28 火山
四話中ラストです。
7月も後半になってきて時間が無い感じではあるが俺達はせっせとダンジョンを攻略していく。
せっせせっせとスキルを拾い、そして7月31日と実にギリギリのタイミングで火の精霊王のダンジョンに入れた。
「さて。ここの条件は最短です。通路を三分割してその中央から出たらリセットです。階層は五なので長くはないですね。順番は会長、先輩、俺、先生です。会長、お願いしますね?」
「任せろ。……ところで、大丈夫か?」
「大丈夫です、杖つけば。」
今日ーもー、いつもの、筋肉痛〜。今日は特に酷いです。
最近、アクアが筋肉を冷やしてくれて筋肉痛が少しマシになってたからか昨日はキツくてヤバかった。あと一歩で肉離れ起こしてたと思う。
会長も先生も少し慌てていたのでちょっとやり過ぎたのだろう。
アクアが現在進行形で冷やしてくれているが今日はゆっくり歩くことにした。お許しは出てる。
足がプルプルしてしまうので杖という名の角材……先生の棍棒擬きをついている。
背負われる提案もあったが丁重に断った。流石に情けない。
なので今日の俺は先輩より役に立たない。先輩は最近制御のコツを掴んだのか実力がメキメキ伸びている。
そんな状態で俺達は突入した。
敵は闘牛みたいな奴。普通に強い。
このダンジョンはとてもシンプルだ。時間制限も凶悪な罠も出られなくなるような迷路もない。
ただ動ける場所が限られていて敵が普通に強い。
勝てないほどではない。横から攻撃すれば難しくもない。ただ、突っ込んでくるのを避けられないから面倒臭い。
そういう敵なのだが先輩が次々落としていく。ズルいと思う。
時には会長が切り伏せる。正面から。止めた瞬間えっとなった。
あとは燃やす火力も確認しているようだ。ここまで熱いです。
敵も黒こげ。焼き肉のいい匂いを残して消えた。
そんな感じで持久走よりよっぽど苦もなくボス戦まで通過。
ボス戦は特に道の指定もないので普通に倒す。敵はミノタウロスだったが先輩に食べられていた。
そして壁を抜け白い空間も抜ける。
杖あると楽だわぁ。階層を変える階段だけはキツいけど。
流石に階段は手を貸してもらったからなぁ……。
無駄なことを考えているうちに膜をくぐる。俺はいつものように振り返った。
「お疲れ様です。ようこそ、ハズの山へ。ここはマグマが見える火山で自然の雄大さを感じることが出来る場所です。ある意味綺麗ですね。そしてとんでもなく暑いですね。」
「また人間か。……ようこそ、ハズの山へ。お前達は……聞いていた奴等か。話は聞いている、精霊王の住処の四ヶ所目か。」
「…………また、ですか?」
「来たぞ、もう一人。追い返したがな。」
「…………どんな人でしたか?」
「魂がこの世界のものでなかったな。それと真っ黒だった。普通に力を与えられなかったから面倒になると踏んで追い出した。」
「…………何、普通に話してるんですかぁ? 恐怖とか、闘争心とか、何かないんですかぁ?」
「無いですよ。格好いいですよね、ドラゴンとは思います。」
火の精霊王さん。唯一の人型でない人。……人?
まあドラゴンだ。デカくてゴツくてカッコいい。
「そう言われるとちょっと興奮してますね。いやぁ、本当にカッコイイ。きっと魔物のドラゴンと遭遇したら焦りますし戦うか逃げようとしますが火の精霊王は目が理性的ですからね。この圧倒的な存在感、圧倒的な力強さ、圧倒的な熱量。格好いいですねぇ。」
「…………そこまで褒められると人間相手でも照れる。」
「結構ドラゴンって好きなんですよ。格好いいじゃないですか。精霊王、お嫌でなければ背中に乗せてはくれませんか?」
「貴様が乗ったところで風で飛ばされる。」
「ブリーズに頼みます。」
「……風の精霊か。貴様らは力を欲して来たのではなかったのか? 黒髪の女は……まだ駄目か。」
「お願いします。」
「良かろう。」
今回は赤い玉が胸に吸われた。少し目に優しくなかった。赤って主張が激しいよね。
ちゃんと先生にも精霊が吸われていったよ。精霊さん、ありがとうございます。
「…………む? そこの娘、炎か。珍しいな。それに……いや、これはいいか。」
「そうだ、その炎とはなんなんだ?」
「火の上位だな。ただの火のようだが別物だ。……どれ、少し見せようか。」
火の精霊王さんサービスいいー! かっこいー。
「この二つの火球、火と炎で出来ている。違いが分かるか?」
おんなじにしか見えません。
「魔力の性質が少し違いますねぇ。それと込められている魔力もぉ。」
「魔力は私も分かる。」
「それは私も分かるな。」
「分からないの俺だけですか……。」
「感知が甘いですねぇ。頑張りましょぉ。」
「頑張りますけど。」
「さて、これを使うとああなる。」
火の精霊王はその辺の岩にその火球を投げた。投げたと言っても元から浮いていたものが飛んでいっただけなので少し違うだろうか?
