入の管理であったり軽い巡回等が主な仕事となりますね。今年はハロルド殿下もいらっしゃいますから私も参ります。」
師匠来るの? ハロルド付き? 窮屈そー。
事実ハロルドもこっそりとうえぇみたいな顔をしている。
「警備でしたら私も臨時で入りますね。生徒執行部臨時部員のような立場ですので任されるのは簡単なことではありますけれど。」
「それでも助かります。去年はそもそも絶対数が足りなくて……一昨年は上級生の方と協力してなんとか回せたのですが今年はどうなることやら。」
「その警備の人員というのは誰でもいいのですか?」
「私が任命できると判断できる者であれば問題ありません。しかし危険性も考えられる業務ですので二人、及び三人行動が原則ですね。ロレンス君に関しましては既に執行部の雑務を時々お手伝いいただいていますから顔見知りで連携も取れるであろうと言う面もあります。」
「なるほど。……ハウストルス、ロレンス、私。この三人で業務の一部を任せてはいただけませんか? 来年、再来年の執行部を担う可能性がある以上、業務に触れておきたいのです。お忙しいとは思いますが……。」
「……ふむ。騎士団長殿はどう考えられますか?」
「王家の人間が執行部の部長に就任すべきかは賛否両論あるところですが個人的観点から意見を述べるのであれば私は賛成しますよ、執行部部長。」
「なるほど。ではお任せしましょう。詳しい業務の説明は……ロレンス、出来るな?」
「大丈夫です。」
「そうなるのでしたら可能であればこの場の全員にお願いしたいです。今年度の二年生は執行部に協力的とは言えません。一年生の上位は優秀と聞きますし是非一度忙しい執行部を体験してみてほしいと思います。きっと印象とは違う地味な作業が多くを占めていますよ。」
「……それは、私達もですかしら?」
「そうです、リリエルトン嬢。」
「私に勤まるかしら?」
「私がヘルプに入りましょう。」
会長がお誘いしたので自分がヘルプに入って回すことにした。
「……それはかなり負担が増えますがいいのですか?」
「構いません。学園祭の予定は今のところ執行部の手伝いしかありませんので時間が上下しようと大差はありません。では私が勝手に配役してしまいますがハロルド殿下、ハウストルス様、私。プラトネス先輩、リリエルトン様、セルスター嬢、アソエル殿と私で分けては如何でしょう?」
「………………私は、荒事が苦手なのですけれど。」
知ってるよ、メインヒロインちゃん。でも仕事は荒事だけじゃない。
「後半は事務のお仕事を多くお手伝いいただこうと思っています。初めての方が多いので業務効率的には多少の多さは関係ないでしょう。」
「事務方に五人は多いですね……。」
「私は荒事は大丈夫ですわ。」
そ、れ、は……ちょっと面子がやべぇですよ?
「騎士団長様は如何にお考えですか?」
「……女性を荒事が起こるかもしれない場所で警備につけるのは私も簡単には首を縦に振れませんね。」
「これでも魔法の扱いは自信がありましてよ?」
そりゃあお嬢は弱くないよ? レベル1でも強いよ?
でもね、そんなことしたらハウストルスに縊り殺される。
「……私はいいと思う。」
うえぇ!? 何故!?