片方はその場で少し燃えて消えた。ぶつかった場所は少し焦げている。
もう片方は……その場で激しく延焼し、爆発した。
「これは一例だ。火より自由度が高いと思っておけば良いだろう。」
「なるほど。大した違いはないのだな?」
「高い火の適性とでも認識しておけばよい。」
「ではそうしよう。」
「それと、そこの男。やけに親和性が高いな。私の属性は少しだけ低いがそこの精霊達と同格くらいならば契約できるぞ? ……む? そこの水の精霊、何を怒っている?」
「アクアちゃんはロレンスにぞっこんなんです。」
「水の……ディーか。」
「はい、来ました。それにしてもここは熱いですね。」
「私には丁度いい。」
「私達は涼むことにしますわ。それっ。」
……なんか涼しくなったけど何したんだろう?
「熱を奪いました。」
「私の得意分野を荒らすな。」
「そんなこと言っても暑いんですもの。そのうちフィーとノーも来ますよ。」
「久しぶりだな、全員が揃うのは。」
「全員で思い出しました。朗報です、光と闇が生きているそうですよ。」
「………………何? それは本当か?」
「風が言ってました。ロレンスの記憶をさらったらって。」
「むぅ……私は風ほど得意ではない。」
「相変わらず不器用なのね、火。」
「揃うのは何百年ぶりかのぅ?」
「今話題に出てた光と闇が隠れて以来だから数百年か。いや、千を越えていたか? 覚えていないな。」
「とにかく。生きていることが重要よ。彼らに起こしてもらわないと。」
「…………人間を頼るのは……。」
「私達では起こせないでしょう? 仕方ないのよ、これは。それはそれとして、火は教えたの?」
「……教えていない。」
「今回が正念場だとは思わない? 条件をつければいいじゃないの。私もそうしたわ。」
「契約にそれは持ち込めない。あくまで口約束だ。命令は拒めるが気分の良いものではない。私は二度と人間と契約をするつもりはない。」
「でも教えるだけは必要じゃない?」
「…………赤い娘。私と契約できる素質があるぞ。」
「水の精霊王に相性が良さそうとは言われていたな。だが私と貴方の考えは一致しているようだ。残念ながら私に契約の意思はない。」
「……それは、何故だ?」
「私は自分の力を信じている。与えられた力には価値も責任も感じられぬしいざというときに命を預けられない。力に振り回されることになるだろう。だから私は契約という与えられる力を望まない。ロレンス達はそれでも欲したが私には合わん。」
「…………そうなのか。前に来た人間はドロドロしていたぞ。」
「そう、それを聞かないといけないんですよ! どんな人が来たんですか?」
「……暗い奴だったな。茶色の髪に目立たないような顔、眼鏡をしていた。髪の長さは背中までで結っていたな。女だった。……酷く魂が黒くなっていて、私の加護を弾いた。その目には何か得体の知れないドロドロとした感情を感じたな。」
「ちょっと前に私の所にも来たわね。崖から落ちたわ。」
「私のところには来てませんね。」
「儂も来ておらん。」
「あれ、邪神に魅入られてるわよ。初めてみたけど、邪神の気配は感じた。あれは不味いわよ。」
「他の特徴は?」
「フレームが無くて真ん丸い分厚いメガネだったわ。」
…………………………ん?
茶髪、背中くらいまでの編んだ髪、まん丸瓶底眼鏡。目立たない感じで……。
「首の左に黒子がある。」
「あったわね。」
「…………それ、委員長だ。」
「いい……誰ですかぁ?」
「学年八位、ヒムラ・サムロック。」
「……あの子ですかぁ。」
「……委員長……委員長かぁ…………。」
「仲良いんですかぁ?」
「良くはないです。悪くもないです。接触してきたので訝しんではいました。特に差別もなく接してくる人ですが……。」
特に変には思わなかった。
先生もすり抜けてる。
それがどうにも不気味だ。
「殺せるなら殺してしまいなさい。」
「俺はむやみに人は殺しません。面倒になりますし必要がなければそれも視野に入れたくない。」
逆に必要があれば躊躇したくないけど。
「でも邪神に魅入られるってことは本人の気質もあるのよ?」
「それでもです。先生の生徒を殺したくはない。」
「……なら、どうにかできるの?」
「それを必死に考えて、殺めるのは全ての選択肢が潰えたときでも遅くないのでは?」
「遅いわ。それで取り返しがつかなくなったらどうするの。貴方達の学園、延長していけば世界が滅びるのよ?」
「分かってますけどだからと言って……。」
「分かってないじゃない。」
「フィー。もしやるのでしたらこちらが負担するべきではありませんか? ダンジョンで人が死んでも不思議には思われないでしょう。」
「そうだけど、直接は無理じゃない。」
「儂が負担する。見極め、場合によっては始末する。それは儂のところが良いじゃろう?」
「…………出来れば生かしてくれますか?」
「勿論そのつもりじゃ。風は問答無用で首を跳ねるべきだと言うじゃろうが儂はそのつもりはない。儂らの元へ来たのは偶然じゃないじゃろう。火も風もおかしなところはない、ならば本人は邪神に魅入られている自覚は無いはずじゃ。主らの事は悟らせず可能なら切り離す、不可能なら罠に嵌める。」
「…………汚れ役をお願いしてすいません。」
「よいよい。間違いなく主らに負担させることじゃない。」
「……話は纏まったな。炎の娘、貴様の望みはなんだ?」
「私の望みか? ロレンスと結婚して子を儲け、領地を守り立てて子に継がせ余生で旅行をすることだ。」
「俺の夢が発展してる!? というか会長の子が継ぐんですか!?」
「プラトネスの子か教諭の子になるやもしれんな。何、後継争いをさせるつもりはない。誰の子であろうと自分の子であると育てたいと思う。そして願わくば争わず後継を決めてほしい。」
「それは……まあ。」
「そしてな? ここからは勝手な思いつきになるのだが。色々と終わって爵位も継いで、私達が手空きになったら旅行にでも行かないか? この四人でどこかへ行って、疲れたら帰ろう。領地に小さな家でも建てて。」
「なんで俺の夢の続きなんですか?」
「私達の人生を考えたとき、きっと一番大変なのは今になるだろう。今と言っても向こう十年程だ。だがそれを乗り越えたらそれまでの喧騒が恋しくなるほど静かになると思ってな。そうなったら何を目標に進めばいいやら分からなくなるかもしれん。だから早めに自らのゴールを決め、互いに頑張ったと言い合える場所を作ろうと思ったのだ。……なんだその目は、揃いも揃って。」
「……意外だなと思いまして。」
「そうか? 私が気の強い女だからか?」
「…………まあ、そうですね。」
「私も少し考えたのだ。自らの人生とは何か、どうなりたいのか、今の私には何が大切で何をしたいのか。結論として、ロレンスの隣にいたいと思った。騎士団長になり大勢を率いるとか、学園で教鞭を執るとか。色んな進路を考えてはみたがそのどんなものよりも君を支える方が魅力的に見えた。何よりやりがいがあり、楽しそうで、幸せそうだった。だから私の進路はロレンスのお嫁さんになることにした。夫の夢が領地を盛り立てることなら発展させ、社交に励もう。そして夢が叶ったなら……共に趣味でも探そうじゃないか。そこから何かを初めても、この四人なら楽しそうだろう?」
「…………なんかその、凄く嬉しいんですけどね? 会長はそれでいいんですか? 俺としては騎士団長のお嫁さんでもいいですよ?」
「それはそのとき考える。…………………………少し言ってみたかったのもある。」
……あー、なるほど。お嫁さんが夢ですって言いたかったのか。
会長の趣味は少女寄りだからなぁ……。