「騎士団長殿がいるのであればむしろこちらの方が安全だ。」
「…………わかりました、そうしましょう。前半と後半、警備と事務に分けてもう一方は見学程度で済ませていただきます。流石にこの人数の未経験者を体験させるのには人員が足りません。ロレンスにはかなり負担になってしまいますが……。」
「私が落ちれば良いのでは……。」
「来年の執行部部長の有力候補が何を言いますか。」
先輩が抜けようとするので阻止をしておく。
「……ロレンス君は大丈夫ですか?」
「この場の方達でしたら不可能な場合や理解の及ばないまま進められることは無いでしょう。私も下された指示を砕きながらお願いするだけになりますので負担は多くありません。正規の部員でもありませんから振られる仕事も単純なものか重要度の高くないものです。こなせますよ。」
いざとなれば事務は俺が全部担えばいい。でも多分大丈夫だ。
だって……学年次席、三席、一つ上の学年の規格外。処理能力やべぇって。
「…………事務ってどのようなことをされるんですか?」
「書類の内容を読んで確認したり計算したり確認したり確認したり確認したり確認したり。とても地味です。でも間違えると運営に差し支えるので注意してください。私も一度計算を間違えて……というより予算の齟齬に気づかなくて叱られました。」
「ああいうのがあるから新人には多くを任せられないのですよね。在学中に交代してほしいのは仕事の監督を私が出来るからです。」
「それって……。」
「平たく言えば横領ですね。部費の申告の違和感に気付かず計算だけしてしまって会長に叱られました。部活動には学園側から支援費が出ます。多くはありませんがそれを見抜くのも仕事です。今回は二重どころか三重で確認が入るので安心してください。皆様の確認の後私が確認、さらに正規の方にも確認してもらって会長に回り確認です。たまに反省文も混ざりますがこれはもう初めから私に回してください。」
「ロレンスは甘いから駄目です。」
「反省文自体にはあまり意味はないじゃないですか。内容に齟齬がなくてその後改善されていれば終了なのですから。」
「……学園祭で反省文は出ないでしょう。出るのは膨大な出入記録と金銭報告だけです。後日ではなく当日なら売上報告も中間報告ですから纏める作業が主でしょうか。」
「纏めないと分からなくなるので大事ですね。」
「……学園祭の話をしていたはずなのにいつの間にか仕事の話になるのは私達では仕方ないことなのだろうか?」
王子がボヤいているが仕方ないだろう? 執行部に一年生はまだいないのだから。
良くも悪くも二年近くの期間ワンマンチームだったからなぁ……。
「大丈夫です、半日以上は空きますよ。会長も視察に出ますし私も後半が終わったら少し回ります。」
「では私達もその時回ろうか。」
「……そうです、アソエル殿。出店は大丈夫ですか?」
「午後に出しましょう。その後ロレンス殿にご同行させていただきますよ。」
「私達とは私と君とアソエル君とハウストルスだよ。」
流したのに……。
「…………よろしくお願いいたします。」
「うん、こちらこそ。だからハウストルスはその前に済ませるんだよ?」
「……お気遣いありがとうございます。」
済ませるってなんだ済ませるって。
…………あぁ!? お前もしかして途中から読んでたか!?
……にやっじゃないんだよ! そうか、そこまでにデートは済ませておけと……。
そうだこいつ王子だった! きっと私の話術は上手いだろうと言ってるぞ!?
「もう少し話は聞きたいけど今日はお茶会だ。仕事の話はこの辺にしてもっと別の話で楽しもう。詳細は……そうだな、学園で二学期が始まって最初の日曜日、9月9日なんてどうだろう?」
読んでたなぁぁ!? 詳細は置いておいて!
「……まあ? 随分と仲がよろしくなられたのですね。」
「私は楽しいよ。」
「分かりました、私は構いませんわ。皆様もいらっしゃるのでしょう?」
うっわ、何かを察して封殺したよこの人。少なくとも俺とメインヒロインちゃんに拒否権がない。
一番不確定なメインヒロインちゃんを封殺してくれたのは助かったけど……何を察したんだろう……?
「………………予定はありませんので空けておきます。」
以下略。全員賛同したね。第一王子殿下のお言葉だもの。
そんなわけで話題は最近の授業の話に移り変わっていった。
二時間ほどすると緊張も解れてきて楽しげな笑い声も少し聞こえるようになってきた。
俺もなんだかんだと楽しくなってきた。王子が自慢気なのが少し癪には障るがそれも含めて楽しめていた。
そう、楽しめていた。
「……おや?」
その声を俺は知らない。もしかしたら違う人かもしれない。
でも俺はこの背後の人間のことを好きにはなれなさそうな予感がする。
「何故こんなところにいるんだい、プラトネス。」
「…………何かご用ですか、シュエルム・ミネリクト様。」
「なんだ、他人行儀だな。たった二人の兄妹じゃないか。」