「だから私の望みを言うのならロレンスと共に歩むことだな。他の何かになるのかはそのとき決める。人を率いるのも楽しいが領地経営も楽しそうだ。」
出来そうだね、会長なら。でも経営はあげないよ、俺の仕事だ。もしくは俺が任せた誰かの仕事だ。
「あとはそうだな……力が欲しいかと言う問いかけなら前に答えたやつだな。私は自らの有り様で人を元気付け、先頭を歩き道を切り開きたい。それが私だ。今はすぐ後ろに頼りになる後輩もいることだから私も負けぬよう精進せねばな。」
「会長も程々に。俺も俺よりムキムキな女性はちょっとってなります。」
「……私、力強いですよねぇ……。」
「そうじゃなくてですね? 腹筋割れてて胸筋なんて俺より堅くって、腕が丸太みたいな女性はちょっと無理なだけです。先生は抱き締めたところ筋肉の感触はありましたが女性らしく柔らかい体でした。どこからあんなに力出してるんですか?」
「……私は大丈夫なんですかぁ?」
「腹筋が部屋作ってて胸に余計な脂肪もなく腕が俺より太い自信があるなら考えますね。もしかして全部クリアしてたりします? どことはいいませんが一部の影響で達成不可能だと思いますけど。」
「……大丈夫でしたぁ。」
「はい、大丈夫ですね。あとボンボンボンと樽のような体型の方も異性としては……。先生達がそうなったら困っちゃいますけど。」
「気を付けますねぇ!」
「慣れれば大丈夫なのかもしれませんけど容姿的に一目で興奮出来るほど訓練はできていません。」
「とっても気を付けますよぉ!」
「そうしてください。肥満も痩せすぎも体には悪いですからね、俺は長生きしてほしいんです。」
「……ずるいですねぇ。」
「ちょっとデリケートな話題でしたのでフォローしてみました。俺は言ったので俺にもどしどし文句付けていいですよ。顔が地味とか、汗臭いとか、肌荒れてるとか、最近太ったとか老けたとか。」
ちょっと凹むかもしれないけど黙って嫌だなぁと思われるよりはいい。黙って嫌われたら悲しいよね。
色々気を付けてはいるけどやっぱり気になる。
「私よく言ってる。」
「何か言ってました?」
「後輩君は女誑し。」
「言われてますね。どう改善すればいいですか?」
「女性に優しくしない、可能な限り関わらない。」
「もし俺がその通りの人間なら先輩は俺と結婚しようと思ってくれました?」
「思わない。だから改善は諦めてる。言うだけ言う。じゃないとあちこちで現地の奥さんを作りそう。」
「それはないですし言うほどモテませんけど……。」
「……惚気はその辺でいいか?」
「ああ、すいません。一回始めちゃうとどうしても。まだ出来立てなので暇さえあれば確認しないと不安になっちゃうんですよね。どうぞどうぞ。」
「……炎の娘。」
「なんだ、火の精霊王。」
「……少しこちらへ来い。」
先輩が呼ばれていった。
「我の名は…………。覚えておけ。」
「……今のは契約か? しないといっただろう。」
「気に入ったからそんなものは知らん。与えられた力だとしても使いこなせば貴様の力だ。振り回されるようでは人を率いる器ではない。天より授かったものでも上手く使えてこそ人を率いる人間だろう。その程度、使いこなしてみよ。それと小僧……の前にディー!」
「あら、私? なにかしら?」
「そこの水の精霊をどうにかしてくれ。さっきから居心地が悪くていかん。」
「困ったわね、無理よ? ただでさえピリピリしているもの、貴方が精霊の話なんてしようとするから威嚇されるのよ。」
「そんなの知らん。何故ピリピリしてるんだ?」
「風の子がこの間増えたのも大反対だったのにまた増えるだなんてとんでもないもの。…………あら?」
「…………何だ、惚れているのか?」
火の精霊王はアクアに水をぶっかけられた。アクア……大丈夫なの、相手精霊王だけど。
「今のはダーが悪いわ。」
「なんだ、違うのか。……そこの人間の娘まで威嚇するな。」
「ふざけたことを言いましたから。あまり多いと独り占め出来ないでしょう。」
「………………何やら私には理解出来ん。だがお許しは出たようだぞ。ほれ、大事にしてやれ。」
「……いいの、アクア? ブリーズも。」
二人とも縦に動く。アクアは動いたのちょっとだけだったけど。
多分不承不承って感じだ。この間のを踏まえるとどうしても俺の周囲を守りたいから?
「…………なら君はファイア。」
「そんな適当な…………喜んでいる……だと……?」
「ファイアは男の子かな?」
あっつ!? ファイアに殴られたけどあっつ!?
なんか熱湯入れた器が当たったみたいだ。
火傷するほどではないけど思わず手を引っ込めたくなるくらいには熱い。
「女の子だったんだね、ごめん。精霊王が男性だったからついね。俺には一目で精霊の性別が分からないんだ。許してくれないか?」
ゆっくり縦に揺れた。
次間違えたら承知しないぞ!? って言われた気がする。
「……凄い、一字一句正解よ。」
「一回は許してくれる辺り精霊は心が広いですね。」
「分からないことは理解出来るもの。」
「これは儂も何かした方が良いのかのぅ?」
土の精霊王の言葉にアクアはまた水をかける。
「……アクア、さっきから水かけたら駄目だよ。消されちゃうよ?」
「そんなことで消しはせん。赤子に噛まれたからと言って殺そうとは思わんじゃろう?」
「可愛い独占欲よね?」
「基本は精霊の契約なぞ一人一体が精々だからのぅ。容量から言ってもそうなる。貴様のそのほぼ無尽蔵の容量はどうなっとるんじゃ。」
「光に聞かないと分からないわね。」
「闇じゃないかのぅ? 風は分からんのか?」
「穴は空いてないわね。」
「そんなもの契約出来ているのだから分かる。」
「そのくらいしか分からないわよ。物理的な空間じゃないのだから。」
「精霊王二体と契約しとるのにまだ空いとるのだから変な話じゃ。」
「彼の謎は放置しましょうか。アクアちゃん、人間にはやっては駄目よ? …………ふふっ、お節介だったわね。分かっているなら良いわ。」
「……用が終わったならば帰るといい。」
「ここは人間には暑いものね。」
「…………水はこれだから苦手だ。」
「あら? 私は結構好きよ? ね、フィー?」
「ダーは好きね。ノーは苦手よ。」
「私はノーも好きよ?」
「ディーはいつもそれね。……十年後、またこうして出来ればいいわね。」
「そういうことを言ったら負担になるじゃろう。」
「分かってるわよ。こんな問題を人間に押し付けるなんて間違ってる。でもそれしか出来ないから契約したんじゃないの。そもそも出来るのがおかしいけれどね。ね、ミラベル?」
「本当ですよねぇ。」
「またこうやって人間と話すことになるなんて思ってなかったわ。人間は嫌いだけれど貴方達には協力してあげる。ミラベルは面白いもの。名前くらいなら使ってもいいわよ?」
「そうだな、名前だけならば。戦闘はしないがな。」
「もうっ、二人とも素直じゃないわね。」
「私達は人間と関わるのなんてもうこりごりなのよ。今回は特例中の特例。契約すれば私達の力にもなる。決戦が近いのなら私達も考えるわよ。多少は気に入ったから契約をした、けれどそれで人間と関わるのは嫌よ。私達が戦えば国がどうのと言う話になって迫害されるのよ。私はそんなの嫌よ。私達と気が合うから契約できる、でも一緒にいたら迫害される。彼女の顔を私は一生忘れない。」
「ディーには分からんだろうよ。私の契約者は男でフィーとは状況も違ったが奴は最後裏切られて死んだ。私達と人間が関われば憎しみしか生まれない。」
「アクアちゃんと彼を見てもそれを言えるの?」
「だから特例を作ったのだろう。精霊は道具ではない。だが道具にしようとする人間もいる。力なき者達も関わらなくなった。私達は関わるべきではないのだ。」
「では関われる世をもたらすのは私達の仕事だな。」
「…………なに?」
「まあ……そうですよねぇ。」
「私達は仮にも契約者になった。力を与えられた。ならば私達も何かを返そう。たとえ貴方達が私達より強い存在であったとしても同じ世界に生きる隣人だ。」
「仲良くしたいものですよねぇ。」
……水を差すようだけど無理なんだろうなぁ。
そうなれれば嬉しいが人間は自然と共に生きられないし出る杭は打たれる生き物だ。
劣っていても優れていても迫害される。直接迫害できなければその周囲を迫害する。人には心があるが心がある故に迫害する。
全員少しは心当たりがあるはずだ。俺だってある。
「諦めたら無理ですよぉ。人間、道徳観を捨ててしまったら何処までも恐ろしい生き物ですよぉ?」
「……なんだ、無理だとでも思ったのか? 君がこれから成すことに比べれば些細なことだ。そもそも私達は既に迫害されるだけの力はある。突き抜ければ逆に普通になるかもしれないぞ?」
「…………全人類の意識を変えるなんて不可能ですよ。」
「私達にそれを言うのか? 初めから不可能だなんて決めつけたらそれこそ不可能だ。志は高く、夢破れるならそれまでだ。私達の名前を歴史に刻めば精霊は存外身近になるかもしれない。君が成そうとしているのはそういうことだ。情けない事をぐだぐだと言うなら蹴っ飛ばすぞ。」
「…………分かりました。やるだけやってみましょう。」
「話は纏まったか? 暑苦しくてまた来たくなるような場所ではないが気が向けば来るといい。茶はないから持参してくれ。」
「……そうですね、お暇します。そちらもお気を付けて。」
「ああ、用心しよう。……次に会うときが平和であれば私の背中に乗せてやる。精々精進しろ、小僧。」
「本当ですか!? 頑張ります!」
俺は微妙なご褒美にテンションを上げて意気揚々と帰っていった。
お疲れ様でした。