確定した。その気色の悪い笑顔と声をやめろ。
まだ対面すらしていないが声と態度で表情までもが既に分かる。俺は既にお前のことが嫌いだ。
「ご用もなにも見かけたから声をかけただけさ。去年も今年も戻らないじゃないか。……おや、殿下。ご機嫌麗しゅう。ハウストルス様とセルヴェーラ様も。騎士団長殿もいらっしゃるではありませんか。どのような集いなのです?」
「ただ知り合いで茶会をしていただけだ。」
「左様でしたか、それはとんだ失礼を。私は妹と少々話がありますので席を外しますね。」
先輩の話など聞かず先輩の腕を掴んで連れていく。先輩は抵抗せずに連れていかれたが……一瞬、こちらを見た。来るなと言われた気がする。
「殿下、場も静まったことですし私は少々花でも摘みに。」
「……そうか、案内しよう。こっちだ。」
俺達は普通に先輩達を追う。その途中で音を遮断するように空気の膜を張った。
「ブリーズ、頼んだよ。音と気配を消してくれ。……ハロルド、助かった。というか助けてくれ。」
「良いだろう、そのつもりで連れ出された。」
「ありがたい、俺じゃあまだ止められない。絶対に手を出すから止めてほしい。」
「もちろん。私もあの手合いは嫌いだ。」
「察してるようなら何より。っと、いたぞ。」
俺達は角から様子を伺う。
「…………何ですか、話とは。私には話すことなどありません。」
「何ですか……だと? お前がふざけたことをしているから以外にあるのか、無能。」
もう早速手が出た。先輩の髪を掴み上げている。
……まだ、駄目だ。抑えろ、抑えろ。
「ふざけたことを言っているのはどちらですか。」
「お前以外いないだろう。」
「何ですか、利益の半分を寄越せって。乞食でももっとマシなことを言いますよ。」
「……調子に乗るなよ、無能ごときが。」
「う"っ!」
……先輩が蹴られた。俺は強く、強く手を握って抑える。王子を見ると俺の肩を軽く叩いて歩いていった。
「……おや、殿下。どうなさいましたか?」
「いやなに、友人の案内だよ。欠員が出て場が白けてしまったので所用にね。それよりプラトネス嬢はどうした?」
「あぁ、貧血のようですよ。」
「おっと、それは大変だ。医務室に運ぼう。」
「私も手伝います。」
俺は軽く礼をしたまま言葉を発する。大丈夫だろうか、声は震えていないだろうか。
「いえ、妹は私が。」
「彼女は私の招待客だ。万が一があったらいけない。」
俺は笑顔を張り付けてそれに続く。これも叩き込まれた。何を思っていても笑顔でいろと。
俺は先輩を背負い上げる。
「ではシュエルム卿、失礼する。ホストが長く空けるわけにもいかないからな。」
王子は本当に医務室らしき場所の中にノックして入る。
「……ハロルド殿下。いかがなされましたか?」
「貧血らしいぞ。少しベッドを貸してくれないか。」
「えぇ、もちろん。栄養剤なんかは……。」
「必要ないだろう。軽い鎮痛剤をくれ。」
「鎮痛剤……ですか。」
「貧血らしいからな。又聞きだ。他言は避けるように。」
「……かしこまりました。貧血の、鎮痛剤ですね。」
「特に腹回りに効くといいな。」
「ベッドはそちらをお使いください。」
俺は指定されたベッドに先輩を寝かす。
「……何で来たの。」
「靴脱がせますね。」
「何で来たの。」
「苦しくはありませんか?」
「答えて。」
俺は一瞬だけ防音を張る。
「知ってて放っておけるなら男じゃない。…………守れなくてすいません。」
俺は防音を解いた。実に一、二秒の出来事だ。
「……そういう子だよね。…………はぁぁぁぁぁ、痛かった。殿下もありがとうございます。」
「大丈夫か? 私ももう少し早く入れば良かったな。悟られぬ方が良いのだと思って少し遅らせた間に起こった。」
「大丈夫ですよ。過去はもう少し酷かったですから。」
「………………私もああいうのは嫌いだ。絶対に殴ると言った理由が少し知れたよ。」
「言ったんだ。……そう手を握り締めない。血が出てるよ。」
「気のせいです。」
「そんな意識が朦朧とするような痛みじゃない。」
アクアが先輩を自主的に冷やしてくれているようだ。
俺の血も綺麗にしてくれている。
「……私は退散しよう。」
「俺も出ます。」
「君は……いや、そうだな。」
「私も少し休んだら戻ります。お気になさらず。」
俺達は部屋を出た。
「……俺が足りない理由が分かっただろ。」
「そうだな。今回は私も背負おう、そう気を落とすな。」
「気は落としていませんよ。殺意が沸いただけです。」
「……私も君は怒らせないようにしよう。」
「……花でも摘んで帰りましょうか。摘めそうな花はどこにありますか?」
「中庭の花でも摘むといい。」
「では戻りますか。」
俺達は戻り、しばらくして医務室にいた医者のような人に付き添われた先輩も戻ってきたが元の雰囲気には戻らずそのまま解散となった。
なお、摘ませてもらった花は研究室で暫く咲いた。
お疲れさまでした。




